ドリーム小説

目が覚めるとそこは見慣れない部屋だった。

あれっと思って起き上がると自分がいるのは病室だと気が付いた。

壁にあるハンガーにはあのパーティードレスと小さなバック。

すると病室の扉が開いてその人と目が合う。




ちゃん、目が覚めたのね」

「ママ?」

「結婚披露宴の途中にシャンデリアが落ちる事故があって、それに巻き込まれて1日中眠っていたのよ」




ママはベッド脇に座ると、まだ動いちゃダメだと私を寝かせた。

ズキリと痛んだ手首には包帯が巻かれ、確かめるように首に触れるとそこにも包帯はあった。

違う、この傷は・・・。

不意に全てを理解したはくしゃりと顔を歪めた。

・・・・帰って来てしまった。

まだザンザスに何も言えてないのに。

手首を顔に翳しては声を漏らして泣いた。

たった二文字を伝えたいだけなのに、もうこの声は届かない。




「どうしたの、どこか痛いの?」

「ママ、痛いよ。こんなに痛いなら恋なんかしなきゃよかった」




わんわんと泣き続けるが突拍子もないことを言うので思わず母は目を見開いた。

それから目を細めて恋に胸を痛める娘に呆れたように息を吐いた。




「・・・嘘おっしゃいな。何度会っても好きにならずにはいられない癖に」

「うぅ。何で分かるの?」

「ママの子だもの」

「・・・ママ趣味悪い」

「あなたもでしょ」




まだグズグズと鼻を鳴らすの頭を撫でた母は小さく声を漏らした。

そろそろ家に帰って来ないか、と。

そういえば家出してたんだっけ、と言われて初めて思い出し、ぼんやりと天井を見る。

どうせ逃げ切れるとは思っていなかったし、母がここにいる時点でやはりバレていたのだ。

は少しの間、黙り込んで首を縦に振った。







一身上の都合という事で会社を辞め、実家に帰ったは母の仕事の手伝いに勤しんでいた。

母の会社はウェディングドレスを扱うドレスメーカーで、まもなく行われるレセプションパーティーにて

模擬挙式が行われるため大忙しだった。

花屋に指示を出して全ての仕事を終わらせると、は何となく会場の奥にあるチャペルに足を運んでいた。

今回のレセプションではこのチャペルを使わないため、人の気配も全くない。

入ってすぐの席に座って独特な空間を肌で感じながら深く溜め息を吐いた。




「神様、本当にいるのならケチケチしてないでアイツに会わせてよ」




神という言葉がこんなにも似合わない男はアイツくらいだとは自嘲して目を閉じた。

そろそろオープニングセレモニーが始まる時間だと寛いでいると、突然ドアが開いて肩が跳ねた。




「こんな所で何してるのちゃん!急がないと始まっちゃうでしょう!」

「ママこそ何してんの?!時間大丈夫なの?!」

「大丈夫な訳ないでしょう!」




鬼のように怒鳴り散らした母はの手を引っ掴んで、走り出した。

じゃあ何でこんな所にいるのだと頭を捻るも全く分からない。

続々と集まる関係者の中を猛スピードで駆け抜ける二人に誰もが視線を向ける。




ちゃんにはまだ重要なお仕事が残ってるでしょう」

「え?私、任された仕事は全部・・・」

「じゃ頑張ってね!後は任せたわよ!」

「「「 はい!社長! 」」」

「え?!」




母に無理矢理連れ込まれた部屋には多くのスタイリストが待ち構えており、

目に飛び込んで来た純白のドレスには血の気が引いた。

ま、まさか・・・。

逃げる暇もなく超絶笑顔のスタイリスト達にガッシリと掴まれたはヒッと声を上げた。




お嬢様、私共が必ずや誰もが羨む花嫁にしてみせますわ!」

「ま、待って!模擬挙式に出る花嫁モデルは別にいたはずでしょう?!」

「まぁ!あの嘘を信じていらっしゃったのですか?!」

「嘘ぉ?!」

「本当に花嫁モデルがいたなら似たような体系だからと言ってお嬢様で採寸なんてしませんよ」

「え?えぇ?!」

「「「 さぁ、お着替えしましょうね! 」」」




声を揃えてにじり寄って来るスタイリストには悲鳴を上げた。






***






ガーデンウェディングのため青空の下、敷き詰められた花のヴァージンロードを歩きながら

は嵌められたと唇を噛んだ。

そうだった・・・・、こういう家族だったから家出したんだった。

