ドリーム小説
ピピピピ ピピピピ  ピピッ



布団から手探りで煩い目覚まし時計に手を伸ばし黙らせる。

ベッドから身体を起こして時計を見ればまだ7時にもなっていない。

私はまだ寝呆けて全然働かない頭をひねる。



「・・・・・・何で、こんな時間に起きたんだっけ・・?」



座ったまま目を瞑れば眠気で意識が遠退きそうになって首を振る。

このままじゃ二度寝してしまうと嫌々ながらベッドを降りてシャワーを浴びる事にした。

温かい湯を浴び、眠気も全て洗い流してお風呂場から出るといつも置いてある着替えがない。



「あ。そうだった。今は一人暮らしだった」



実家にいた時は家には必ず誰かが居て、着替えを置いてあったのだが今は本当に一人だ。

そんな事も忘れていたダメダメな自分を笑って叱ると急に頭が回り始めた。

とりあえず誰も居ない事を良い事に裸で部屋に戻ってクローゼットを開けた。

そこに掛けてあった服を掴んで着替える。

真っ白なブラウスにネクタイを締め、真新しいブレザーを羽織ってスカートの裾を整えた。

部屋の端に置いてあった全身鏡の前に立ってクルリと1回転してポーズをとる。



「うん、さすが。似合ってるよ!」



鏡の中で制服を着ている自分を褒めて笑う。

そう、今日から私は立海中の生徒なのだ。







***






「ミッチー、おはよう!」

「おう」

「ミッチー先生、おはよー」

「はい、おはよう」

「ミッチー!」

「はいはい」



少し早めに登校して職員室に顔を出せば、まばらに入室してくる生徒に声を掛けられてる担任を見付けた。

先生はすれ違う生徒に椅子からだらりと首だけを傾けて挨拶を返していた。

楽しそうに職員室を出て行く生徒とすれ違いながら担任の元へ向かった。



「ミッチー・・・?」

「ん?あぁ、か。おはようさん。俺の名前、清道って言うの。だからミッチーらしいわ」

「なるほど」



どうやら進藤先生ことミッチーは生徒に好かれているらしい。

そんな事を思っていたら予鈴が鳴ってミッチーは出席簿と配布物を持って立ち上がった。



「んじゃ行くか。まぁぼちぼち頑張れや」

「・・・ありがとうございます?」



激励なのか、そうじゃないのか分かりづらいが応援されているのは確かだろう。

とにかく教室に向かうため、ミッチーの隣に並んで廊下を歩く。

緊張はあまりするタイプではないので気負ってはいないけれど、新しく始まる生活が少し楽しみになってきた。

そんな事を思っていると、ふと視線を感じて隣に顔を向ける。



「あー。なら大丈夫だと思うが、中々に面白いクラスだぞ。

 ほれ教室ここな、入れ入れ」



いつの間にか着いていた2ーFのクラスを出席簿で示したミッチーに教室に視線を向ける。

教室は下駄箱から階段を上ってすぐの教室で移動教室も楽そうだ。

廊下に出ていた生徒と目が合うと指を差されたり、ジロジロと見られた。

まぁ、春から間もない今の時期の編入生は珍しいから仕方ないと思いつつ教室の扉に手を掛けた。

スライド式の扉は思った以上に軽くて、大きな音を立てて跳ね返ってきた。

それでも何事もなかったように教室入ると騒がしかった教室が水をうったように静まり返った。

教卓の隣で立ち止まってようやくクラス全体を眺めた。

次の瞬間、教室は女の子の悲鳴に包まれた。



「何で跡部サマがッ?!」

「嘘でしょ!!」

「きゃー!!あとべさまぁ!!」



騒音のようなキンキン声に思わず耳を塞いでミッチーに助けを求める。

振り返ったミッチーは驚いた事にこの騒音の中でも耳も塞がず平然としていた。



「はいはいはいはい!!だーまーれー!」



出席簿で教卓を遠慮なく叩いた担任に、教室はまだ熱気を含みながらもやっと静かになった。

というか、今気付いたけどミッチー耳栓してる!!ずるい!!

何でこんなに用意いいんだ?



