ドリーム小説
週末にもなると疲れが出るのか、朝起きるのがしんどくなる。
面倒ながらもいつもと同じように起きて、いつもと同じように学校に行く準備をする。
いつもと変わらない金曜日の朝七時。
通学前の学生にとって忙しい時間に携帯が電話を知らせて音を鳴らす。
日本に帰ってきて新しく買ったこの携帯には一握りの人間しか登録していない。
したがって、この朝っぱらから空気の読めてない電話相手は限られている。
「この忙しい時に何だっての」
まず最初に文句を言ってやる、と、ベッドに投げてあった携帯を掴んで名前も見ずに電話に出た。
***
今日は部活に少し遅れるため、今日の練習内容を伝えようと二つ隣の教室に向かった。
教室の中を覗くと相変わらず何がそんなに気に食わないのか、しかめっ面の副部長が座っていた。
一年一緒に居れば、さすがにあれが地なのだと気が付いたけど。
近くに居たこのクラスの子に断りを入れて、副部長の元に向かった。
「む、幸村。何かあったのか?」
「あぁ。今日は少し遅れるから伝えに来たんだ」
「そうか」
真田はそう言って身体を震わした。
俺はそこで何だかあまり真田の顔色が良くない事に気付いた。
「風邪でも引いたのか?」
「有り得ん!そんな軟弱な物に俺は負けやせん!」
「でも寒気がするんだろ?」
「・・・むむ。確かに何だか嫌な感じはするが」
「風邪だろ、それ」
「そんなハズはな「 弦ッ!!! 」
ぐはッ・・・!!!!
「・・・・・大丈夫か、真田?」
「あれ?黄色ジャージじゃん?」
「む、無論だ、幸村・・・」
抱き着いて真田に致命傷を負わせたのは、真田の幼なじみだった。
もはやあれは抱き着いたというより、タックルにしか見えないのだが。
顔だけは本当に跡部に似ているから、やはりこの光景は何か壮絶な物がある。
彼女は苦しむ真田を離しもせず、俺に向かって黄色ジャージと言ってきた。
「久しぶりだね、真田の幼なじみさん」
「だって」
「俺も幸村精市だよ、真田の幼なじみさん」
「思わず言っちゃっただけだって。部長の幸村でしょ?ちゃんと覚えてるよ」
これは意外だった。
子供っぽくムキになると思って、言ってみたのに苦笑しながらも謝ってきた。
何だか嫌な予感がして俺は真田の幼なじみに関わりたくなかったのだけど、少し考えが変わった。
「弦聞いて!!デートに誘われた!!しかも明日!!」
とりあえず俺はさんに抱き締められて落ちそうになっている真田を助けた。
今なら分かる。
真田、お前の嫌な感じとはさんの事だろう。
「!!すぐに飛び付く癖を何とかしろと言っておるだろう!!」
「だって嬉しかったんだもん!」
「お前は俺を殺す気か!?」
あ。真田言った。
それより俺が驚いたのはさんだった。
女の子らしい、という言葉は当てはまらない彼女が、まるで人が代わったように嬉しそうにデートと連呼している。
「・・・あの人か」
「そう!!朝、電話があって誘って下さったんだ」
「よかったな、」
「うんッ」
どうやら相手を知ってる真田がさんに微笑んだ。
何だか狐につままれた気分でそれを見ている内にさんは自分の教室に浮き足立って帰って行った。
「ねぇ、真田。最後のサングラス掛けて行けって何?」
「・・・休みとはいえ、待ち合わせ場所は氷帝学園前だそうだ」
「なるほど」
***
俺は阿呆の子や。
何で休みやて言うのに学校に行かなあかんねん。
『忍足、日曜までにこのプリントの名簿を埋めて私の所まで持ってきてくれ』
て、監督に言われとったのに部室に明日提出のプリント忘れて取りに行くとか跡部には絶対言えん。
言うたってどうせ鼻で笑われて終わりなんやろけど。
とりあえず制服着て昨日と同じ中身のまんまの鞄を掴んで出て来た。
面倒臭い仕事をさっさと終わらせようと歩いてたら、白い派手なコートを着込んだ奴が目に入った。
その見知った風格に俺は目が釘付けになった。
噂をすれば何とやらやな。
「サングラス掛けとるけど、思いっきり跡部やん。あれで隠れとるつもりなんか?」
あれで騙される奴の気がしれんけど、俺は騙されへんで。
思わずニヤニヤしてまうけど、俺は今秘密任務中で出て行きたくても出て行けへん身なんや。
しゃーないから大人しく観察するだけにしとく事にした。
跡部は何や知らんけど落ち着きがなかった。
あの跡部がやで?
そわそわそわそわしとって、急に駅前にあった店のショーウィンドウに近付いていった。
何か欲しいもんでもあるんか、と店見て思わず、ゲッて言ってもうた。
俺、何か跡部が心配になってきたわ。
そこウェディングドレスの店ちゃうのん・・・。
心底心配してたら跡部はショーウィンドウを見ながら髪を直し始めた。
なんや、髪型気にしとったんかいな。
ホッとしたわー・・。
ようやくそこを離れて歩き出した跡部に疑問が残る。
何でそんなにそわそわしとんやろか。
デートやったらそうなるかもしれんけど・・・。
まさかなぁ。
だってあの跡部やで?
どんどん離れていく跡部に俺は鞄を担ぎ直して足を踏み出した。
「こんな面白そうな事、見逃す手はないて!」
***
学校は後回しや、とか考えとったのに、何や跡部が行った場所は氷帝学園やった。
どうやらそこで誰かと待ち合わせてるらしい。
時計見てはそわそわしてて、こりゃホンマにデートの線が濃くなったで。
しかし跡部も考えたれよな。
待ち合わせにしたってよりによって学校前で待ち合わせはあかんやろ。
そんな事を考えとったら、白い高級外車が校門前に止まった。
「金持ちの年上かいな!」
車から降りてきた人を見てさらに度肝を抜かれた。
そのシルエットは紛れもなく・・・。
榊太郎 42歳!!!
な、何で跡部と監督が休みに・・・
あぁ!打ち合せかなんかやな、そうに違いない!
・・・・・・と、こじつけた俺の繊細なハートは打ち崩された。
跡部が太郎に抱き着いた・・ッ!!!
跡部が太郎に抱き着いた・・ッ!!!
てか太郎も嬉しそうにしなやッ!
・・・・・・・・。
あかん。あかんでそれは。
犯罪や。
いや、そうやない。
まずな、男同士やん・・・。
うん。そら自由やけど、いたいけなテニス部員からしたらやな、
部長と監督やで・・・?
助手席に回った監督は丁寧にも跡部にドアを開けてあげてた。
うん、さすが紳士やな監督。
乗り込んだ跡部を覗き込むように監督が身を乗り出した。
その瞬間、俺は跡部を追いかけた事を後悔した。
ちゅーしよった・・ッ!!
事もあろうに
42歳がホッペチューっ?!
心底叫び回りたいと思った時に事件は起きた。
ちゅー返しィ!?
跡部が照れくさそうに監督のホッペにチューしよった!
昇天しかけてる俺を放って白い幸せカーは旅立った。
「俺、明日から二人と顔合わせる自信ないわ・・・」
とりあえず、プリントはガックンに渡してもらお・・・。
* ひとやすみ *
・氷帝から丸眼鏡くんがゲスト出演です!
私は書いてて、ひっじょーに楽しかったですが彼は不運です。
念のため追記しておきますが、跡部ではなくさんですからねッ? (08/11/22)