ドリーム小説

屋代が飛ばした鷹文は斡祇を震撼させた。

当主が床に臥してここ数年、ゆるゆると衰退していくのを黙って見ていた彼らに緊張が走る。

まるで他人事のように感じていたが、このまま行けば織田に一族が滅ぼされることは間違いない。

凌禾の二の舞を避けようと兵を動かすためにと屋代は緊急招集を掛けていた。




「おぉ!ついに我等が動く時が来たのですな、姫様!」

「些か遅すぎたような気がしないでもないが」

様は重い病だったのよ。無茶言うんじゃないよ!」

「屋代殿は及ぶ限りの手を尽くしておられたよ」




自由すぎる発言を聞きながらは目を瞬いた。

武田や伊達のような軍議を想像していたので、男も女も身分関係なく集まった人達に驚いたのだ。

今回は双野木から出兵するため、集まったのは双野木の当座、棟梁、女衆頭、組隊長など数名である。

出てくる言葉にドキドキしながらは黙って屋代を見た。

実際、屋代はここ数年、実によく立ち回っていた。

とうに亡くなっている当主を“重い病”と称し、当主の権限も使えない中、三年も斡祇を守ってきたのだ。

だが、姫軍師の存在は少々大きくなりすぎた。

他家と渡り歩くならと姫軍師の関係は切り離せないし、当主と姫軍師が同一人物なら三年間の矛盾を隠し通すのは不可能だ。

そこでと屋代は何度も話し合った結果、リスクはあるが嘘の上塗りを選んだ。

がゴクリと咽喉を鳴らしたのを合図に屋代は一つ頷いて口を開いた。




「まず皆に謝らねばならん。先に話した通り、姫が記憶を失われたのは事実だが、病の床にいたと言うのは出任せだ」

「どういう意味だ?!」

「嘘吐いてたと?!どうしてそのような・・・」

「姫は内密に片付けたい案件があると言って奥州へ出向かれた。だがその途中、不慮の事故に遭われ記憶を失くしたらしい。

 姫からの連絡が途絶えて行方が分からなくなり、私はずっと手を尽くして探していた」

「どうして言ってくれなかったんだい!!言ってくれれば一族皆手分けして探したのに!」

「・・・その頃から織田が不穏な動きをしていて、当主不在などと知られる訳にはいかなかった」




実際、織田の目が光っていたため、屋代は当主が亡くなったことを言い出せなかったのだ。

もし当主不在がバレていたら、一族はもっと早く織田に畳み掛けられていただろう。

屋代の対処が間違っていないことが、皆には良く分かり反論の言葉が出てこなかった。

嘘と本当が入り混じり、それが逆に真実味を出していた。

それから靭太と己鉄が事実を知り、を探して旅に出て今に至ると屋代は語った。




「事情は相分かった。だが、問題は何も解決しておらんじゃろう?今の姫様に斡祇を治められるのか?」

「皆も存じている通り、姫は先代が決めた列記とした我等の当主だ。記憶が無いからと言って無碍には出来ん」

「つまりそれは姫の顔を立てつつ、屋代殿が戦の指揮を執ると?」

「・・・当主を降りてもらうにしても今は時がない、か」

「以前の様ならいざ知れず、やっぱり今のままじゃ無理よねぇ・・・」




誰からともなく溜め息を吐くと部屋に沈鬱な空気が流れた。

まだ一言も話していないは自分のことで暗くなる部屋にオロオロしている。

その様子を第三者的立場で見ていた屋代は耐え切れずついに噴き出した。




「くく・・・、あぁ、戦のことだったな。采配は姫に任せても問題ない」

「何言ってんだい!アンタが笑うなんて天変地異の前触れだとは思ったが、本当にどっかおかしくしたんだね?!」

「俺達が認めた当主は姫であって、例え同じ人間でも記憶を失くした小娘に村の命運を預けられる訳ねぇだろうが」

「酷い言われようだが、私だって使えない人間を無策で推したりはしない。貴殿らは甲斐の姫軍師を知ってるか?」




