ドリーム小説
久しぶりに会った榊の叔父様は相変わらず、紳士で優しかった。



昨日突然掛かってきた電話は懐かしい人からだった。

私が日本に帰ってきたと耳にしたらしく、私をランチに誘って下さったのだ。

仕事で朝、学校に寄ってから迎えに行くと言っていた叔父様を言い包めて、

私が氷帝学園に直接行く事になった。

どーしても早く会いたかったから我侭を言っちゃった。




日本に戻ると決まった時に叔父様は春用の白いコートをプレゼントしてくれた。

次に会う時に着て見せてくれと言われていた物だ。

それを着込んで待ち合わせ場所に向かえば、叔父様は見慣れない白の車で現れた。

どうやら私のコートに合わせてくれたらしい。






***






「そのコート、やはりによく似合う」

「ありがとう」



小さく笑いながら褒めてくれる叔父様に、私は微笑んでお礼を言った。

助手席に座ってから車は走り続けているのだが、どこに向かっているのかは全く知らない。



「叔父様、ランチってどこのお店に?」

「実は決めていない。が食べたい物をと思ったからな」



叔父様はこう言ったけど、私は知っている。

私が何を選んでもいいようにお店を何件も予約してる事。

それをに教えてもらった時は心底驚いたっけ。

今更それを気にしても予約はされているし、何より叔父様が私を喜ばせようと選んだ店なのだから

私は気にせず好きな物を選べばいいのだ。

と、これも言われた事なのだけど。



「んー。オムライスかな?ふわっふわのやつ」

「じゃあ決まりだな」



叔父様は口元で笑うとハンドルを思いきりきってUターンした。

その衝撃に驚いて慌ててシートベルトを掴んだ。

楽しそうに喉で笑う叔父様を睨み付けても、巧みな言葉で逃げられてしまう。



「そんな顔をしたら美人が台無しだな」

「またそんな事を言って!」

「どうやらに嫌われてしまったようだ」

「そんなの有り得ないって知ってるくせに、叔父様ってホントに意地悪だ」



諦めの溜め息を付けば、叔父様は小さく謝って車を走らせた。

それからしばらく車は走り、見慣れた町並みを見送っていると車はゆっくりと止まった。

止められた場所は私も知っている場所だった。



「ここって・・・」



辺りを眺め回していると助手席が開けられて、叔父様が手を差し出してきた。

その手を取って車から降りると、やはりそこは叔父様の自宅だった。







***






叔父様の自宅はマンションではあるが、所有者も住人も叔父様だけなのだ。

空き部屋はたくさんあるし、実質叔父様が使っているフロアは上から三つ目までのフロアだけだったので

ここに住んで氷帝に通いたい、と言ったのだが、私の提案は即却下された。



私と叔父様は真直ぐに最上階に向かった。

一番上は叔父様のプライベートルームなのだが、私は特別叔父様に出入りを許されている。

促されて入った部屋は家具の配置が変わっていたものの、雰囲気は変わらない。

すると奥の部屋から人が出てきた。



「何です?先程出掛けたと思ったらもう帰られたんですか。しかも様まで連れて」

「久しぶり東さん!」

「えぇ。ご無沙汰しております、様」

「相変わらず家の者は手厳しい」



叔父様が困ったように溜め息を吐くので私と東さんは目を合わせて吹き出した。

東さんは榊家に仕えている使用人、と本人はそう言っているけど、ホントは第一秘書を務めるほどの人物だ。

久々に見た東さんは髪を肩口で揃えて切っていたが、相変わらずカッコいい美人だ。

榊家でその腕を振るっていた東さんがなぜここに居るんだ?



