ドリーム小説
酷く日常が味気なく、アイツがいないだけでこんなにも世界が変わってしまうとは思いもしなかった。
仕事に支障はない。
むしろ当り散らして数倍早く片付くようになった。
周りに余計な心配をされるのもムカつく。
女が寄って来るのもムカつく。
何よりアイツが傍にいないのが一番ムカつく。
自分の力でどうにもならない悔しさと怒りが募る。
神だか悪魔だか知らねーが、俺とアイツを運んだ奴に会ったらカッ消してやる。
ザンザスは腹立たしさを押さえ込むように廃墟と化した教会の十字架を撃ち抜いた。
ボンゴレ傘下のファミリーから盗んだ物を取り返すために、この教会を拠点にしていたマフィアを殲滅した。
血塗られた教会の中、息のある者はザンザスしかいない。
外に散っている部下達が車を回すまで暇であり、ザンザスは転がる死体を避けて一番前の席にドカリと腰を降ろした。
「こんな物のために出しゃばりやがって、カスが」
真っ赤な宝石が埋め込まれた古い指輪を投げては掴んで、暇を潰す。
ステンドガラスから差し込む光が、指輪に反射して赤い光を放ち、その不思議な色が気に入っていた。
「・・・」
思い出したように呟いた名前にザンザスは舌を打った。
一体、何度この名前を呼んだことか。
柄に無く目の前にいない女を忘れられない自分が女々しくて情けない。
その反面、アイツ以上に執着出来る女はいないとどこかで感じていた。
深く溜め息を吐いたザンザスは高く投げた指輪が光の屈折のせいか酷く眩しく光り、目を細めた。
次の瞬間、ドンと上で何か音がして指輪をしまい込むとザンザスは警戒して立ち上がった。
見上げていると何か光の中に白い物が見えた。
悲鳴と共に降って来たそれを思わず抱き止めると、ザンザスは腕の中のに目を見開いた。
既視感を感じながら互いに見つめ合うこと暫し。
「とりあえず、神様に物申したい」
「・・・他に言うことあるだろーが」
「何よ、その言葉そっくりそのまま返すわ」
「お前、何でそんな物着てる?」
「仕方ないじゃない。結婚式の最中だったんだから」
が溜め息を吐くと身を包んでいる純白のドレスが音を立てて揺れた。
ピクリと反応したザンザスは眉根を寄せて、声を落とす。
「結婚、したのか・・・?」
真剣みのある声音にはハッとして、ザンザスを見た。
揺らぐ赤い瞳に胸を締め付けられ、は困ったように笑った。
「違うわ。結婚式から逃げてきた最中だったのよ」
怪訝そうに首を傾げたザンザスには降ろしてと頼んで、ようやく床に足を付けた。
冷たい石にどこで靴を失くしたのか素足で降り立ち、ザンザスを見上げる。
「ねぇ、私、あの時ザンザスに答えられなかったでしょ?あの時の言葉、撤回とか言わない?」
「するか」
「もう一回聞きたいんだけど」
「言ったはずだ。一度しか言わないと」
「何でよ、不安になるじゃない・・・」
返事を聞かされていない方が不安だろうが、という言葉を飲み込んでザンザスは溜め息を吐いた。
拗ねたように俯くの顎を攫って、無理矢理視線を合わせるとザンザスは眉根を寄せて口を開いた。
「不安にならないよう何度でも名を呼んでやる。何度でも口付けてやる。何度でも抱き締めてやる。
俺がこんなこと言うのはお前だけだ。大体、あんな言葉を言うのは一生で一度、で最後だ。覚えておけ」
最後の方は拗ねたように呟いたザンザスにポカンとしていたは込み上げてくる笑いに耐え切れず声を漏らした。
らしいと言うか、らしくないと言うか、は微笑むとそっと手をザンザスの頬に当てた。
「そうね。ザンザスが恥ずかしくて言えないのなら私が何度でも言うわ。いつか必ずもう一度言わせてあげる」
「やれるもんならやってみろ」
挑戦状を叩き付けたにザンザスは不敵に笑って目を細めた。
返事を促すその目には足りない身長を埋めるように背伸びして、ザンザスの耳元でずっと言いたかった言葉を囁く。
「世界を渡って来ちゃうくらいには愛してるらしいわ」
合格と言わんばかりに悪戯っぽく笑ったザンザスはの唇に噛み付くようなキスをした。
