ドリーム小説
転入してから日が経つと、かなり周りも落ち着いてきた。
未だに跡部と呼ばれたりして不服はあったが、これはこれで楽しくやっている。
転入初日から騒ぎがあったけど、2年生はまだ始まったばかりだ。
「、メシ行かんか?」
「雅!行く行く!」
同じクラスになったテニス部の仁王雅治とは親しくしている。
相変わらず制服ゆるゆるで、性格もゆるゆるな感じだが、雅は物知りで一緒に居て飽きない。
・・・まぁ、たまに変なことまで知っているが。
初めて会った時、どことなく違う雰囲気を持っていると感じた事はあながち間違いじゃなかった。
美形は美形で近寄り難い雰囲気があるって事だ。
雅と仲良くする事で嬉しい事に特典が付いてきた。
雅と一緒にいると不愉快な囁きが聞こえなくなったのだ。
私への質問攻めも急になくなった。
跡部と呼ばれる事が少なくなったのは、多分雅が何かしてくれたんだと思う。
そう呼ばれる事を私がすごく嫌っていたのに気付いたんだろう。
跡部と違って髪を伸ばしているから違いは分かると言ってくれるが、それでも私は跡部のせいでイイ迷惑だ。
そんな事はもうどうでもよくて!
雅と一緒に居て楽しくて、特典付きなんて良い事尽くしじゃないか!
***
「弦一郎、あそこに居るのは仁王とじゃないか?」
蓮二は食堂でと仁王が楽しそうに昼食しているのを見付けた。
最近あの二人が一緒なのがよく目に付く。
蓮二とは直接話した事はないが、転入前のあの事件で蓮二は弦一郎の幼なじみの存在を知った。
もちろんデータマンとして今ではのデータは収集済みだった。
「あぁ。どうやらの機嫌も直った様だ」
弦一郎は蓮二の指す方に目を向けてホッと息を吐いた。
はあの顔のせいで跡部と比べられてずっとイライラとしていた。
ようやく楽しそうな表情をするようになって弦一郎は安心したのだった。
「は仁王が居るから跡部に似ていると噂されなくなったと思っているようだが、
実際は弦一郎が皆に助言したのだろう?」
「あぁ、その事か。別にそんな事はどうでもいい」
( が楽しそうならそれで )
そんな言葉を飲み込んで、弦一郎は持ってきていた弁当を前に手を合わせた。
弦一郎のどこかいつもと違う表情を観察しながら蓮二も手を合わせて箸を握った。
蓮二は目の前で黙々と弁当をつつく弦一郎を横目に、遠くに座る二人に視線をやった。
( しかし、珍しい事もあるものだ・・・ )
蓮二の目は転入生のではなく、同じテニス部の仁王に向けられていた。
今まで仁王はどことなく人を遠ざけて生活していた。
それは仁王だけに限らず、テニス部のメンバーの多くもそうしていて彼らの世界は内輪だけの世界で狭かった。
もちろん、それは蓮二にも言えた事である。
とくに仁王の性格を考えると尚更を傍に置いている事が蓮二にとって不思議だった。
これは彼のデータの予測範疇を超えていた。
しかもは女である。
仁王の場合、近くに特定の女子を置いておく事が後でどんなに面倒な事になるか仁王が分からない訳がない。
何かといる事で仁王にメリットがあるのだろうか。
蓮二は抜けられない迷路に自分が迷い込んだような気持ちになった。
段々昼食が美味しくないように感じられてきて蓮二は考える事を止めた。
( まぁ、俺には関係のない話だ )
区切りを付けて蓮二が視線を戻すと弦一郎と視線がぶつかった。
どうやら蓮二の視線の先に気付いていたらしい。
弦一郎にしては珍しく鋭い勘に蓮二は少々感心して話を逸らしにかかった。
「しかし、予想はしていたが早かったな」
「何がだ、蓮ニ?」
蓮二は弦一郎が何かを勘繰っているのだと思っていたが、どうやらそうでもなかったらしい。
蓮二の意識がこちらに帰ってきたのを確認した弦一郎は、箸を置いてお茶に手を伸ばした。
コップに口を付ける弦一郎をちらりと見て蓮二は呟くように答えた。
「様ファンクラブだ」
「
ぶッ・・!!何だそれは?!」
口の周りをお茶まみれにして弦一郎は蓮二の言葉に噛み付く。
蓮二は慣れた様に懐紙を取り出して弦一郎に手渡した。
「お前にも居るはずなのだが?