ドレスの裾を引き摺ってゆっくりと進む足は重く、出来ることなら逃げたい。

アナウンスと共に入場して、新郎役の顔を見た瞬間に泣きたくなった。

あそこでニコニコしている男は間違いなく父が持ってきたお見合い相手その人だった。

一体何を考えてるんだと両親を恨みながら、進行に従い新郎の差し出す手に渋々手を重ねた。

お経のような神父の言葉を聞きながら、お見合い相手の顔を盗み見る。

目は夜色で髪は薄いこげ茶色、優しく細められる瞳や少し高めの声。

どうしても比べてしまう。

目の色や髪の色、声音や笑い方。

アイツと同じ所を探しては落胆する自分が酷く情けなかった。




「誓います」




気が付けば、新郎役がそう神父に告げておりは我に返った。

神父が再び同じ言葉を繰り返してを見た。

進行通り答えなければと口を開いた瞬間、会場がざわついて振り返ると足元に新郎が片膝を着いていた。

ギョッとしたの手を取ると、新郎がを見上げた。




「混乱させるような事をして申し訳ありません。これは模擬挙式ですが私の誓った言葉に嘘はありません」

「誓うって・・・え?」

「これは作り物の式ですが、私はいつか貴方と本当の式を挙げたいと思っています」

「えぇ?!」

「私はさんを愛しています。どうかそれを踏まえて神父に誓いの言葉を告げて下さい」




会場の黄色い悲鳴にはあんぐりと口を開いたまま、新郎が指先に口付けるのを見ていた。

ようするに、このまま進行通り「誓います」と言えば、この人と婚約ってこと?

観衆の視線を身体中に浴びながら、は混乱する頭を冷やすように思考する。

お坊ちゃんで収入は安定してるし、優しいし、カッコいいし、思ってる事きちんと伝えてくれるし、大人だし。

この人と結婚したら・・・幸せになれると思う。

だけど、私は・・・。

頭に浮かんだ男は残忍な顔で笑っていて、泣きそうな目をゆっくりと閉じた。

・・・あんな馬鹿で我が侭な男、忘れられるわけない。




「私は・・・、誓・・・えません」




どこか寂しそうな顔をした新郎は苦笑して、そっとの手を離した。

その表情はわかっていたと言わんばかりで、申し訳ない気持ちでいっぱいになった。

落胆の声が上がる客の声と破綻した進行にうろたえる神父にもだんだん焦り始めた瞬間、



『  』



どこからか聞こえた声は間違いなくアイツの声で、は思わず客席を見渡した。

けれど探している顔は見当らず、必死に探している自分に落ち込んだ。



『  』



再び聞こえた声に幻聴じゃないと確信しては会場を飛び出した。

呆然とする会場に何を思ったか、は振り返ってニコリと笑った。




「皆さん、私のように花嫁に逃げられないよう愛しい人の心はしっかり繋ぎ止めておいて下さいね!」




パチリとウィンクをするとは会場から姿を消した。

残された新郎は何度か瞬きをすると声を出して笑い、つられたように会場は笑いの渦が出来た。



声の主を探しては走っていた。

わっさわっさと揺れるドレスの裾をたくし上げて、ひたすら声に近付こうと足を動かす。

どこにいるの?




「ザンザス!」




息を切らして最愛の人の名を呼ぶ。

けれど返事は無い。

は滲む視界に痛い心を叫ぶ。

神様って何て酷い仕打ちをするの?!

もう会えないならアイツの声なんて聞かせないでよ!

勝手に私達を異世界に飛ばしておいて、アフターフォローも付いてないなんて何てケチなの!

どうせなら異世界の記憶なんて消えてしまえばよかったのに!

神様の馬鹿!

離れれば離れるほど辛くなったじゃない!!

神様の恋愛音痴ー!!サイテー!!女の敵ー!!

少しでも人智を超えた存在として威厳を保ちたいなら、私のお願い聞いてよ!

神様、お願い・・・・、

もう一度ザンザスに会わせて。

その直後、履いていたヒールが階段の淵に引っ掛かって、の身体は階段から投げ出された。


* ひとやすみ *
・出張るママと新郎。笑
 そしてまさかのもう1話。また伸びたー!キリが悪いー!
 次こそ最後です。いやしかし、ザンザス連載なのにザンザス出て来なかったなぁ。
 でも後悔はない!スタイリスト辺りが楽しかったから!!笑                 (09/12/17)