も楽しそうに笑って目を閉じ、応えるようにザンザスの首に手を回した。
どれくらいそうしていたのか、酸欠で倒れそうなをきつく抱き締めたザンザスが噴き出すように笑った。
「フン。これほど面白いシチュエーションはないな」
「ね、今、気付いたんだけど、あそこでゴロゴロ転がってるのってもしかして人?」
「人だった物だ」
「
ギャー!!!」
逃げようとするに喉を鳴らして面白がるザンザスは抱き締めた腕を弱めるつもりはなかった。
というか、この血塗れの教会に今まで気付かなかったもである。
逃げるのを諦め、ザンザスの胸に隠れるようにしがみ付くに心が温かくなる。
もう二度と離すつもりはない。
ザンザスはの頭に唇を落とすと口を開いた。
「、左手を出せ」
「え?」
キョトンと顔を上げたの左手を無理矢理掴むとザンザスは取り出したあの指輪を薬指にはめた。
大きな宝石はまるでザンザスの瞳のように紅く、の指で輝いている。
その妖しいまでに美しい宝石に魅入られていたは、思い出したように声を上げた。
「え?」
「ククッ。教会に花嫁、参列者に指輪。なかなか様になってるじゃねーか」
「ちょっと待って。この指輪は?」
「あ?そこで転がってるカス共が奪っていった呪いの指輪だ」
「
ギャー!!この馬鹿男ー!!!」
握り締めた左の拳をザンザスの頬に思いっきり叩き込んだは指輪を引っこ抜いた。
大きな宝石の指輪は立派な凶器になったようで、ザンザスの頬にはくっきりと痕が残っている。
パタンと開いた扉の先にヴァリアーのメンバーがいて、は泣き付くようにドレスの裾を上げて走った。
「わーん!!私、呪われたー!!」
「?!」
「おまっ・・・何てカッコしてんだぁ?!」
ルッスーリアに飛び付いたはどうしようと動揺したまま叫び散らしたが、メンバーは誰も答えてくれない。
黙ったまま一点を見つめている彼等にも振り返った。
そして見た物は、指輪片手に怒りのオーラを爆発させているザンザス。
「げ」
「テメェら、そこの馬鹿女こっちによこせ」
「「「
はい、どうぞ 」」」
「イヤー!裏切り者ー!!」
どことなく楽しげに言い争うとザンザスに、一同は安堵の息を漏らした。
ずっと沈みがちだった頃のザンザスの面影は無い。
二人の間に流れる空気から、やっとくっ付いたかとスクアーロは深く溜め息を吐いて喜んだ。
これでお節介役から逃れられると。
だが、これから先も二人の板挟みに遭うことを彼はまだ知らない。
やいのやいのと喧嘩する微笑ましい二人を見ながら一同は口を開いた。
「しし!やっぱじゃなきゃダメだよねー」
「そうよね」
「じゃなきゃ誰があのクソボスを制御出来んだぁ?」
「とばっちりは御免被りたいけどね」
「ボスが幸せならそれで構わん。あ、あの女またボスを殴った!」
そんな事を言われてるとは露知らず、はザンザスを撃退していた両手を掴まれ万事休すであった。
もがくにザンザスは息を吐いて、小さく呟いた。
「頼まれても誰が離すか。お前は離したらどこ行くか分からねえ」
「え」
「・・・お前は俺のものだ」
キョトンとしたはザンザスを見上げた。
言い聞かせるように呟いた言葉は、どことなく儚げでは苦笑し悪戯っぽく笑った。
「違うわ。ザンザスが私のものなのよ」
赤い瞳がを捉え、優しく細められる。
口の端を上げたザンザスは裸足のを抱き上げて言う。
「帰るぞ」
「うん」
ただいま、ザンザス!
* ひとやすみ *
・ハッピーエンドです!幸せになって欲しいからね!
再会の場所が何ともアレでしたけども、二人が喜んでるから無問題!笑
本当はもっと短い連載予定だったんですが、皆さんの声と私の愛の暴発で
ここまでくることになりました。無事完結出来たのは全部皆さんのおかげです!
似た者同士のこの二人、くっ付いても大変そうですが、またいつか皆さんとお会い
出来る日が来たらいいなぁと予定も余裕もないくせに口走ってみます。
最後までお付き合い下さりありがとうございました! (09/12/17)