ドリーム小説
思えば最初からだった。
初めて出会った時から気になっていたんだ。
気付けば目でアイツを追っていて、教室の窓からが帰って行く所を見ていた。
***
「ブン太」
不意に声を掛けられて振り向けば、仁王が鞄を持って俺の教室に入ってきた。
俺は窓際から離れて机に置いてあった鞄を掴んだ。
仁王はさっき俺がいた場所で立ち止まると鞄からCDを出してきた。
「ほれ。昨日言うとった奴じゃ」
「おぉ!サンキュー!」
「はよ練習行かにゃ、真田がうるさいぜよ」
「・・だな、行くか」
俺はいつものようにガムを膨らませて仁王より先に教室を出た。
だから気付かなかったんだ、仁王が窓から何を見ていたのか。
教室を出て追いついてきた仁王と並んで俺は思い付いた事を口にした。
「お前が1人って事はにまた振られたんだろぃ」
「は反抗期なんじゃ」
「何だよそれ」
まだ諦めていない顔の仁王に俺は軽く笑ってマンガで重い鞄を肩に掛け直した。
仁王とか柳とかいろんな奴らがをマネージャーに誘ってる。
だけど転校して来て以来、はテニスコートには来ていない。
真田は消極的でアイツは止めとけ、って言っていた。
素早く着替えてコートに出ると眩しい黄色のジャージが目に付いた。
圧倒的な強さで先輩達を抑えてレギュラーを奪い取った真田と柳。
まだ2年生になったばかりで部長になった幸村。
その強さはマジで圧倒的だった。
常勝立海の名は伊達じゃねーぜ。
ま。俺もレギュラーだけどな。
***
気になって仕方ない。それは確かだけどよ・・・。
アイツ、やっぱ変だ。
「サマーッ!!」
体育が終わった後、何度この光景を見たか。
俺のクラスは仁王のクラスと柳のクラスと合同で体育をやっている。
だけど何でかは体育に参加しない。
体質か病気かは知らないけど、いつも教室で本を読んでたり、木陰からこっちを見てたり、保健室だったり。
今日みたいに教室で本を読んでいると終了後に女子達が窓に向かって叫ぶ。
そしたらアイツが窓から女子達に手を振り返すのだ。
気になっているのはアイツが始めてウチに来た時のあのサーブ。
どう考えたって体育が出来ない奴の球威ではなかった。
「なぜは体育せんのじゃろな」
肩に急に腕の重みが掛かってこけそうになった。
のしかかって来た奴は振り向かなくても誰だか分かる。
「さぁな。ホント変な奴」
もう一度窓を見上げるとと目が合った。
一瞬ドキリとしたけど目が合ったのは、
肩を組んでる仁王が手を振ったからだと気付いて肩の仁王を振り落とした。
さっさと着替えて次の授業までに飲み物を買いに行こうとして体育館の横を通るとボールの音がした。
規則感の全くない音が気になって覗いてみると、散らばったバレーボールを片付けているがいた。
見学してた分、片付けをさせられてるって所なんじゃねぇかな。
拾ってはかごに投げているけど、ボールは全く入らず、どんどん散らばっていく。
( 何してんだ、アイツ? )
「あー!これだから球技は!」
突然キレ出したはおもむろにボールを掴んで、かごに思いっきり投げ付けた。
かごに当ったボールは勢いよくの顔に跳ね返った。
バンッ・・・・!
「ギャ!!痛ぁ・・・」
「ぶっ・・・!」
俺は思わず吹き出したらそこに居た事がバレた。
ボールが跳ね返った衝撃で倒れたまま、俺を見上げるの額は赤かった。
「見てたのか・・えと、
角井クン」
「
丸井だっつーの」
角井って何だよ?!
