ドリーム小説
僕がと出会ったのはいつだったか。

今となっては些細な事で思い出すほどの物でもないけど、あの時の気まぐれは今でも続いている。

どうしてあの小さな赤ん坊を僕は咬み殺さなかったんだろう。





***





匣研究の為にボンゴレの情報が欲しかった。

面倒なので直接聞きに行った訳だけど、ついでに仕事を頼まれてあげる事にした。

その途中でに絡まれたから遊んであげたんだけど。

は変な子供だと思う。

マフィアの娘のくせに正義を口にする。

そんな物、僕からすれば必要ないと思うし、必要ならば僕が正義で充分でしょ。

綺麗事ばかりを言うは僕の邪魔ばかりしてくるけど、不思議に一度も咬み殺したいと思った事がない。

父親の沢田綱吉もどこか似たような所がある。




「変な親子だ」










屋敷を出てから二日後、ようやく頼まれてあげた仕事が終わって再び屋敷内に踏み込んだ。

出て行く時に暴れた大階段は綺麗に元に戻っており、不意に頭にあの少女の姿が過ぎった。

立ち止まって軽く瞼を閉じて、何もなかったように部屋に足を向けた。

この部屋に来る事は滅多にないけど、ボンゴレは僕の部屋を用意していた。

室内は相変わらず綺麗なままだった。

窓を大きく開け放つと、急に眠気がやってきて欠伸を咬み殺しながらネクタイを緩めた。

ベッドに座るとどこからともなく鳥が飛んできて頭に座った。

確かヒバードとかいう名前を付けられていた気がする。




「僕は寝るよ」




小さくそう言えば鳥はまた窓の外へ羽ばたいて行った。

僕は素直に眠気に従ってベッドに潜り込むとすぐに夢の中へ落ちた。

どれくらい経ったのか、物音で目を覚まし、窓の外を見ると辺りは真っ暗だった。

その物音が部屋をノックする音だと気付けば、仕方なく入室を許可した。




「何の用?山本武」

「おぉ!やっぱ帰ってたか!夕飯一緒に食おうってツナがな!」

「いらない。ね・・」

寝るって言ったらが一緒に食べたいって言ってたって伝えろだってよ

「・・・・・」




大きな声でそう言った山本武に無言で返せば、いつものへらへら顔をして出て行った。

部屋を離れていく気配に僕は溜め息をついて再びベッドに横たわった。




「・・・眠れない」




原因となった草食動物を思い出して、起き上がってネクタイを締めた。

僕の邪魔をするなんていい度胸だね。







***







「わりぃ。ツナ、雲雀呼んだんだけど」

「ありがと。大丈夫、雲雀さんはきっと来るよ」




広間で夕食を摂ろうと久しぶりに多くの守護者達が集まった。

滅多に揃う事はないんだけど今日は雲雀さんが帰ってきている。

あれで雲雀さんもには構ってくれるし、来てくれるはずだ。

似合わないエプロンを着けた了平さんがの前にお皿を置いた。




「今日はチキンカレーだ」

「ちきんって何?」

「鳥さんだ」

「え?!」




あんまりが悲しそうにカレーを見つめるから隼人がスプーンを振り回して説明する。




「鳥が虫を食べて生きてるように、人間も鳥や生き物を食べて生きてる。

 これは自然の摂理だからお前が気にする事じゃねぇ」

「せつり?」

「はは、摂理ってのは決まりって事で、どの世界にもあることだな」




武のフォローでカレーを見つめるはまだ少し悲しそうで俺は苦笑した。

隼人がどうにかしようと食べられるために生まれた鳥がどうだとか言い出していたがは聞いていない。

いくらなんでもその説明は5歳児にはやさしくないと思うんだけど。

仕方ないので俺もフォローする事にした。




「だからこうやって食べる前に手を合わせて感謝して、残さず食べて鳥さんの分もが大きくなるんだ」




手を合わせていただきます、と言うと、は大きく頷いて俺と同じ様に手を合わせた。

俺の一言ではいつも納得してしまう、と守護者達はいつも苦笑している。

ホントには可愛い娘だよ。




「・・煩くて寝れやしない」




みんなが一斉に振り向くと欠伸をしながら雲雀さんが広間に入ってきた。

空いてる席に座ったのをは何ともいえない顔をして見ていた。

あの顔は何か落ち込んでる時にする顔だ。

雲雀さんはその視線に気付かない振りをして了平さんが持って来た紅茶に手を伸ばした。

てか、了平さん何で給仕までしちゃってんの?!




「きょん・・」

「・・何だい?」




それから何も話さないに雲雀さんはただただ待った。

もうホントこの人にしたらすごいよく待ってくれたと思うよ!

