ドリーム小説
幸村に言われた通り、はコートを見に行くことにした。
気まずいことこの上ないが、こっそりと覗き見る。
コートの方を見るとパコーンとテニス特有の音がしていて、すでに試合は始まっていた。
ブン太とジャッカルが打ち合いをしていてそれを弦一郎と蓮二が見ていた。
「そんな事ではまたに怒鳴られるぞ!情けないと思わんか!」
「真田!ちょっと黙ってろィ!」
「弦一郎、そういうお前が一番情けないと思っているのだろう?」
「くっ。にあそこまで言わせた自分が不甲斐ない」
「それは俺も同じこと」
その会話を聞きながらは目を瞬いた。
嫌われるのを覚悟して言った言葉がこんなにも影響を及ぼしているとは思っていなかったのだ。
違っていたのは気迫。
いつも受身で控えめな試合運びだったブン太はそこにはおらず、積極性と大胆さを身に付けていた。
相手からポイントをもぎ取ろうとする貪欲さは今までには無かったものだ。
どんな相手でも勝ちたいという意欲がなければ上に行く事なんか出来る訳がないのだ。
これでブン太はどんどん上手くなって、いずれは王者立海の一角を担うだろう。
はニッコリと笑ってコートを見渡した。
「さぁ、仁王君、フォーメーションの練習をしますよ」
「柳生、気合入りすぎじゃなか?」
「当たり前です。さんにあそこまで言われて何にもしない訳にはいきませんよ。
彼女を見返さなければ合わせる顔がありません」
「・・・・そうじゃなぁ、やるか。俺もに嫌われとうないからのぉ」
「その意気ですよ」
不意に耳にした仁王・柳生ペアの会話には唖然とした。
まさかこの二人まで矯正できるとは思ってもいなかった。
二人とも器用なため、卒なくこなしていたが、お互いを信用せず個人プレーに走っていた。
そんな二人のダブルスはの目に余っていたのだが、いつの間にか協調性と言うものを身に着けたらしい。
ただただ呆然と口を開けていたはポツリと声を漏らした。
「別人ばっかり・・・」
「ふふ。面白いものが見られるって言っただろ?」
気付けば背後に立っていた幸村に驚いては肩を跳ねさせた。
ニコニコ顔の部長を見ていたは何となく気付いたことがあった。
「(もしかしてこれ喜んでる?)」
いつも笑顔の幸村だが、はどことなくその表情を見分けられるようになってきていた。
は苦笑を漏らして幸村と同じようにコートに視線を戻した。
「今のブン太となら試合したいな」
「ふふ。確かにがむしゃらだけど面白い試合だね」
「よかったね、部長」
そう言ってが隣の幸村に微笑むと幸村は珍しく驚いたように瞬いた。
その反応に気を悪くしたが不貞腐れると幸村は宥めるようにの背に腕を回した。
が驚いている間に促されて気付けばコートに来ていて皆の視線を集めた。
その視線に耐えられなくなったはそのままクルリと後ろを向いて逃げようとした。
しかし、振り返った瞬間、目を輝かせた赤也が飛びついてきてそれも出来なかった。
「先輩ッ!!」
「うわぁ!」
懐に飛び込むように抱き着いてきた赤也に驚いていると視線を感じて恐る恐る背後を見た。
ニヤニヤと笑っているレギュラー陣に血の気が引く。
「よくやった、赤也」
そう言ったブン太にが俯くと溜め息が聞こえてきた。
何やら良くない予感がする。
「、お前言い逃げはズルイだろぃ。お前に言われて悔しかったし、ムカついたけど、
それは図星さされたからだ。俺はやられっ放しは嫌いだし、ぜってぇいつかお前に勝つ!
だから・・・・・ありがとな」
ブン太の声にどことなく優しさがあっては弾かれた様に顔を上げた。
ブン太だけでなくレギュラー陣全員が笑っていてはキョトンとしていたが、その意味を理解すると同じように笑顔を返した。
***
すれ違いも丸く収まってブン太とジャッカル、仁王、柳生は試合に戻っていった。
達はまたラリーを始めたブン太とジャッカルの試合を見学することにした。
試合も終盤を迎えて黙って見ていた蓮二がポツリと呟いた。
「コードボールが多いな」
蓮二がノートを見ながらそう言っている間にもパスッと音を立ててネットに引っかかった。
幸村が蓮二の言葉を引き継いで話す。
「うん。丸井、何かやってるね」
試合終了のコールを聞きながら2人の言葉を反芻してピンときた。
どうやらブン太はこの前見せた綱渡りが気になるらしい。
は思わず声を出して笑うと試合が終わったコートに遠慮なく入ってブン太の背後から近付いた。
ブン太は気付く事無く、ラケットを握ったまま俯いていた。
はブン太のラケットを持つ手を上から握って肩越しに話し掛けた。
「ドロップショットに目を付けたのはイイけど、手は・・・こう内側に・・・。それで練習してみて」
手の角度をアドバイスして横からブン太の顔を覗き込むと、顔を真っ赤にして目を見開いていた。
これは・・・・・怒ってる?
何もそんなに赤くなるほど怒らなくてもいいのに。
「なるほど。さんの力はすごいな」
「うむ。は優れたプレイヤーだからな!」
「少し違うと思うのだが・・まぁ丸井を陥落させるとはもやるな」
真っ赤になって暴れるように喚き散らしたブン太には耳を塞いだ。
怒りにまかせて追い掛けてきたブン太には赤也を盾にして逃げた。
その様子を見ながら帰って来た仁王と柳生は不思議そうにしており、ジャッカルは溜め息を吐いた。
「さんの力はすごいって話をしていたんだ」
「まぁ、あの強さは尋常じゃなかったですね」
「うむ。俺はあいつに全戦一勝だ」
「真田が?!」
その場にいたレギュラー陣は驚きの声を上げて副部長を見た。
強いとは思っていたが、まさかそこまでとは思っていなかったのだ。
「は世界ジュニアで名を馳せる強者だからな」
人は見掛けによらんものだ、と呟いた弦一郎に一同は頷いて
コートを走り回るを呆然と眺めていた。
* ひとやすみ *
・にっこり。
ようやく。ようやく笑顔になりましたよー!
また知ったかしていろいろ書きましたが嘘っぱちです。
大会の年齢制限とかも忘れて「すげー強いんだなー」くらいで読んで下さいね!(09/04/02)