ドリーム小説

「・・・人違いよ」

「「そんなはずがない!」」




が搾り出した声に間髪入れずに靭太と己鉄はそう返した。

自分達がを間違える訳がないとそう続ける二人にはゆるゆると首を振る。

だって、私、本当は記憶なんて失ってない。




「僕と靭太さんは小さい頃からずっとちゃんと一緒だったんだ」

「三年前、突然が泡沫と共に姿を消してから俺達はずっとお前を探していた」




確かに私がこの世界に来たのも三年前だけど私はこの二人を知らないし、幼い頃の記憶は別にある。

たとえ私が記憶喪失だとしても、記憶が勝手に差し替えられることがあるのだろうか。

ううん、違う。

私はこの世界の人間じゃない。

でなければ、何であんなに必死に生きて、傷付いて、努力してきたのか分からない。

全てあの世界へ帰るためではなかったか。

私は斡祇だけど、二人が知る“斡祇”じゃない。

なのに並べられた証拠は二人に優勢なものばかり。


何でここまでそっくりなのか。

状況を鑑みてはハッとした。

まさか、私のご先祖様・・・?

そうだ、お爺ちゃんがご先祖様の名前を借りて兄と私の名前を付けたと言っていた。

同じ名前、同じ顔、家宝の泡沫。

どう考えてもそうとしか思えなかった。

もし彼らの一族がご先祖様ならば、滅ぶというのは不味い。

先程の靭太の言葉を思い出したは一先ず状況を把握することにした。




「・・・もし仮にそうだとして、さっきの“私”が戻らないと滅ぶというのはどう言う意味?」

「今、当主は動ける状態になく斡祇は丸腰だ。織田は目的のために俺達を滅ぼそうとするだろう」

「加賀には一族が住んでる。前田は戦ってくれるだろうけど二軍相手に力不足だよ。このままじゃ凌禾の二の舞になる」

「しののぎ?」

「紀伊の焼けた村だ。お前も聞き及んでいるだろう。斡祇には隠れ村が各地に五つある。市儀[いちぎ]双野木[ふたのぎ]光戯[みつぎ]

 凌禾[しののぎ]宕之鬼[ごのき]の五村で一族は全てだ。頼む。俺達を助けると思って帰って来てくれ」

「織田を倒すにはちゃんの力が必要なんだ!」




そう言われてもにはいまいちピンとこなかった。

危機的状況なのは分かったが何もかもが曖昧ではっきり見えてこない。

分かったことは焼けた村が斡祇の村で、加賀にある村をも織田が狙っているってことだ。

だが、当主が動けないというのに、一人が戻った所で何が出来るというのだろう。

靭太と己鉄は必死であったが、には事の重大さがよく分からなかった。




「あのね、同盟軍にとっても今は織田を叩く絶好の機会。織田本隊との合流を防ぐために前田に援軍を送るはずだから

 私が行かなくてもその村は何とかなると思う。私も援軍に入れてもらうつもりだし」




一石二鳥とばかりに語ったに靭太と己鉄は顔を歪めた。

首を傾げるの耳に二人の溜め息が聞こえる。




「それじゃダメなんだよ」

「・・・お前が俺達に滅べと言うのなら、それも道なのだろう」

「え」

「呼び付けてすまなかった。そこまで見送ろう」




話すことはもう無いとばかりに靭太と己鉄が立ち上がり、は動揺しながらも促されるままに外へ出た。

オロオロと落ち着かない様子のを靭太は淡々と見据える。

連れ戻したかったが、時間切れだ。




「明日の晩にここを出る」

「また、会えたらいいね」




寂しそうに手を振る己鉄に後ろ髪を引かれながら、は小太郎に背を押されて歩き出す。

私は何か間違ったことを言っただろうか。

過ちかどうかを確認するにも分からないことが多すぎてそれも叶わない。

だけど、どうしてもこれだけは知っておきたい。

は小太郎の手を振り切り、背後の二人を振り返って叫んだ。




「あなた達が村を焼いてまで織田から守った物って何?」




ずっと気になっていた。

織田がそこまでして狙う物は一体何なのかと。

突然振り返ったにキョトンとした己鉄は苦笑し、靭太は腕を組んで目を瞑った。

それは彼ら一族にとっては命より大事なもの。




「鉄だよ」

「悪用されないよう、命を賭けて守り抜いてきた誇りだ」




二人の言葉がの胸にじんわりと燈を灯した。

悪い人達じゃない。

むしろ彼らの役に立ちたいと思う。

そのために私はもう少し斡祇について知るべきだ。

は二人にクルリと背を向けて、真っ直ぐと屋敷へ歩き出した。






***






ひたひたと歩く音だけが耳に届く。

嵐の前の静けさとでも言うのか、珍しく屋敷内は水を打ったような静寂に満ちていた。

難しい顔をしたが一室の前で立ち止まると小太郎が心配そうに視線を向ける。

安心させるようが微笑むと、室内から声が掛かった。




「入れ」

「失礼します、お館様」




まるでを待っていたように座っていた信玄の前にと小太郎は座り込んだ。

真剣な面持ちのに信玄は小さく笑った。

が何か思い詰めていたのは知っておったが、まさかこのワシの元へ来るとはな。

まだまだワシも捨てたもんじゃないわ。

黙り込んだ悩める少女を前に信玄は嬉しそうに僅かに目を細めた。




「話してみよ。聞きたいことがあるのだろう?」

「・・・謙信公が前に織田は厄介な村に手を出したと言っていました。斡祇とは一体何なのですか?」




小さく呻り、チラリと視線を泳がせた信玄は腕を組んで溜め息を吐いた。

確かにが彼らの存在を知らなくても無理はない。

むしろ知らない人間の方が多いはずだ。

信玄は強い視線を向けるを見ると、入り口に視線を向けた。




「よかろう。斡祇一族についてワシが知っていることを話してやるから、隠れてないでお主も入って来んか」

「え?」

「も、申し訳ありませぬ!聞き耳を立てるつもりはなかったのでございますが・・・!」




スパーンと障子を開けて入って来たのは幸村だった。

必死すぎて幸村の気配にすら気付いてなかったは目を丸くした。

どうやら気になっていたのはだけではなかったようで、信玄は伏して頭を下げる幸村に小さく溜め息を吐いた。

と幸村、小太郎が並んだ所で信玄はようやく重い口を開いた。


* ひとやすみ *
・少しずついろんなことが分かってきたけど、まだ虫食い状態。
 次回ネタバレ捏造注意です!!強烈な歴史秘話捏造してます。笑
 ここさえ越えれば空夢語はあと少し!
 もうしばらくお付き合い下さいな!!                      (10/08/22)