ドリーム小説

まさか蓮二にこんな事を言われるとは思ってもいなかった。





食堂で初めて出会って以来、弦と一緒に居る事の多い蓮二とはすぐに仲良くなった。

雅とはまた違った意味ですごく話しやすい奴だった。

やっぱり面倒見が良くて、人との距離を測るのが上手いから深く踏み込んでは来ない。

そう言う意味では雅に似ているのかもしれない。

そんな蓮二が開口一番私に向かって言った。




、マネージャーをやってみないか?」

「は・・?」




私はついさっきまで堅苦しい授業に疲れて机に突っ伏していた。

雅に起こされて面倒ながらも顔を上げると雅が遠くの何かを指で示していた。

その指の先を目で追うと教室の扉でそこには蓮二が立っていたのだ。

短い休み時間にここから遠いクラスの蓮二が来た事に驚いて気ダルさは吹き飛んでしまった。

一体、何の用事か気になって手招くと蓮二はスタスタとクラスを渡ってきた。

そして話は戻る訳だ。



「そりゃええ。、マネージャーやりんしゃい」

「・・・雅まで何言ってんの?」



変な沈黙が流れた後、雅の一言で私は我に返った。

どう見ても楽しんでるとしか思えない雅の顔に私は溜め息を吐いた。



はしっかりしているし、気が利くので向いてると思うのだが、どうだ?」

「やだ」



蓮二の問いに即答すれば、なぜか蓮二は残念そうと言うより面白そうな顔をした。

断ったとは言え、頼まれた本人として蓮二のその表情は何だか複雑だ。

だけどテニス部のマネージャーとか本気で有り得ない。

何とも言えない私の心を読んだ様に蓮二は苦笑して言った。



「いや、弦一郎が断言していたとおりにが断ったので興味深いと思ってな」

「弦が・・?」



笑みを深めた蓮二を見て、私は身体を机から起こして乱れた髪を整えた。

まさか弦がそんな事を言っていたとは思わなかった。

さすがは幼なじみだ、と嬉しく思う。



「弦の言うとおり私は絶対にやらない。

 大体、自分がテニスするならまだしも、人の世話するなんて向いてない」



そう言って肩を竦めると蓮二は今度こそ残念そうな顔をした。

どうやら諦めてくれたみたいでホッとして次に雅を見ると面白くなさそうな顔をしていた。



「なんじゃ、つまらん」

「雅にネタを提供する気はないっての」



元々、私は部活に入るつもりはない。

入れば私はやるからにはトップを目指すだろうし、妥協出来なくなる。

自分の性格は自分が一番よく分かってるし、マネージャーであってもきっと同じだろう。

でも私にはたくさんやりたい事があるし、テニス部のマネージャーなんかやったら

嫌でも自分の時間が少なくなる事は想像出来る。

中途半端な気持ちで入部するのも嫌だし、時間を取られるのも嫌だ。

それにテニスは自らやる楽しみがあるからこそ、見る事も準備する事も楽しいんじゃないか?

まぁこれは論ではあるけれど。



「残念だがは意見を曲げそうにない、か。それに時間切れだ」



蓮二の言葉に私と雅は教室の壁時計を見上げると、針はあと数分で休み時間の終了だと告げていた。

蓮二は邪魔をした、と言って踵を返して颯爽と教室を出て行った。

休み時間も残り少なくなった所で蓮二が出て行き、私は一件落着したと息を吐いた。

しかし、事件はこれで終わりではなかった。








***







蓮二が勧誘しにきた翌日、特に何も目立った事はなくいつも通りの放課後を迎えた。

日直だった雅が一日放って置いた学級日誌を嫌々書いているのを私は見ていた。

その私はと言うと、教室掃除の後にゴミ捨てを任されてゴミ箱を抱えている。

見ているだけも暇なのでウロウロとして廊下に出てみると見覚えのある赤色が近付いてくる。

教室に戻り雅に声を掛けた。



「雅、ほらあの同じ2年でテニス部の・・・あー。名前忘れた」

の説明じゃ全く分からんのじゃけど」

「うあー。ほら、あの赤い髪の・・・・何とか井だった気がするんだけど」

「あぁ。丸井ブン太じゃなか?」

「それそれ!!そいつこっちに来てるみたいだよ」



廊下を指して言えば雅は少し考える素振りをして日誌を書く手を早めた。

テニス部が来るなら邪魔になるかと思って私はゴミ箱を抱え直して焼却炉に向かう事にした。

教室を出ようとした時に後ろから声が掛かった。



、ちぃとでええからマネやってみんか?」



その言葉に思いっきりゴミ箱を教室の扉にぶつけた。

ぎこちなく振り返れば雅は嬉しそうに日誌を片手に立ち上がっていた。

どうやら書き終わったらしい。



「お前、私と蓮二の話聞いてたよな?私はい・や・だ、と言わなかったかな?」

「それなら俺は諦めるなんて言うたか?」

「無理。ダメ。いや。諦めろ」

「そりゃ残念じゃが、が頷くまで毎日聞くて決めたんじゃ」

「・・・は?」



綺麗に笑う雅にようやく言葉の意味を理解して私は肩を震わせた。



「ふッざけんなぁッ!!」



怒りに任せて私は教室を開けてゴミ箱を引っ掴んで足音荒く教室を飛び出した。

扉の外には例の赤髪男がいたけど気にせず私は教室から離れた。

よりによって雅に目を付けられるなんて最悪だ。







***







仁王に部活の連絡を伝えてくれと頼まれてわざわざ遠い2−Fに足を運べば、噂の転入生が飛び出して来た。

しかもゴミ箱を抱えて何だか相当怒っているようだった。

それにしても顔はホントにあの跡部に似ていた。

一体何が、と思いながら転入生が出て行った教室を覗くと仁王が楽しそうに笑いながら出て来た。



「真田からの伝言なんだけど・・・てか、なぁ仁王、何かアイツめちゃくちゃ怒ってなかった?」

「あぁ。フラれてしもたんじゃ」

「・・・は?!」



楽しそうに先を歩く仁王を俺はとりあえず追い掛けた。

それにしても、相変わらず仁王の言ってる事は意味わかんねー。


* ひとやすみ *
・古典的にマネ依頼してみました。
 におさんに目付けられたら一発な気がします。。(08/11/18)