急な話題転換に一同揃って怪訝そうな顔を屋代に向けた。

姫軍師の話にだけが居心地悪そうに視線を泳がす。

甲斐の天才軍師の弟子で包丁を提げていると聞けば、鉄を扱う斡祇で噂にならないはずがなかった。

それがどうしたと言わんばかりの表情にまた噴き出しそうになるのを堪えて屋代は話す。




「姫が行方を晦ましていた間どこで何をしていたか、まだ話していなかったな」

「・・・まさか」

姫・・・?」

「うぅ・・・ごめんなさい。それ私なの。気が付いたら姫軍師とか呼ばれてて」




楽しげな屋代の視線やら一同の問うような視線に耐え切れずは思わず謝った。

その直後、盛大な溜め息が聞こえてきて申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

どうしようと縮こまると突然笑い声が上がった。




「そうよねぇ。あの様が記憶失くしたくらいで大人しくしてる訳ないわよねぇ」

「・・・どうせ奥州で常識外れなことやらかして甲斐にでも逃げ込んだのだろう」

「んー。まぁウチは他家とはしきたりや何もかもが全く違いますからね。居心地悪かったでしょう?」

「どうして全部分かっちゃうの?!」

「皆、同じ斡祇一族ですからの」




当座の微笑みにはキョトンと目を瞬いた。

がこの世界に来て周りに溶け込んだと自然に思えたのはこの時が初めてだった。

ついさっき知り合った人達が自分のことを分かってくれる不思議。

まるで温かい湯にでも浸かっているような感覚だった。

そう言えば、ここの人達には癖だった敬語も出ていない。

よく考えれば元の世界では普通に喋っていたのだから、癖になったのはこちらに来てからなのだ。

何でこんな気分になるのか?

はそう思いながら辺りを見回して思い至った。

ここは現代に似ていて戦国らしくないのだ。

身分も立場も関係なく人として対等に居れるからここはこんなに馴染むのだ。




「采配が揮えるのは分かった。だが、記憶を失くしたお前が本当に一族のために帰ってきたのかどうかとは話が別だ」

「つまり私が甲斐の姫軍師として斡祇を乗っ取りにきたと?」

「それは泳がせたら分かることですよ。害があれば首を頂くまでですから。何か問題が?」

「・・・ないわ。でもこの首まだ誰にもあげるつもりはないから!」




ここの空気が馴染むのは確かだが、身分に係わらず遠慮がない分この言われ様は何だかムカつく。

は怒りを抑えて立ち上がると厠に行くと言って部屋を出て行ってしまった。

残された部屋で組隊長がクスクスと笑い、女衆頭が呆れた視線を向ける。




「首ってアンタ、様が腹芸出来ないの分かってて発破かけたね、隊長?」

「ふふ、でも事実ですよ。兵の命を預かる身としては、害は掃わなければなりませんからね」

「何だかんだ言うておるがお主らは姫様を信じとるんじゃな。棟梁は姫様を本当に間者だと?」

「・・・あれがそんな器用なこと出来るとは思ってねぇよ。だが俺にも鉄を守る義務がある」




残って会話を聞いていた屋代は安堵した。

嘘を上塗りしたことで姫軍師が敵か味方かの議論でもめると思っていたが、どうやら当主の人柄に救われたらしい。

が戻ってきてからが本番だと屋代は気合を入れ直した。


* ひとやすみ *
・さーて、始まりました!!砂散華編!!
 実は相当苦戦した話なのですが、案外あっさりスッキリ終わった気がします。笑
 ここからはオリジナルなのでどうしてもエキストラが増えます。
 今回出てきた人達もちょっと偉い通行人ABCDくらいに思っていて下さいね!
 さぁここからが大変だ!頑張りますので、応援よろしく願いますー!!           (10/12/03)