ドリーム小説

「丸井先輩に試合を申し込んだぁ?!」

「まぁね。申し込んだと言うより叩き付けたってのが正しいかもだけど」

「なおさら悪いじゃないッスか!」




絶望の淵から復活した赤也の手を引いては挑戦状を叩き付けたコートへと向った。

さっきまで虫の息だった奴だとは思えないけど、少しはを敬う事を覚えたらしい。

気が付けば敬語らしき物がくっ付いていた。

ホントにらしき物だけど・・・。




「いくら先輩がテニス出来てもウチのレギュラーの丸井先輩相手じゃ無理ッスよ!」

「何で?強くなりたいから強い人と勝負するんじゃないの?赤也もそう言ってたはずだけど?」

「言いましたけど・・」

「身近に強いのゴロゴロしてんじゃん。手っ取り早く強くなるのにうってつけでしょ」

「そうですけど・・」




コートに着くとレギュラー陣がズラリと並び、コートの中にはすでにブン太が立っていた。

赤也はその迫力にゴクリと喉を鳴らして意気揚々と前を歩くを心配そうに見た。

どうやらレギュラー以外のメンバーは通常練習に戻らされたようで誰も居ない。




「ホントにやるのか?」




不安そうな顔をしてブン太が呟くとは目を瞬いてあっさり頷いた。

その自信がどこから来るのか、赤也はただただを見つめるしか出来なかった。

ラケットを振り回して楽しそうにブン太を見たは高々と声を上げた。




「さぁ試合を始めるよ!やっておしまい、赤也!」

俺かよッ!!!!




の一言で場は一気に気が抜けてしまった。

溜め息やら笑い声やらが聞こえてきては顔を顰めた。

笑い事じゃないのは赤也の方だ。




「何?私が試合をするとでも思ったわけ?そんな面倒な事しない。

 大体先が見えてる勝負に時間掛けるほど暇じゃないしな。ほら赤也、やらないの?」

「待って下さい!いきなりそんな事・・」

「待てよ。いくらお前でも今のはねぇだろ。

 が言ったんだろィ?勝負の世界に絶対はないって」

「言った。でも悪いが、今のブン太に負ける気はしない」

「お前ッ・・・!」

「仕方ない。赤也が先輩に気を遣うなら私がお相手しよう。ワンセットマッチで?」

「臨むところだ!」

先輩!」




赤也はコートから追い出されて、ただただを心配そうに見ていた。

その視線に気付いていたのか、は振り返って微笑むと口を動かして何かを伝えてきた。

しかし、遠く離れている赤也が今のを理解するには読唇術でも身に着けておかなければ不可能だった。

すると肩を叩かれて不意に振り向くとそこには蓮二が立っていた。




「『よーく見とけ』とは言っていた」

「分かったんスか、今の?!」

「正解率100%だ」

「すげぇ」





ブン太はコートに入るとボールを投げてサーブのモーションに入った。

軽い音と共にラインギリギリに打ち込んできたのを確認しながらも逆サイドに打ち返した。

伊達に立海テニス部員やってないな、と思いながらがブン太を見ると打ち返した事にひどく驚いていた。

失礼な、テニスだけは得意なんだ。

ただ、その他の球技が破壊的に下手くそなだけで、とは心の中で付け足した。

テニスをやるのはホントに久しぶりだった。

相手も実力あるプレイヤーで申し分ない。

パカッパカッと景気よく続くラリーの猛襲に左右に振られて自分の吐いた息が跳ねる。

の足元から激しく地面を蹴る音がして、コートの隅から隅まで走っていると自然に口元が緩む。

何だかだんだん楽しくなってきた。




「(でも残念。勝つのは私)」








***







「すげぇ。先輩、丸井先輩にめちゃくちゃ言うだけあるッスね」

の名誉のために言っておくが、あれはわざとだ。本気で言った訳ではない」

「恐らくは初めからお前を戦わせるつもりはなかったはずだ」

「へ?じゃあ何であんな事・・」

「ふふ。丸井が優しすぎる、そんな所かな」

「なるほど。本気を出させる為に丸井君を煽ったんですか」

「プリっ。らしいのぅ」

「俺としては怒った丸井を抑えきれるの実力が怖いけどな」




夕方にもかかわらず、煌々と照らされているコートでスピードと重さを増してラリーは続いていた。

外野の声もコートの中には聞こえず、ただボールから発せられる音と足音だけがやけに大きく聞こえる。

永遠に続くのではないかと思われたラリーに異変があった事に気付いたのはブン太だった。

規則的な音を邪魔するように煩い音が入り混じっている。

その音が何なのか探るために見渡すが、目に映るのはネットの向こうで動かず楽しげに打ち返してるだけだ。

動かず・・・?

ブン太は動揺しながらもまた球威が強くなったボールを打ち返してを見る。

その軸足はそこから動いていなかった。

一体いつの間に?

最初は確かにブン太が打ったボールがを左右に走らせていた。




「(じゃあこの足音は一体誰のもんだよ!)」




そこでようやく苦しげに聞こえる息遣いも、必死に走っている足音も全部俺のもので

そうさせているのがだという事に気が付いた。

頭の中が混乱していた時に急に話しかけられて俺は肩が跳ねた。




「ブン太には足りない物がある」

「・・・なんだよッ」




はさあ、とはぐらかして、自分でみつけないと、と言った。

俺は何だか自分も知らない事を見透かされているようで、恥ずかしくて、

腹立たしくて、強くボールを打ち返した。








***







それから先の試合は本当に圧倒的だった。

地まで叩きつけられた俺の自信は粉々に砕け散り、翻弄されるがままだった。

走り回され守備が行き渡らず、それどころかのプレースタイルは不規則に変化し、

ネットプレーに対応する術もなかった。




「面白い技あるんだけど受けてみる?」




一段と楽しそうに言ったは、俺が返事をする前に動き出していた。

ネットについたの手から離れたボールはネットに掛かった。

コードボールと判断した身体が一瞬引いたが次の瞬間再び前に走り出る事になった。




「(ネットの淵をボールが走ってる?!)」

「綱渡りー」




必死のダッシュも空しくボールは俺側のコートにポトリと落ちてあっさり試合は終わった。

静かなコートに跳ねるボールの音と煩い自分の息を聞きながら自問自答する。

何でだ?どこで読み間違えた?

俺はあの立海テニス部に入って練習していたじゃないか。

どうして?どうして?どうして?

コートを照らすライトで出来たの影がだんだん俺に近付いてきて俺が顔を上げると

は息一つ切らさずに俺を見ていた。




「立海テニス部に入る事が目的じゃないだろ?

 その名の上に胡坐かいて優越感を感じてどうするんだよ。

 どうせ目指すなら頂点だろ。勿体無いよ、ブン太のボレーのセンスは本物なのに。

 ここはみんなおかしい。強さを求めているくせに、それを必要としていない。

 私の言葉を聞き流すのも受け入れるもブン太の自由だ。でも強くなって欲しいと私は思うよ」




完全に見透かされていて、こんな情けない事をに言われた俺のプライドはズタズタだった。



* ひとやすみ *
・うぅ。試合難しい。。。
 スパコーン!とすっ飛ばしてしまいました。ごめんよブンちゃん!(09/03/20)