俺が近付いていくとは起き上がって顔を押さえた。
笑ってはいたけど、額にはボールの痕が付いてて痛そうだ。
「ごめん。図形みたいな名前だって把握してたから」
「いやいや、その覚え方もおかしいだろぃ」
「ねぇ、足元のボールこっちに投げてくれない?」
「
無視かよ」
言われて確認すると隣にボールが転がっていた。
転がってたボールを拾って、少し距離があったの方に投げた。
「ほら」
バンッ・・・・!
「ぶっ!」
「わりぃ!大丈夫か?!」
てか、普通顔で受け取るか?!
俺が投げたボールはの腕をすり抜けて顔に当たった。
俺、結構優しく投げたつもりなんだけど!
それから俺がボールを全部片付ける羽目になった。
なぜなら、がボールと戯れてたから。
しかもどうやら本人はあれで片付けてるつもりだったらしい。
「もう全部片付いたぜ?」
「・・・うん、かご片付けてくる」
すごく落ち込んでるはかごを押して倉庫に入って行った。
倉庫から出てきて鍵を閉めてるを見ながら呟いただけなんだけど、俺は地雷を踏んだらしい。
「もしかしてが体育出ないのは運動出来ないからとか・・・は、ねぇよな」
「!!」
動きの止まったの手から落ちた鍵が甲高く音を立てた。
おずおずと振り向いたの顔は額以外も赤かった。
「ま・・マジかよ」
「運動オンチって訳じゃない!ただ一定条件で動けないだけで・・」
「何だよ、一定条件て?」
「・・・スポーツする時?」
「
一緒じゃねぇか!!」
俺は学校で崇められてるサマの秘密を知ってしまった。
俺が知ってたは、跡部に激似の転入生で、仁王と仲良くて、真田の幼なじみで
女子なのに女子にモテる奴だった。
だけどあのが実は運動オンチで、しかも頬膨らましたり、赤くなったりしている。
当たり前な事だけど、忘れてたぜ。
も普通の人間なんだよな。
「そうだよな。人間誰でも苦手なもんくらいあるよな」
「え?」
「心配しなくても誰にも言わねぇよ」
「・・・別に運動が苦手な事を隠していた訳じゃないし、私だって普通に走れるし、泳げる」
「分かってるって。けど俺だっての苦手な物、言い触らして喜ぶ趣味してねぇの」
「・・・そっか。なら私と角井だけの秘密だな」
ふわりと微笑んだに思わずドキリとした。
・・・・・名前間違ってるけど。
「・・・さぁ、俺のフルネームちゃんと知ってるか?」
俺が呆れたようにそう聞けば、なぜかは困ったように俯いた。
もしかして名前知らないとかで落ち込んでんのか、コイツ。
またも意外な所を見付けた気がして俺は頬を緩めた。
「怒らないから言ってみろぃ」
「ホントに?」
「嘘ついてどうしろってんだ」
「・・・
角井デブン太」
「・・・・・・・・はぁッ?!」
「怒らないって言ったじゃん!!」
「
怒るわッ!!」
どこも合ってねぇ!!
名前に何か多いんだよ!
ケンカ売ってんのか、コイツ。
「やっぱあだ名で呼んだ方がよかった?」
「は?どういう意味だ?」
何だか雲行きが怪しくなってきた。
これはトコトン突き詰めた方がよさそうな気がしてきた。
「言うなって言われてたけど、角井は出生届のミスで本名がデブン太になっちゃったから
みんな気を遣ってブン太って呼んでるんだって・・・」
「・・・一応聞いとくけど、それ誰から聞いた?」
「 雅 」
ですよねーッ!!
あの詐欺師がぁッ!!!
その後、俺はに本名がブン太だと言い聞かせた。
「あーもう角井でいい。だったら名前の方のブン太って呼べ、な?」
「なら私もって呼んで」
満面の笑みで答えたに俺も笑い返した。
のんびりしすぎて俺達が次の授業に遅刻したのは言うまでもない。
* ひとやすみ *
・久しぶりの更新です。
毎度の如く少しづつ話が変わってきてます。
甘すぎるかと思ったんですが、ブンちゃん書けてよかったです (08/12/28)