ドリーム小説
あぁ、目覚めが近いな、とはぼんやりと薄暗い夢の中で感じた。
身体は起きようとしているのにまだ寝ていたいと思うどこか曖昧でふわふわした感覚だ。
まさか異世界トリップの反動がこんなに辛いとは思ってもいなかった。
全く、ザンザスはよくもあんな気持ち悪いのを平然としてられたな。
は朦朧としているザンザスを風呂から引っ張り出した時の事を思い出していた。
あんなのでもれっきとした男なんだなぁと感じてしまったのと同時に、再び会えた時の激しい口付けを思い出した。
あれは・・・何だったんだろう。
ザンザスが私を好きだから?
有り得ない。
私に会えて嬉しかったから?
有り得ない。
私が食べた肉を奪い返したかった?
・・・有り得る。
は不毛な考えに肩を落として、溜め息を吐く。
ザンザスにとってキスなんて親鳥が子に餌をやるのと同じ感覚なのだとは膨れた。
分かりにくいんだよ、大馬鹿野郎ー!!
そう心中で叫んだの耳にザンザスの落とすような呟きが聞こえた気がした。
『静かなお前なんか気持ちが悪い。さっさと目を覚ませ、』
都合の良すぎる夢には何だか落ち着かず、早く目を開けて起きなければと思った。
そして真っ先にザンザスに会いたい。
目蓋の裏の暗闇が徐々に明るくなるのを感じて、震える目蓋を押し開けた。
「・・・・ザンザス、」
「あ?」
ようやく目を覚ましたがあまりに優しく名を呼ぶので、ザンザスは戸惑うように声を上げた。
随分と良くなった顔色に小さく息を吐いて、の次の言葉を待つ。
「・・・みず、飲みたい」
「・・・・・。」
期待した自分が馬鹿だったとザンザスは眉間に深く皺を刻んだ。
サイドテーブルに置いていたミネラルウォーターを乱暴に手にしたザンザスには目を瞬いた。
言ってみたものの、実の所また「知るか」と断られると思っていたからだ。
水を手に近付いてくるザンザスに嬉しくなった、・・・が。
次の瞬間、二人の間に無言の火花が散ることになる。
「・・・・、何で当然のように口移ししようとするかな?」
自分の顔に被さるように近付いてきたザンザスの口をは必死に押し返しながら漏らす。
何でもないように水を口に含んだザンザスが近付いて来てはギョッとしたのだ。
不機嫌そうな顔をしたザンザスが水を飲み込むのを確認して、はその手のグラスを奪った。
「水ぐらい自分で飲めます」
「・・・人の好意を足蹴にしやがって。おら、胃に何か入れて寝ろ」
「食べたくない」
拗ねるように顔を背けたにザンザスは今度こそ青筋を立てた。
ガタンと椅子を倒してベッドに背を向けて出て行こうと扉に手を掛けたら、後ろから小さな声が掛かった。
「ザンザス、起きるまでいてくれてありがと」
消え入るような声に思わず振り向けば、布団を顔まで引き上げて隠れるように様子を窺うがいた。
ザンザスは眉間に皺を寄せ、顔を顰めて部屋を出て、扉を乱暴に閉めた。
全く、アイツは何なんだ?!
人の好意を無碍にしたり、礼を言ったり、何がしたいのかさっぱり分からねェ。
どこへ向うでもなく、ただ部屋を出てイライラを治めるように歩き回っていたザンザスはピタリと足を止めた。
そして辿り着いた思考に顔を顰めて、舌を打った。
「・・・何で俺が」
ザンザスはどうにでもなれと言わんばかりの表情をして、もと来た道を戻った。
***
「怒らせちゃったなぁ」
は乾いた笑いを漏らしながら寂しく思った。
あのザンザスが看病してくれたのに、と思う反面、口移しはないだろと溜め息を吐いた。
やっぱり、自分の事をペットか何かだと思ってるなと眉根を寄せる。
ここは寝るべきだと思うのだが、怒らせたザンザスが気になって眠れそうにない。
いつも喧嘩ばかりだが、こんな風にザンザスが一方的に怒って出て行った事はなかった。
このまま嫌われてしまうのかと、は泣きそうな顔を隠すように腕を目の上に乗せた。
その瞬間だった。
バーン!と激しく扉が開いたと思ったら、不機嫌そうなザンザスがそこに立っていては目を見開いた。
怒ってたんじゃないの?
