ドリーム小説

部屋に戻ったはどこか空気が和やかになってるのを怪訝に思いながら上座に腰を降ろした。

と屋代にとって一番避けなければならなかったのは当主が別人であるとバレること。

数年記憶を失くして行方を晦ませていたと話すのはリスクが高かったが、

不意打ちで姫軍師を出したことで彼らとの衝突は五割の確率で避けられるだろうと二人は考えていた。

屋代がすぐ別人だと気付いたのは当主を看取ったからであるし、あまり親しくない人物の成り代わりなど普通気付かない。

議題が二人の思惑通り“本物なのか?”から“姫軍師が何しに来たか?”にすり替わった時は手に汗握ったが、

当主の性格に助けられ、監視付ではあるが一応兵を動かせる当主と認められたらしい。




「時間がない。既に明智と魔王の嫁に加賀への侵入を許している。前田の援軍には“い組”を送る」

「“い組”?!それだけじゃ少なすぎますじゃ!」

姫、双野木を護ろうとしてる気持ちは立派だけど、それだけじゃ織田の二連軍には勝てないよ」

「そうだよ様!せめて“ろ組”も連れて行きな。半分以上連れて行ったって棟梁と私等で村の始末は出来る」

「・・・全組、使っても構わないだろう」

「駄目だ。“ろ組”と“は組”は村に残す」




屋代の鋭い声に全員から非難の声が上がる。

斡祇は各村に“いろは組”という軍を持ち、い組から順に実力によって三隊に振り分けられる。

その総数は村によって異なるが双野木は凡そ三百人、い組は精鋭のため人数は少なく五十前後だ。

女衆は命を護るため、棟梁のいる匠衆は鉄を護るため、村からは絶対に動かせない。

彼らには、最悪の場合、鉄と技術を処分する責務があるからだ。

精鋭と言えど五十ばかりで向かうと言い、寄せられた視線をは強い瞳で黙殺した。

十七、八の娘から発される威圧感に一同が目を瞠り口を閉じた時、は言った。




「もう二度と村を焼きはしない」




魔王に狙われた土地は斡祇に限らず草も残らないという中、凌禾村は技術と鉄を護り抜いて消えた。

その行いが当然であり、立派だったと村の誰もが思っている。

あの状況下では仕方なかったはずなのに、悔やんでいるようなに不意を衝かれた。




「姫様・・・」

「それに半分以上兵を残す理由はある。なぜ戦がまだ始まっていないのか。相手はあの明智と魔王の嫁なんだ」

「時間稼ぎとでも?一体何のために・・・」

「私と姫は奇襲と読んだ。織田にはまだ身軽に動ける武将がいる。尤も、子供を武将と言っていいかは定かでないが」

「まさか、森蘭丸?!」




一同が驚きに目を見開く中、は腕を組んで目を細めた。

戦が始まってない理由なんて奇襲・陽動・アクシデント、正直いくらでも考えられる。

何十もの想定の中で一番最悪な場合を考えると、兵力を残しつつ、多く分散させないとまずい。

だがそうなると、一歩読み間違えれば少ない兵力は潰されてしまうだろう。

この戦、先読みと情報が鍵を握る・・・!!




「とにかく相手が分散してる以上、こちらも分散させる。私は“い組”と出る。あとは屋代に任せるつもりだ」

「姫様が前線に?!」

「なるほど。その方が前田に話が通し易いか」

「話は終わりだ!各自持ち場に戻り、準備が出来次第戦に出る!何としても我等の誇りを護れ!」

「「「「 承知 」」」」






***






解散してからすぐに出立の準備は整った。

微調整はあったものの、どうやら元々戦準備のため屋代はより先に双野木村に来ていたらしい。

兵を動かす権限もなく一体どうするつもりだったのかと考えれば考えるほど嫌な想像しか出来ず、は考えるのを止めた。

予想外なことは他にもあった。

“い組”は本当に精鋭部隊のようで、一人で他の兵の三倍以上働けるらしい。

も武将クラスに自身の戦闘能力を散々褒められてきたので、それなりに強いと自負していたのだが、

軽く手合わせをしてみて負けそうになり酷く焦ったのだ。

その場は彼らを率いる立場として根性で勝利を収めたが、半泣きだったとここに記しておく。

尤も、彼らはそんなこと知るはずもなく、自分達よりも数段強い自慢の姫様だと尊敬の念を強めたのだが。

陣羽織に腕を通し、支度が出来た所では屋代が近付いて来る気配に気付いた。




、お前、なぜ泡沫を差していない?いつも何を使って戦場に出てるのだ?」

「・・・え?だって泡沫ってただの木刀だし、いつもはこの懐刀一本で、」

「何ぃ?!」




開けっ放しの部屋を覗いて、屋代が怪訝そうに呟いた一言に首を傾げて返せば物凄く驚かれた。

深々と溜め息を吐いた後、「逆に尊敬する」とまで言われると流石に面白くない。

一体何の話だと不満気に視線を向けると、屋代は置きっ放しの泡沫を手に取って黒塗り鞘を抜いた。




「一見、変わった木製の脇差のようだが、泡沫は仕込刀だ」

「しこみがたな?」




屋代は刀身を黒い鞘に一度戻しながら頷いた。

驚いたことに屋代は鞘に入れたままの柄を半回転させた。

手元でカチリと音がしたが、普通鞘の中で刀が回転するはずがなく、は目を丸くした。

そのまま鞘から刀を引き抜くと、鞘と同じまっ黒の刃を持つ刀が現れた。




「え?!えぇ?!えー!!」

「驚くのはまだ早い。鞘を逆さにするとまた柄が出てくる」

「今度は白い柄・・・?まさか!」

「あぁ。柄を回せば、もう一本小刀が出てくる」




回した柄を鞘から引き抜けば、二回り以上も小さな白い刀身の刀が現れた。

同じ鞘から二本の刀・・・。

何がどうなっているのかさっぱり分からない。




「泡沫は黒刀“飛沫[しぶき]”と白刀“泡雪[あわゆき]”で一双。それを知らぬ者は扱えぬ一族の宝刀だ」




は黒い脇差と白い小刀、長さの違う二本を掴んで眺めた。

屋代はこれで戦えと言っている。

ならばその期待通り、必ず勝って護り通してみせる。

は口角を上げて頷くと泡沫を掴んで部屋を出た。


* ひとやすみ *
・めでたく100話!長い!長すぎる!これも皆様のおかげ!というか申し訳ないです!
 木刀泡沫が宝刀に変わった瞬間です。ようやく語れたよ!どうなってるとか
 深く考えず「すげー刃物だったんだ」くらいで大目に見てやって下さい。笑
 一本ずつ名前付けたのも特に意味は無く、黒くて長いのとか白くて短いのとか今後
 説明が面倒そうだったk・・・略
 いろは組に関して言えば、某忍者の卵っぽくなったけど特にそんな意図はなし。笑
 ホント無駄に長い話ですが、その内終わる予定なんでその日までどうぞお付き合い下さいませ! (10/12/12)