ドリーム小説
「もしかして、やっちゃった感じ・・・?」




昨日、今の赤也では弦一郎には勝てないと思わず言った事を、心のどこかで気にしていたのか

は屋上からテニスコートを見ていた。

何だか人だかりが出来てる中心にいたのは1年生ルーキーと見覚えのある帽子のデカイ男。

いくら単純な赤也でも弦一郎に喧嘩を売るような馬鹿じゃないだろう、と思っていたは頭を抱えた。

テニスコートを走り回る赤也を見ては踵を返した。




「あんの馬鹿ワカメ!!」




ブレザーを翻して走って着いたテニスコートの空気は異常なまでに重かった。

息を呑むように遠巻きに見ていた部員を掻き分けては最前列に飛び出した。

そこには幸村と蓮二、弦一郎の3人が並んで立っていた。

ツカツカと歩み寄ったに近くにいたレギュラー達が声を上げた。




「ちょっと弦!なんでアイツの試合受けたの?実力差あるのわかってて何叩き潰してるわけ!」

「挑まれたから受けたまで。俺は中途半端は好まん」

「ふざけんじゃないわよ。あれ私の生徒なんだから」

・・・お前・・」

「悪いのは弦一郎だけではないだろう、。お前が切原をけしかけた事は調べがついてる」

「げ!何で蓮二が知ってんの?!」




恐るべし、データマン。

横から聞こえた声にの表情は引き攣った。

一瞬にして空気が緩み、周りの野次馬達は散っていった。

そんな中、ポツリと言った部長の声にレギュラー達がわらわらと集まって来た。




「でもさんがコートに来るの珍しいね。切原のため・・かな?」




ニコリと笑った幸村には顔を歪めた。

本来なら来たくなかったのだ。

しかし、どこか罪悪感のあったは赤也を放っておく事が出来なかった。

黙ったままキツク目を閉じると言いたい放題のレギュラーの声が耳に届く。




「何じゃ、俺が誘うても来んのに」

さんは切原君とはどのような関係なのです?」

「放っとけよ。弱い奴が負けるのが勝負の世界だろぃ?」

「なぁ、やっぱあの時止めといた方が良かったんじゃねーか?」




雑音のように聞こえるその声に手を握り締める。

聞こえてくるのは嫉妬、興味、嘲り、保身の言葉ばかり。

誰も赤也の事を心配も気にもしていなかった。




「ここは何かがおかしい」




小さく呟いた声は波紋のように広がり、誰もが口を閉じてを見つめた。

は立海テニス部の頂点に立つ3人の男を見て唇を噛んだ。

幸村は全て気付いている。

それに気付きながら何もしない無関心さが許せなかった。

弦一郎が求めているのはただ強さのみだ。

単純でわかりやすいとはいえ、求めるものは非情なまでに細く険しい一本道なのだ。

データを取るためだけに、たとえどんな事が起ころうとも蓮二は黙って見続けるだろう。

その不動の心は何よりも冷酷に思える。



がコートに足を運ばなかった理由はそこにある。

ここは何かがおかしいのだ。

ただ黙々とそれぞれが思う強さのために続けるテニスはが知るテニスとはかけ離れた物だった。

確かに立海テニスは強い。

だがそれだけなのだ。

もしかしてただ単純にテニスを楽しんでいる赤也だからこそ入れ込んだのかもしれない。




・・?」

「ふざけんじゃないわよ!」




何かを呟いて黙り込んでいたを心配していたレギュラー達はギョッとした。

急に叫び出したは完全にキレている。




「あんた達がどんだけ強かろうと馬鹿がこんだけ集まればただの大馬鹿者集団だっての!

 少しは後輩の心配くらいしてみたらどうなの?

 自分の事を棚に上げて、身長ばっかニョキニョキ伸ばしてないで精神的に成長してみたら?!」




の怒鳴り声は静まり返ったコートに余す事無く轟いた。

呆然としていたレギュラー達は足音荒くコートを離れていくをポカンと見ていた。

その視線を感じたのか、が振り返った。

その表情が般若のようだったので誰もがビクリとした。




「それと、ブン太!」

「ハイぃ!」

「弱い奴が負けるのが勝負の世界ってさっき言ってたけど、それ違う。

 弱かろうと強かろうと勝つ時は勝つし、負ける時は負ける。だから面白いんじゃない。

 大体、勝負なめてるアンタが言う台詞じゃないわ。試合の準備しといて」




はそれだけ言うと赤也が走り去った方へ向った。

言い捨てられたブン太は何が何だかわからないままにの幼なじみである弦一郎に助けを求めた。




「ど、どういう事だと思う・・?」

「そのままの意味だ。諦めて試合してやれ。あれは本気で怒ってる」

「何で俺ー?!」

「というか、俺はとブン太が仲良しなのに驚いたがのう」

今のどこが仲良しに見えたー?!

「心配するな。は別にお前を嫌ってる訳ではない」

「推測するに丸井のテニスが嫌いなのではないか?」

「柳君。もう少しオブラートに包んだ言い方を心がけた方がよろしいかと」

どっちも一緒だろいィ!

「な、なぁ。早く試合の準備した方がよくないか?が帰ってきて準備出来てないって知ったら・・・」

「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」




無言のまま準備を始めたレギュラー達に威厳も何も残ってはいなかった。



* ひとやすみ *
・ようやくテニス部の核心をズバリといきました。
 どう考えてもブンちゃんはトバッチリですよ。 (09/02/05)