ドリーム小説

負けた。

まさかあんな化け物じみて強いとは思わなかった。

まざまざと俺との実力の差を見せ付けられたような気がして逃げた。

何を勘違いしていたのだろう。

同じ部にいるから射程圏内だなんて思ってた俺はとんでもない馬鹿野郎だ。




「やっと見付けたよ、赤目くん」




背後から声が掛かって振り返ると、そこにはが立っていた。








***








は頭を抱えていた。

あんな事言うつもりはなかったのだ。

個人プレーが目立ちバラバラな立海テニス部に腹が立っていろんな事をぶちまけた。

むしろの思う部活像を押し付けてしまった感の方が強い。

それぞれの部活に色というものがあるので、立海はこのままでよかったのかもしれない。

でも仕方ないじゃないか、とは一人ごちた。




「だって腹が立ったんだ」




そう心で無理やり納得して誰も居ない教室をあとにした。

部室や教室、はたは男子トイレまで探し回ってみたが赤也は見付からなかった。

空振り続きでほぼ諦めかけながら廊下を歩いていたは、目の前に滑り落ちてきたプリントに目を奪われた。

それは何の変哲もない全校生徒の保護者用に配られたプリントだった。

誰がこんな所に、とプリントを拾い上げて落ちてきた方を見ると薄暗い階段があった。

そこは普段閉め切っている非常用の屋上への階段だった。

はハッとして踵を返して通常用の屋上階段に向って走り出した。












「(全く。日本人て小説やテレビの見過ぎだ)」




はようやく屋上で赤也を見付けて呆れた様に溜め息を吐いた。

赤也は困惑してるようで何とも言えないような顔をしている。

何かしら悲しい事や切ない事があると高い所に上って、たそがれるのが日本人のセオリーらしい。

赤也もその手のタイプなのか、とどうでもいい事を考えていると目の前の少年から変な声が漏れた。




「その制服・・・アンタうちの生徒だったのか・・」

「はぁ。ホンットに知らなかったんだねぇ。ちなみに赤目くんの1個先輩で真田弦一郎の幼なじみ」

「!それってまさか、噂のアト・・・」

それ以上言ったら怒るぞ?




完全に空気の読めてない赤也には探るような視線を向けた。

その視線から逃げるように赤也は目を逸らして屋上の柵を掴んだ。

その姿に今までの赤也の姿は全く見えず、は口を引き結んだ。

テニス部の三強に完膚なきまでに叩かれて心が折れてしまったらしい。

らしくない、その一言で片付いてしまってもいい。

正直、追い掛けて、慰めて、そんな風に優しく声を掛けるつもりでいた。

だが現実、目の前の赤也を見ているとそんな気分は吹っ飛んでしまった。




「それで?テニスから逃げて今度はどこに逃げるつもり?」

「逃げてなんか・・っ」

「逃げてるでしょ。ちょっと強いのに負けたからって俺には無理だって諦めて、たそがれてる訳?

 ハッ!笑わせるなっての。言ったハズだよ、アンタと弦が真っ向勝負するのはまだ早いって」

「アンタに何が分かる?!副部長がどれだけ強いかなんて知らないくせに!!」

「また?台詞も日本のセオリーみたいね。

 弦が強い事なんて良く知ってる。弦と何回試合したと思ってんだ、もじゃ。君がそんなのだから止めたんだ」




悲鳴を上げるように怒鳴り散らした赤也には苦笑した。

さらりと流されて怒りの矛先を失った赤也は落ち着かないようにの様子を覗った。




「勝負にはいろんな形がある。弦はテニス馬鹿だけど確固たる信念を持って試合してる。

 どんなに実力差があろうともいつも全力で、笑っちゃうけどそういう奴だ。

 そんな強い意志をもった奴と勝負するには、強い気持ちで立ち向かわないと君みたいに心が折れてしまう」

「・・・・・っ」

「だから私が弦には勝てないって言ったのは気持ちの問題って事だ」




じゃあ俺はどうしたらいいんだよ、と呟いた赤也にはようやく笑った。

これで少しは前向きになれるだろうと思って、は腕を組んでしたり顔で屋上を歩き回った。

それを不思議そうに目で追う赤也が何だか面白い。




「テニス、好きなんだろ赤目くん?」

「わかんねぇ・・・」

「じゃあ走るのは好き?フルマラソンの選手とかになりたいと思う?」

「は・・?走るのは嫌いじゃないけど、ただ走るだけのマラソンなんて興味ねぇ」

「それだ」

「はい??」




ピタリと立ち止まったは大混乱中の赤也に嬉しそうに指を差した。

何の事だと赤也が首を傾げればは嬉しそうに知り合いの話をし始めた。

の知り合いのマラソン選手が怪我を言い訳にライバルに負けた、と言い出した時の話だ。

治せばまだ走れる怪我なのに彼は引退を口にした。

どう考えてもには逃げの言葉にしか聞こえず、同じ質問を彼にしたのだ。



『テニスは好き?選手になってみる?』

『何で?ただ球を打ち返して何が面白い?』



それを聞いた時の赤也の顔ったらなかった。

予想通りの反応が返ってきてはこみ上げる笑いを噛み殺した。

彼にとってテニスがただの球打ちの競技だとしても、赤也にとっては上を目指したい、強くなりたい競技なのだ。

それは逆も同じで、その良さを知らなければ興味すらも抱かない。

ようするに赤也はものすごくテニスが好きなのだ。

休み返上でテニスをしていたりして弦一郎と同じ生活をしてる辺り、テニス馬鹿と言ってもいいくらいだ。

別に好きな物を無理に辞めたり、嫌う必要はない。

ただ趣味で続けるのもいいかもしれない。

だけどそれで満足出来る奴じゃないのもは分かっている。

大きな壁にぶつかったらどうしたらいいかなんて簡単なはずなのだ。




「もじゃはゲームで強い敵に会った時はどうするの?」

「は?倒すまでやる。レベルが足りないならその辺でレベル上げて・・・」

「何でゲームで出来てリアルじゃ出来ないんだ?」

「あ・・」




足りないなら強くなればいい。

めげない気持ちがあるのならば身に付かない強さなんてない。

きっといつか赤也は立海テニス部で名を知らしめるだろう。

は何だかすっきりしたような赤也の顔を見て微笑んで同じ事を言った。




「テニスは好きか、赤也・・?」


* ひとやすみ *
・何だかおかしな展開を修正しようと頑張ったんですけど無謀と言う罠に。
 とりあえず赤也には頑張ってもらいたいものです!!        (09/03/03)