まぁ彼らのおかげで善からぬ事を考える者は当分おるまい」
「そ、そうなのか?」
「その確率は68%だ」
弦一郎は言葉にならない声を絞り出してオロオロとしていた。
蓮二は首を捻って弦一郎の言葉を待った。
「い、いやそうではなくてだな。俺にも・・」
「あぁ。
真田様愛援隊の事か」
「な、何だそれはッ!!」
悲鳴にしか聞こえない大声を上げて弦一郎は飛び上がった。
蓮二は咄嗟に塞いだ耳から手を放して淡々と口を開いた。
「何だも何もお前の傍でいろいろ活動しているが気付いていなかったのか?」
「知らん。本当にそんな物があるのか?」
「よく考えれば心当たりがあるだろう?
あぁ、それと弦一郎・・」
「少し待て!今考えている」
蓮二は弦一郎の後ろに視線をやって、口を開こうかと思ったが結局言われた通り黙る事にした。
うんうん呻っている副部長に溜め息を吐きながら蓮二はお茶を啜った。
「やはりそんな物に覚えはな・・ッ」
「弦ッ!!」
―― ゴンッ・・・・!!
テーブルに派手に頭をぶつけた弦一郎は振り返って、首に縋り付いているを叩き落とそうとした。
それを察したはひょいと自分からすんなり離れる。
「!!!すぐに飛び付く癖を何とかしろ!!」
「驚かせようと思っただけじゃない、ね、雅?」
「仁王!お前もを止めんか!」
「驚かすのに言うてしもうたら驚かんじゃろが。それにそれを言うなら柳も知っとったぜよ?」
面白そうに後ろから歩いてくる仁王にも弦一郎は吠えて、終いに矛先は蓮二に向いた。
は興味深そうに蓮二に目を向けた。
「蓮二!!知っておったなら何故言わなかった?!」
「言おうとしたが、少し待てとお前は言った」
それを聞いたと仁王は悔しそうにする弦一郎に遠慮せずに声を上げて笑った。
蓮二は目の前で笑う二人を見て何かがストンと納まった。
( なるほど。仁王とは似ている )
納得がいった訳ではないが、蓮二は迷路の出口を見付けたような気がした。
腹の底から笑うに弦一郎は怒鳴り散らしたが効果はなかった。
「えと、柳蓮二でよかったっけ?」
「俺を知っていたのか?」
怒りで喚き散らしている弦一郎を仁王に押し付け、は蓮二に声を掛けた。
キョトンとして聞いてきたデータマンには苦笑した。
「当たり前だ。弦のお世話役だからな」
「俺はそんな事を認めた覚えはないが?」
「じゃあ、よっぽどのお人好しだな。
でなければ弦があんな風に楽しそうな訳がない。柳はいい奴だ」
「・・・・あれが楽しそうか?」
「楽しいだろう?・・・・・私達が!」
そう言ってが満面の笑みを浮かべると、蓮二は弦一郎に視線を向けてフッと口元を緩めた。
「そうだな」
そう呟いた蓮二には満足そうに頷いた。
それを見ていた弦一郎が二人に叫んだ。
「お前達!!何を話している!!」
「お前のファンクラブについてだ」
「面白そうじゃね、俺も交ぜんしゃい」
「待て!!だからそんな物は存在しな・・・ッ」
「あー。
真田愛炎隊だっけ?」
何気ないの一言で弦一郎の動きが固まった。
そこにトドメと言わんばかりに容赦ないツッコミが蓮二から入る。
「違う。正確には
真田様愛援隊だ」
「どっちも同じじゃろうが」
「そうそう。雅の言う通り」
仁王の言葉にうんうんと頷くを見て蓮二は首を傾げた。
それから仁王とは悪戯っぽく笑って声を揃えた。
「「どっちも萌ってことだろ(じゃろ)??」」
蓮二は目を数回瞬かせてから同じようにニヤリと笑った。
「燃える、とかけたのか。なるほど。一理ある」
楽しそうに笑うを見て蓮二は少し隣で笑う仁王の気持ちが少し分かった気がした。
( まぁ、こういうのも悪くない )
* ひとやすみ *
・やっちゃった・・・・ッ!!好きなように書いたら暴走致しました。。。
弦ちゃんが可哀相な子に。キャラが崩壊していきます。。(08/11/12)