「それで、なぜここに様とあなた様がいらっしゃるのですか?」

「昼食にお前のオムライスが食べたい」

「え?」



東さんが叔父様に呆れたように質問すると意外な答えが返ってきた。

まさか東さんのオムライスだとは思っていなかった私は驚いて叔父様を見上げた。



「わかりました。こちらのキッチンをお借りしますね」



東さんは理由も聞かず、ニコリと笑って部屋を退室した。

その変り身にも驚いたけど、気になるのはさっきの言葉だ。

促されるままに叔父様にソファーに座らされた。



「嫌だったか?」



そんなはずはない。

むしろあれほど美味しいオムライスはどこに行ってもないと思う。

小さい頃はあれがオムライスの完成品だと思っていたくらいだ。

慌ててブンブンと首を振ると叔父様は笑って私の乱れた髪を直してくれた。



「東にとって美味しいオムライスはあるシェフの物だと言う。

 だが、は東の方が美味しいと言う。人の好みはそれぞれだ。

 私はが本当に美味しいと思う物を、と一緒に食べたかった。

 ただそれだけだ」





何でもないような事のように話す言葉はまるで魔法だ。

当たり前のように私を大事にしてくれ、喜ばしてくれる。

悩んで、私の事を考えてくれたのが言葉を通じて感じられるからホントに嬉しくなる。

だから私は叔父様が大好きなのだ。

私はニコリと笑って叔父様に抱き着いた。





***





それから叔父様の蓄音機でクラシックを聞きながらいろんな話をした。

立海中について聞かれた時に私はいろいろ思い出した。



「叔父様のいる氷帝に通うと言った時になぜ反対されたか分かったよ」

「そうか」

「いい迷惑だ。しかも他校のテニス部部長がなんであんなに知名度が高いのか全然分かんない」

「・・あれは特別だ。才能に恵まれた逸材だからな」

「へぇ」



跡部とやらは気に食わないが、叔父様にここまで言わせるくらいなのだから腕は本物なのだろう。

精々叔父様を落胆させないようテニスに励めよ、跡部。

そんな事を考えていると叔父様が唸るように声を上げた。



。あれとは会うな」

「なんで?」

「分かるだろう?騒ぎが起こる」



立海での不愉快な囁きを思い出して眉根を寄せたが、つい気になって聞いてみてしまった。



「・・・そんなに似てるの?」

「似ている。美人な方がだと私は分かるが、他の者は慣れないと気付かないだろうな。

 私も新入生挨拶で跡部を見た時に驚いたものだ。

 あの時、慌ててに髪を伸ばせと言ったのをよく覚えている」



また恥かしげもなく何か言っていたけど、聞いてなかった事にして記憶を掘り起こした。

そういやあったな、そんな事。

ちょうど一年くらい前に叔父様らしくもなく、明け方に電話でいきなり髪を伸ばすように言われたっけ。

叔父様が言う事だから大人しく切るのをやめて伸ばし続けたのだが、原因はまたもアイツか。

何だかイライラしてきたので話題を変える事にした。



「そうだ。母様が叔父様によろしくって」

「姉さんは元気か?」

「うん。あちこち忙しそうに飛び回ってるよ。も今、母様の方に付いてるから大変なんじゃないかな」

「いや、の相手をする方が大変だと言っていたぞ?」

「何それ?!」



跡部にしてもにしても腹が立つ!

は私より七つ上のの使用人だ。

使用人の中でも若いはお目付け役としてほとんど私と一緒なのだが、今は母様に付いて行っていていない。

そんな私の母様は元は榊の人間で叔父様のお姉さんに当たる。

の父様と結婚したのだが、正直父様なんかより叔父様の方が父様っぽいのだ。

これを言うと父様が泣くから叔父様にしか言わないけど。



「楽しそうな所、失礼します。ご注文のオムライスが出来ましたよ」



東さんの言葉に私は立ち上がって叔父様の手を引いた。

用意されていたオムライスは見た目もシェフ並みでふわっふわだった。

二人を急かしてテーブルに着いて、一口食べたオムライスの味に私はニッコリと笑った。

やっぱり東さんのオムライスは天下一品だ。

そう東さんに言うと東さんは苦笑してこう言った。



「私のオムライスを食べる時はいつも、太郎様が一緒だから一番美味しく感じるんではないですか?」



手を止めた叔父様を私はちらりと見てオムライスを飲み込んだ。

それは・・・・


ありえるかもしれない。


* ひとやすみ *
・ま、またもオリキャラが飛び出た・・・!
 そんな予定はなかったハズなんですが。。。。
 とりあえず、いかにさんが叔父様大好きかが書けてよかった。次は中学生組に戻ります  (08/11/26)