ドリーム小説
「ね、眠れない・・・」
幸村が去ってから一切機能が停止してしまったはそそくさと布団に潜ったのだが、眠気なんて吹っ飛んでしまった。
仕方なく夜着の上に羽織を着て、は自室を出た。
夜の人気のしない静けさの中を一人歩いていると、どうしても物思いに耽ってしまう。
もう時間がない。
なのに、問題は山積みで頭が痛い。
初めは武田と伊達で天秤が揺れていたのに、そこに政宗さんが乗っかって、さらに斡祇が圧し掛かって、
しまいには幸村さんが爆弾を落としてくれたのだ。
一体、私の中の天秤は今どうなっているのか。
だ、大体、好きとか言われても全然分かんないよ!
これまでの人生でが異性に告白された経験はほぼゼロ。
むしろ悲しい事によく男と間違えられて女の子に告白されてきたのだ。
それがここに来て突然の告白ラッシュ。
何、これがモテ期ってやつなの?
実の所、中性的な顔付きのため綺麗な顔をしているに好意を寄せていた男達は多かったのだが、
は彼らよりもフェミニストでしかも男前すぎて近付けない高嶺の花だったのだ。
そんな恋の「こ」の字も知らないには、いくら姫軍師と言えど分からなさすぎる難問であった。
恋って何なの?好きって何?
好きになった瞬間、「恋に落ちました!」って分かりやすく旗でも揚がればいいのに!
「何やら百面相しておるの」
そんな埒の明かないことを考えていると不意に声を掛けられて驚いて顔を上げた。
向かいの廊下に信玄が酒瓶片手に立っているのが見えて、慌てて辺りを見回す。
いつの間にかこんな所にまで来ていたらしい。
ちょいちょいと手招きされて信玄の元へ向かえば、盃を渡された。
「謙信と飲もうと思っておったのだが止めじゃ。今宵はと飲む」
「えぇ?」
「ほれ、はよう座れ」
有無を言わさず床をてしてし叩く信玄に慌てては隣に座った。
懐から出てきた盃をに渡して嬉しそうに酒瓶を傾ける信玄をジッと見る。
こんな時期だと言うのに何なのだろう。
最早、同盟軍の意向は変わらない。
おそらく今日明日ぐらいには出陣するだろうに、こんな所でこんなことをしていていいのだろうか。
受け取った酒瓶で信玄の盃に並々酒を注いだはふと視線が合ってドキリとした。
「好きな男のことでも考えておるのか」
「は・・・、ち、違いますよ!織田との戦が近いのにこうしてていいのかと考えていたんです!」
「なーんじゃ、つまらん」
呆れたようにそう呟く信玄にの方がポカンとする。
的外れなことを言った訳じゃないのに、どうして自分の方が責められてる気がするのか。
手に収められていた盃がの動きに合わせて波紋を描く。
「あのようにすぐに破廉恥破廉恥叫ぶ幸村がにあのような事をしたのじゃ、あれも本気だ」
「見ていらしたんですか?!」
「何だ、あやつ本当に何かしたのか?」
「おっ・・・!お館様!」
鎌かけられたと赤くなったに信玄は楽しそうに笑って幸村を褒めた。
不貞腐れるを視界に入れながら、信玄は盃に口を付けて咽喉を潤す。
「も幸村も我が子のようなもの。幸せになって欲しい」
「・・・幸村さんにはもっといい人がいると思います」
「ワシにはお主以外に破廉恥と叫ばん女子がおるとは思えんのだがのう」
「・・・・・」
「損得考えずあやつ自身を見てやってくれ」
「・・・はい」
赤くなって俯くに信玄は嬉しそうに笑ってその頭を撫でた。
零れかけた盃の酒には慌てたが、信玄は笑うばかり。
「はいい女だの。ワシの嫁に欲しいくらいだわ」
「えぇ?!」
幸村にやるのは惜しゅうなってきたと真剣に呟くので、困ったはその場の空気を誤魔化すように盃を一気に煽った。
焼け付くような熱さが咽喉を通り抜け、何とも言えない香りが鼻を衝く。
驚きの声を上げて楽しげに見てくる信玄には思った。
私はこの笑顔を守りたい。
幸村さんも、政宗さんも、慶ちゃんも、先祖も、皆みんな守りたいのだ。
自分は存外欲張りだったらしい。
どれか一つなんて選べない。
ならば、全部選んでやろうじゃないか。
通り過ぎた酒の熱さを堪えるように一度きつく目を閉じたは、盃をコトリと置いて姿勢を正した。
「お館様、」
その様子に目を細めた信玄は小さく息を吐いて、酒を煽った。
・・・今宵の酒は少々辛すぎるな。
***
翌日の軍議は想像通りの展開だった。
同盟軍は標的を織田本隊に絞って攻める。
元々織田を倒すために結ばれた同盟なのだから当然の結果とも言える。
各々の領土を守り、明智と濃姫の軍を警戒しつつ強敵織田を相手にするのだ。
前田の援軍に割ける余裕などない。
仕方ないとはいえ、前田軍は囮として完全に孤立してしまった。
「Hey、Honey、前田が心配なのか」
「え・・・、あ、はい」
軍議が終わり人もまばらになった時、不意に後ろから抱きすくめられて驚いた。
どこかぼんやりしていたを励ますように政宗はアイツはそんな柔じゃないと呟いた。
が曖昧に頷いた瞬間、腕を強く引かれ今度は目の前に六文銭がぶら下がっていた。
「お止め下され。殿が汚れまする」
「真田、テメェ・・・!」
幸村に庇われるように背後に追いやられ、二人の口論に巻き込まれる羽目になった。
この人達は良くも悪くも変わらないな。
キャンキャンとくだらないことを言い合う二人には小さく噴き出し、二人はその声に振り返る。
笑いすぎて目尻に溜まった涙を拭うとは二人を見上げて祈るように口を開いた。
「政宗さん、幸村さん、勝って下さいね、必ず」
突然のことに政宗も幸村も一瞬呆けた。
の言葉に力強さを感じて驚いたが、二人は意味を理解するとすぐに頷いた。
「「 当然 」」
どこか安心したように微笑んだがあまりに綺麗で二人は息を呑んだ。
しかし、それと同時にどこか違和感を覚え、首を捻ったが心当たりがない。
ふと政宗と幸村の目が合ったが互いに不可解な表情をしており、言い知れぬ不安が押し寄せた。
チリチリと胸を焼け付くこれは何だ・・・?
深々と頭を下げて立ち去るの後姿を二人はその場に立ち尽くしたまま見送った。
そして、この時の不安が的中することを二人はまだ知らない。
この日を境に、は屋敷から、奥州から、皆の前から姿を消した。
* ひとやすみ *
・えぇー?!って皆さんの声が聞こえてきそう・・・!
ヒロイン今までのうだうだにようやく決着をつけます!!
さーて!もうひとふんばりしたら空夢語編は終了です。
ウチで一番男前な子ですが、お館様まで手玉に取るとはイケナイ子!笑
何と言うか、お館様おちゃめだなぁ。 (10/09/07)