ドリーム小説
「さま!私は応援しますから頑張って下さいね!!」
「は?あぁ、ありがとう」
何故か様と校内で呼ばれるのが、板についてきた今日この頃。
別に女の子たちに慕われるのは嬉しいからいいんだが、最近何やらよくわからんが応援される。
・・・・・一体何の?
廊下で声を掛けてくれた女の子は悲鳴を上げてすごい速さで立ち去った。
・・・・大丈夫だろうか?
マネージャーの件はとりあえず落ち着いた。
毎日勧誘するとか恐ろしい事を言ってた雅だったが、実際にするつもりはなかったらしい。
全く人騒がせな。
でも気が向いた時に聞いてきて、諦めたのか諦めていないのか相変わらず読めない男である。
教室に入ると雅が私に気付き片手を上げたので同じ様に返して机に向かった。
すると何故かここでもまた女の子の奇声が上がった。
意味が分からないまま自分の机に鞄を置くと隣の席に目を向けた。
そうすると目に入るのは隣の不機嫌な紳士で反対に雅は楽しそうに私を見てきた。
「おはようございます、さん」
「おはようさん」
「はよ、雅、柳生。で、コレ一体どうなってるの?」
「その様子だとご存知無いのですね」
また一本皺の増えた柳生に首を傾げると雅が声を殺して笑っていた。
この2人はミスマッチのようで中々相性のいいペアだと思う。
だけどこうも2人だけで話を進められると何だか悔しい。
それに経験上、こんな変な笑い方をしている時の雅はろくな事を考えていない。
「最近、あなた方の噂をよく耳にするんですが」
「噂ってまさかまたアトベ・・」
「そんな事今更ですよ」
「おい柳生、そりゃ直球すぎじゃ」
「失礼」
この2人は私を馬鹿にしてるんだろうか?
精一杯の恨みを込めて目で続きを促した。
「噂というのはさんが仁王君に恋をしているという話です」
「・・・・・・は?」
「だから、恋です」
「あっはっはっはっは!!」
「煩い、雅!黙らっしゃい!」
お腹を抱えて大笑いしている雅の頭を叩いて詳しい話を聞くと
どうやら私が雅に告白したというのが噂になっているようだ。
とある女の子が本当に見たという証言付きなのでここまで広がったらしい。
なるほど、あの応援はそういうことだったのか。
溜め息を吐いて何でこんな事になったのか考える。
ふと頭をよぎった出来事に思わず声が漏れた。
「あ、もしかして・・」
「何か心当たりが?」
あれは三日くらい前だったか。
放課後になって雅が思い出したかのように言ったソレに私は過剰に反応した。
放課後誰も居ない教室で私が雅に抱き着いて言ったんだっけ。
「雅、大好き!愛してる!だからお願い・・・ちょうだい?」
「!・・そんなに欲しいんか?」
「うん!・・雅治おねがい」
「・・・・・しゃあないのう」
「ありがと雅大好きー!」
私はこれを雅に確かに言った。
何だか真剣に私を見てきた雅は首に絡んだ私の腕を解いて溜め息を吐いた。
何であの時、溜め息吐かれたんだろう?
「ほ・・本当だったのですね・・」
「だって!だって!どうしてもあのビデオが見たかったんだ!」
「は・・い?」
柳生があんまり怖い顔をして詰め寄るから私は白状した。
あの日、そんなことになったのには事情があって・・・。
「え?去年の氷帝との練習試合のテープ?」
「あぁ、片付けしてたら出てきたんじゃ」
「観せて!」
「?なんも面白くなかよ」
「面白い、絶対!」
「欲しけりゃやるけどタダじゃ面白くないのぅ」
「なんでもする!」
「ほぅ。何でもする、とな?」
雅の言う何でもとは『縋り付いて愛を囁いてオネダリ』だった。
雅がニヤリとした顔で思いついた悪戯だった訳なのだが。
全く、あのおかげでこんな事に・・・。
って待てよ、何でこの状況で雅笑ってんだ・・?
まさか、コイツ!
「雅!お前この噂の事知ってたな?!」
「ん?あの日ドアから誰か覗いとったのは知っとるが」
「そういう事は早く言え!!」
私が足を踏み鳴らして雅に詰め寄るとまた黄色い声が上がった。
理由が分かった今は女の子の声さえも腹立たしい。
すると雅は私の腰に手を回して顎に手をかけた。
教室の悲鳴はもはや隣にまで聞こえているだろう。
「なんならあの噂、叶えてやってもよかよ?」
「やめたまえ仁王君」
―――
ペシっ!