「よーく見ろ、お前ら。跡部はスカートなんぞ穿かん」

「跡部サマがスカートを?!」

「え?!なんで?!」



もうどうしていいかわからない。

いやいや、普通に考えてそろそろ人違いだと気付いて欲しい。

それもこれも、全て同じ顔した跡部なんとかのせいだ。

前にテニス部見学に行った時、久々に再会した弦が「アトベ」とは何か教えてくれた。

氷帝にいる同い年の凄腕テニスプレイヤーらしいが、私の顔はそいつにそっくりだそうだ。

というか、そいつに似てるだけで何でこれ程までに騒がれるのかよく分からない。

大体、立海生のほとんどが跡部を知ってるなんてどんな知名度だ。

いい加減、この反応ムカつくからやめてほしい。



「今日からこのクラスに編入してきたといいます。です。

 氷帝にいるという跡部とやらとは全くの赤の他人です。not 本人

 アメリカに住んでいたので不慣れな事が多いけど、どうぞよろしく」



女とnot本人を強調させて自己紹介したら少しスッキリした。

教室の反応は茫然としていたけれど、ミッチーが良くやった、と拍手をくれた。

私のために一つ増えた一番後ろの席に座ると、クラスはまだ落ち着きはないもののHRが始まった。



( こんなのでやっていけるのか、私・・・・ )







***







授業が始まり、クラスメイトからの質問攻めから解放されて溜め息を吐く。

次の休み時間が恐ろしくてガクリと肩を落とす。

先生が話す声を聞き流しながらシャーペンを回して物思いに耽る。



「お前さん、あの真田の幼なじみなんじゃろ?」



小さく囁かれた声だったが、知ってる苗字を耳にして隣を見た。

そこには机に腕を乗せて隠れるようにこちらを見ていた生徒が居た。

窓際のせいか、髪に陽が当って銀髪がキラキラしていた。



「へ、弦?あ。もしかしてアンタもテニス部?」

「当たりじゃ。俺はアンタじゃのうて仁王雅治というカッコええ名前があるんじゃが、さん」

「それは失礼致しました、隣の仁王くん」



机に肘をついてニヤリと笑えば、仁王は楽しそうに笑い返してきた。

話し掛けられて初めて気付いたのだけど、仁王の纏う雰囲気はこのクラスでは浮いてる気がした。

それはやっぱり仁王の顔の造りがすごく綺麗だからだろうか?

だったら私なんかで騒ぎ立てるより、仁王に群がってる方がよっぽど相応しい気がした。

そんな事を考えていたからか、いつの間にか仁王の顔を穴が開くほど見つめていたらしい。



「何じゃ?俺に惚れたか?」

「うん。綺麗な顔してるよねー」



思わず即答すれば仁王は腕から顔を少し上げて数回瞬きをした。

あれ?この美形ならさらりと流すと思ってたのに。

仁王はやれやれといった風に溜め息を吐いた。



「分かっとらんのう。そういう時は頬を染めて恥ずかしそうに言わんと」

「あー。そうかゴメン」

「気持ちがこもっとらんのー」



なるほど、なるほど。これは面白い。

悲しそうな表情を作った仁王は小さく口の端を吊り上げた。

私は私でポンポンと出てくる言葉のやりとりを楽しんでいた。

どうやら仁王とは気が合いそうだ。



「お前さん、騒がれとるほど跡部に似とらんな」

「え?」



これにはホントに驚いた。

今まで似てるとか、瓜二つとか、本人だろとかしか言われなかったから

まさかそんな事言われるとは思って居なかった。

ここにきて初めてという存在を認めてもらったような気がした。



「やっぱ、似とらん。の方が面白そうじゃ」



綺麗に笑った仁王に私は一瞬呆けて肩を震わせた。

それを不審に思った仁王が私の名前を呼ぶ。

それの何と嬉しいことか。



「もうお前大好き!これから友達な、雅!」



嬉しさ余ってそう言うと仁王は目を見開いて私を見ていた。

それがどうしてなのかに気付いたのは先生に名前を呼ばれてからだった。



さん。転校初日から友達が出来た事は喜ばしいですが、今は英語の時間ですよ?」



ハッとして前を向くと先生とクラスメイトの顔が一人残らず私を見ていた。

隣の仁王を見れば背筋を伸ばしていつの間にか教科書を開いている。

コイツ・・・ッ!!



「ではさっそくさんに訳してもらいましょう」



私は肩を落として教科書の簡単で堅苦しい英語を訳した。

読み終わって睨むように隣を見れば、仁王が身体を揺らして笑っていた。

仁王は笑いながら私を見て目を細めた。



「友達な。それもいいかもしれん。よろしくな、



その一言で雅を許してしまった私は単純だと思う。

* ひとやすみ *
・ミッチー出張る・・・。
 しかもちょっとずつ設定とずれてきてる?あれー?(08/11/12)