はお皿のチキンを転がして言いにくそうにしていた。

多分雲雀さんに謝ろうとしてるんだけどじれったい。




「この前はおはなしもきかないでいじめちゃダメって言ってごめんなさい」

「・・・・」




うん。

分からなくはない。


俺だってたまにの言ってる事が理解出来ない時がある。

案の定、雲雀さんは意味が分からなかったのだろう。

思わず首を傾げて向かいの隼人を見ていた。

隼人は眉間に皺を寄せて小声で説明した。




「10代目が理由も知らずにお前に突っ掛るなって諭されたんだ」

(なるほど。でもあの時は確かにの言う弱い者イジメだったんだけどね)

「・・・別に。それには興味が尽きないからね」




は首を傾げて隣の武を見上げた。

雲雀さんとが話すとどうも通訳が必要のようだ。


うん。

それも分からなくはない。


だって雲雀さん理不尽だし、よくメチャクチャな事言うから何言ってるか分からない時あるし。




「怒ってないってさ。良かったなー」




武の言葉にはホントに嬉しそうに笑った。

言いたい事が言えてスッキリした顔になったはキョロキョロと辺りを見渡し始めた。

何を探してるんだ?




「きょん、ヒバードは?」




雲雀さんの周りを飛んでるはずのヒバードが見当たらなかったからだろうが、

その言葉にみんなの視線はの頭に釘付けだった。

そんな中、スプーン片手に首を傾げてるに雲雀さんは笑った。

・・・そんな気がするだけだけど。

無邪気な顔をしているに雲雀さんはカップを置いて肘をついた。

それから雲雀さんはの質問に答えるように指を差した。

その指の先はに向いていた。

は雲雀さんの指と自分とを何度も見比べて真っ青になった。

嫌な予感がするのは気のせいじゃないと思う。




「ヒバードはともだち!」




突然叫んだにその場にいたみんなは、泣きそうな顔をしているに咄嗟に頷いた。

というか、何がどうなってその台詞?!

は次に隼人を指名した。




「はやと!ヒバードはたべられるために生まれてきたの?」

「は?い、いやアイツはちげーだろ」

「だよね!!」




俺は小さな手でスプーンを握り締めてフルフルしていると雲雀さんを交互に見た。

どうやら雲雀さんも分からないようで不思議そうな顔をしている。

・・・・・・・・気がする。




「どうしよう!!ヒバードたべちゃったッ!!

「「「はぁ?!」」」




その瞬間、みんながに注目した。

こうも白熱したを止められるのはもう誰もいない。

椅子の上に立ち、スプーンを雲雀さんに向けるとは大声で叫んだ。




「ヒバードはともだちだったのに、それがお前のせいぎかーッ!!

「えぇー?!何なのそれ?!」




てか一体そんな言葉どこで覚えてきたの?!

娘の錯乱にパパも大混乱だよ!

つまり雲雀さんが指差したのがチキンカレーだと思っちゃったのね、うちの娘は!

当の雲雀さんはツボだったらしく笑いを堪えてテーブルにしがみ付いていた。




「雲雀って笑うのな・・」

「うむ。極限に変な笑い方だ」

「くくっ。まるで僕が鳥を捌いたみたいに言うね」

「きょんのばかー!さばくとかいうな!!」




少し落ち着いた雲雀さんが小さく声を漏らすとは一層怒鳴り散らした。

というか、怒るがあんまり可愛くてみんな笑いを堪えているのが分かる。

怒っているのはだけで苦笑している周りにはさらに怒り出した。

そうは言うけど笑うなって言う方が無理だろ、この状況。

の向かいで今まで黙って食べ続けていたリボーンがついに口を開いた。




「誰か教えてやれ、お前の頭にヒバード乗ってるぞってな」




あ。リボーン言っちゃった。

あの時、雲雀さんが指差したのはの頭の上だった。

以外のみんなはそれを理解していたけど、ヒバードが見えなかっただけは

お皿に入っていたチキンだと勘違いしたらしい。

は思わず頭上を見ようと上を見上げると、後ろに反った反動で椅子が真後ろに倒れた。

みんなが一瞬慌てたが、大きく音を立てて倒れた割りに衝撃は少なかったようだった。

誰もが呆然としてる中、横たわったの上をヒバードが呑気に雲雀さんの元へと飛んでいった。

雲雀さんはヒバードを肩に乗せ、部屋を出て行く間際に横たわったを見下ろして言った。




「美味しかったかい、鳥?」




涼しげに言った雲雀さんの言葉が悔しかったのかは倒れたままスプーンを握り締めて叫んだ。




「やっぱりきょんなんかきらいだーッ!!」


* ひとやすみ *
・きょんが嫌われてしまいました!
 いろいろ難しいけど可愛らしさが出てるといいなぁ。(08/12/5)