「・・・何するんじゃ柳生」
あ。柳生チョップが雅の脳天に入った。
そしてだいたいこのタイミングの悪い時に現れるのがこの男だった。
「なぁ、あの噂ってうわぁ!!」
ホントにジャッカルはタイミングが悪い、いや、むしろ良いのかもしれない。
実はジャッカルとはすでに知り合っていて、私達はスーパー仲間なのだ。
ジャッカルと初めて知り合ったのは、夕食の買出しに出掛けた時だ。
初めてスーパーで買い物をした時に困っていた所を助けてもらったのだが、何故か買い物が下手だと怒られて
ジャッカル先生に指導してもらった訳だけど、あの時はまさか立海の生徒だとは思っていなかった。
しかもテニス部で何の因果か疑いたくなる。
教室に入って来て早々に悲鳴を上げたジャッカルに溜め息を吐きたい。
何も雅に腰を抱かれた状態の時に入って来なくても。
顔に翳した手の隙間からこっちを伺っているジャッカルが可笑しくて堪らない。
それを見ていてムクムクと悪戯心が芽生える。
雅の腕からスルリと抜け出し、ジャッカルに抱き着いて雅に向かって言った。
「雅、残念だけど今はジャッカルの方がいいんだ。ごめんね?」
動揺したのはジャッカルとクラスの人たちだった。
柳生はメガネを押し上げて溜め息をついた。
***
全く、この2人は似たもの同士で問題児ですね。
さんはニヤリと笑って仁王君を見ていて、仁王君も面白そうに両手を挙げて降参だ、と言っている。
可哀相なのは桑原君だ。
どう見ても遊ばれている。
ですがいつまでも女性に抱き着いているのはいただけませんね。
―――
ぺちッ!
「やめたまえ
黒豆君。失礼、桑原君」
「
黒豆ッ?!」
昨日の夕食に黒豆が出たから言い間違えただけです。
ゴホンと咳払いをして、まだくっ付いている二人を見た。
さんからオロオロしている桑原君を引き離して教室から連れ出すことにしました。
それ以後、さんと仁王君の噂が桑原君にすりかえられたのは言うまでもありません。
「理不尽だ・・・」
「気を落とさないで下さい桑原君。
あの人たちは何だかんだ言って楽しんでるだけなんですから」
「そうだな。でも一体何がしたかったんだ、アイツら?」
「さぁ。要するに仲良しだって事です」
人の噂も七十五日と言うくらいですからその内何とかなるだろうと思っていたのですが
どうやら私の読みは甘かったようです。
桑原君とさんの噂は三日もせずに消え去っていた。
不思議に思っていたのですが、どうやらその理由に私は鉢合わせてしまったようです。
遅刻撲滅週間のため風紀委員の仕事を全うするべく正門前に立っているとさんがやって来た。
相変わらず周りは女性に囲まれていて、よくもまぁあれで歩けるなと感心してしまいます。
「様!様の本命はホントは一体誰なんですか?」
噂の核心を衝いた言葉が飛び抜けて聞こえてきて思わず目線を向けてしまいました。
さんは少し考える素振りをして微笑んだ。
「あぁ、あれはジャッカルがあまりに面白いから私と雅で芝居を打ったんだ」
「でも好きな方がおられるんでは?」
「えぇ?困った。私は皆が好きで1人なんてとてもじゃないけど絞れないな」
「「「様ッ」」」
「好きな人が出来たらちゃんと皆に伝えるし、女の子達の恋路を邪魔するような野暮な事はしないって」
「「「さまぁ!!」」」
私は見ました。
さんが悪戯っぽく片目を閉じて女性を陥落させた所を見ました。
なるほど。
仁王君が言っていた「天然女たらし」とはこのことだったのですね。
「あ、柳生。おはよう」
「お、おはようございます」
「??」
なんだか目が合わせられなかったのですが、確かに噂が消え行く瞬間を目撃しました。
このようにしてさん自ら無自覚に噂を撲滅していってたようです。
その能力を何とか遅刻撲滅に使えないでしょうか?
今度相談してみることにします。
* ひとやすみ *
・スーパーアドバイザーのジャッカルです(違
何故か難産でした。そろそろあの人とか出したいんだけどなぁ(08/11/18)