ドリーム小説

小太郎は悄然と座り込んでいる主を酷く心配していた。

この所、の周りは騒がしく、いつも心を揺さ振られていたため、休ませてやりたいと思っていたのに

気が付けばいろんな男共にちょっかいを掛けられ、さらにグラグラと追い討ちを掛けられた。

全く、あの屑共、刺し殺してやりたい。

剣呑な空気を醸し出す小太郎は、自分の声にも反応しないに溜め息を吐いた。

しかも、先日の軍議での心は再起不能な所まで来ている。

何があったのだと佐助を殺しかねない勢いで問い詰めたが、見当も付かないと言う。

理由が分からないだけに、小太郎はの現状が心配で心配でならない。

傷を負っているなら、自分が変わって差し上げたい。

落ち込んでいるなら、慰めて差し上げたい。

だけど、忍として生きてきた小太郎にはその術が分からなかった。

がまた笑顔を見せてくれるようになるのなら何でもするからと、小太郎は拳を握り締めた。




「小太郎」




ようやく口を開いてくれた主の前に小太郎は慌てて膝を着く。

見上げる瞳はまだ揺れているものの、しっかりと小太郎に向いていた。

言い難そうに口を開いたは、躊躇うように呟いた。




「もし、もしもよ?もし、私が武田を・・・・、武田、を離れるって言ったら、」




―――ついていきます、どこまでも。

言葉を遮り、力強くはっきりとした意思を向けるとは数回、目を瞬いて顔を歪めた。

涙は見えないが、悲痛そうな顔を手で覆ったに小太郎は何度も告げる。

―――わがあるじはあなただけ。おとでつたえられぬなら、なんどでもこころでつたえるまで。

何度も何度も繰り返し伝える小太郎にはその度に頷いた。




「最近、少しグチャグチャだったから・・・」




ありがとうと泣き笑いのように微笑むに小太郎は米神をピクリとさせた。

こんな顔をさせた男共を必ず抹殺する・・・!




「でも濃姫が加賀に向かってるなら、援軍に行かなきゃ慶ちゃんが危ない」




慶ちゃんに会いたいし、援軍が出るなら私も行こうと呟いたに小太郎は思案する。

こんな事なら、あの馬鹿共より前田慶次の方がよっぽどマシだ、と。

少なくともを泣かせはしないだろう。

小太郎は苦渋の選択ではあるが、甲斐を出て慶次の元へ行ってはどうかと提案してみた。

まさか小太郎がそんなことを言うとは思っておらず、は心底驚いた。




「あのね、さっき武田を出るって言ったのは例えっていうか、えーと、小太郎の気持ちを確かめたかっただけというか」




説明に困っているようにアタフタする主に小太郎は拍子抜けしながらも頷いた。

まぁ、と一緒ならどこだっていいかと思い直した小太郎は深く頭を下げてもう一度呟いた。

―――ついていきます、どこまでも。

その言葉にはキョトンとすると、小さく笑った。




「なら、まず買い物に付いてきて貰おうかな」






***






嬉々として付いてきた小太郎と共には城下町へと足を運んだ。

小太郎と町を歩き、美味しい団子を食べて話でもすれば気分が紛れる、そう思って出て来たのだが。

それがどうしてこうなったのか。

はズズズとお茶を啜って、今にも飛び掛りそうな小太郎を宥めた。




ちゃん、この栗ヨウカンは靭太さんのオススメなんだよ」

「己鉄、この栗羊羹はあの茶でなくてはならんと言っただろう」




目の前でのんびりと甘味話に花を咲かせているのはあの怪しげな二人組、靭太と己鉄だった。

は今、二人が泊まっているという宿屋に招かれていた。

小太郎と共に甘味屋を訪れた際、偶然己鉄と鉢合わせてあれよあれよという間に連れて来られたのだ。




「それで、偶然会ったにしては強引なお誘いを受けたけど、私に何か用?」

「待つとは言ったが、生憎悠長なことを言ってられなくなった」

「織田が動いたんだ。もう時間が無い。お願いだから僕達と一緒に来て、ちゃん!」




己鉄の言葉に小太郎が警戒を強める中、は怪訝そうに首を捻る。

織田が動いたことは知ってるが、それと自分がどう関係するのかさっぱり見えてこない。

見えそうで見えないもどかしさが胸中で燻ぶる。

探るような目をしているに靭太は目を細めて冷めた湯のみを置いた。




「お前が今武田と伊達どちらにいるのかよく分からんが、そこは居心地が悪いだろう?」




ドキリとした。

まるでを見透かすように話す靭太に動揺して瞳が揺れた。

確かに以前と違って同盟を組んでから武田と伊達の存在に心を乱され足元が不安定なっている自分がいる。

微動だにしないの心が手に取るように分かってしまった小太郎は心配そうに顔色を窺う。




の存在は良くも悪くも他家では浮く。起爆剤にも成り得るが、誤爆すればお前も周りも傷付くだけだ」

「僕はちゃんが幸せならそれでもいいと思ってる。だけど僕が知るちゃんならこのままでいいなんて絶対言わない」

「お前が戻らねば一族は皆滅ぶ」

「滅ぶ・・・?一体何の話を・・・?あなた達は誰なの?」




逸る気持ちを抑えながらは搾り出すように靭太と己鉄に視線を向ける。

チラリと互いに視線を交わらせた二人は姿勢を正してを見据えた。




「本当は自分で思い出して欲しかったんだけど、ちゃんは僕達の幼馴染みなんだ」

「おさななじみ・・・?」

「我等は斡祇の家の者。長い間、お前を探していた。俺達と共に家に戻れ、




何の冗談だと二人を一蹴しようにも、その強い眼差しは嘘を吐いてるようには見えなかった。

私が二人の幼馴染み?

確かに自分の名字は斡祇だが、どう考えても人違いだとしか思えない。

だが、この二人に何かを感じるのも事実だった。

は言葉に出来ない気持ちを抱え、困ったように二人を見つめた。


* ひとやすみ *
・連載始めた当初、そんなに深く考えてなかったからなんですが
 これはもう名字も変換するべきじゃ・・・?涙
 まさかここまで名字が出張るとは!全くもうどうするよ自分。
 さてゴタゴタ続きの中、また出ました例の二人組!
 ネタバレに際して少々小難しい話になるやもしれませんがお付き合いいただけると幸いです。    (10/08/22)