何が何だかさっぱり理解出来ない。
ズカズカとベッドに近付いてきたザンザスはベッドに片足を乗せて身を乗り出した。
の顔の横に片手を付いたザンザスにドキリと心臓が跳ねた。
「食え」
「は?!いきなり、うわ!冷たっ・・・てか、アンタ何でびしょ濡れなの?!」
「いいから食え」
ザンザスの顔を伝って雫がの顔に落ちる。
そんな事は一切気にせず、ザンザスはの口に何かを押し付けた。
逃げる事も出来ず、口を開けば滑り込んできたそれに驚いたように声を上げる。
「ミカン・・・?」
「食ったら寝ろ」
よく分からないままに、ザンザスの指に摘まれたミカンを口に含む。
甘いシロップと程よくすっぱいミカンがとても美味しかった。
その間もザンザスから水が滴り落ちて来て、の首や頬、肩や髪をポタポタと濡らしていく。
その雫がの唇を濡らして、ペロリと舐めればミカンと同じ甘い味がした。
「アンタ、何でシロップ頭から浴びてんの?!え、何かしかもまた指切ってない?!」
ミカンを食べながら観察していたはミカンを運ぶザンザスの指が切れてる事に気が付いた。
目敏いにザンザスは最後のミカンを口に放り込んで、顔を顰めて言った。
「舐めときゃ治る」
「そんなわけ・・・、む」
煩いと言わんばかりにザンザスはの口に指を押し付けて黙らせた。
唇をなぞるように動く指に息を呑むと、その隙にザンザスが開いた口をまさぐるように指を突っ込んだ。
まさか私に舐めろと?!
逃がさないとばかりにの舌に絡みついた指は甘い甘い味がした。
ようやく口から出て行った指をザンザスが音を立てて舐め取ったのでは羞恥心で死んでしまいそうだった。
面白そうに笑ったザンザスが寝ろ、と言ってベッドを離れたが、すぐに近くの椅子に腰を降ろしたのを見て安堵した。
怒ったと思ったら、ミカン持ってきて、変な奴・・・。
小さく笑ったはうとうとと、まどろみに誘われるように目蓋を閉じた。
***
翌日、完全復活を遂げたは引っ付くように隣に眠っていたザンザスに悲鳴を上げ、
シャワーを借りようと浴室に入ってさらに大きな悲鳴を上げた。
白いキャミソールワンピを着ていたはシャワーを掴んだまま浴室を飛び出して、ザンザスを睨んだ。
「アンタ、私が寝てる間に何したの?!」
「ベタベタするのは嫌だろうと思って舐めた」
「アンタがシロップ溢したんでしょうが!!!」
の物凄い怒声は外まで聞こえていたらしく、着替えを持って来たスクアーロが慌てて部屋に飛び込んで来た。
何事だと二人を見比べて白いキャミソールワンピのを見てギョッと目を見開いた。
「どう見ても舐めたんじゃなくて、吸ったでしょ!!!」
「ゔぉい、身体中キスマークだらけだな」
「知るか。気付かずグースカ寝てたお前が悪い」
「アンタって人は・・・!!」
完全に馬鹿にしているザンザスは眠そうに欠伸を一つ溢した。
肩を震わせて怒りを抑えるように俯いたはクルリと浴室に入り・・・・。
「少しは頭冷やしなさい!!!」
の怒りの冷水シャワーがザンザスの顔に直撃した。
この時見た衝撃映像をスクアーロは生涯忘れる事はないだろう。
* ひとやすみ *
・断じて下連載ではない。ボスが下なだけです!(え
やっぱり4、5話で終わらせる予定なのでいろいろすっ飛ばします。
ヴァリアーとか、シロップ被ってるボスとかの話は時間の都合上カット。
まぁ気が向いたらSSとか書くかも・・・。 (09/08/18)