ドリーム小説
まさか城内でこんなに大声を出すとは思わなかった。
頭から血をダラダラと流す政宗に庭先で遭遇しては悲鳴を上げたのだ。
政宗をその辺の縁側に座らせては桶と手拭いを探しに走った。
「信じられない!幸村さんと斬り合った?!何やってるんですか!まさか幸村さんもこんな怪我してませんよね?」
「手合わせは暇がありゃいつもやってんだよ。俺は運悪く額切っちまっただけでアイツはそんな酷い怪我はしてねェ」
「当たり前です!血だらけの人間が二人も居てたまりますか!」
プンスカ怒りながらも優しい手つきで治療するに政宗は頬を掻く。
怪我の功名とまでは言わないが、おかげでとの間のギクシャクした空気は吹っ飛んでいた。
この所、も小十郎も様子が少しおかしかっただけに政宗は元気に文句を言うにホッとした。
肩の力を抜いた政宗に気付いたは少しの間考え込んでから視線を合わせた。
「・・・政宗さんも私がここに残って欲しいと思ってるんですか?」
「は?!・・・Ahー、まぁな」
「小十郎さんが少し変なんですけど、あれってやっぱり私のせいですよね・・・」
「いや、あれは山本にコテンパンに言われたかららしい」
「師匠が?あー・・・、何ていうか本当にごめんなさい」
あの人、人の痛い所をグリグリ抉って塩捻じ込んでまた抉るような人だからなぁ・・・。
まさか綱元さんが目を合わせてくれないのも勘助様のせいじゃないよね?
どことなくおかしな空気が流れていたが、それを払拭するように政宗は手当て中のの手を掴んだ。
だから、と前置きした政宗は真っ直ぐにの目を見た。
「俺はお前を手放すつもりはねェ」
「・・・・なら、私をここに閉じ込めますか?」
「んなつまらねェことするかよ」
相当な覚悟を持って言ったの言葉を政宗はすぐに一蹴した。
にとってその一言は意外だった。
自分が執着されてるのは分かっていたから、もっと強引な手段に出るのではないかと思ってたのだ。
「籠の中の鳥なんてnonsenseだ。お前の意思で俺の傍に居なきゃ意味がない」
ドキンと何かが音を立てた。
指の背での唇に張り付く髪を払った政宗の瞳に視線が釘付けになる。
魂が揺さ振られるような感覚には覚えがあった。
最初に伊達に誘われた時と同じだ。
何とも言えないむず痒い感覚にはガクリと肩を落として、大きく溜め息を吐いた。
「どうしていつも強引なのに、そんな所だけ優しいんですか・・・」
いつも我侭すぎるくらい我侭で欲しい物のためには手段を選ばないくせに、どうしてそんなに甘いのか。
ましてや、相手は事情はどうあれ伊達を捨てた女だというのに。
は身内に甘すぎる気風の伊達家当主を窘めるように視線を向けた。
そのせいで私もあなたも傷付いたでしょうに。
「身内に甘すぎて痛い目見たのをもう忘れたんですか?」
ウッと言葉を詰まらせた政宗には呆れ顔で返したが、すぐに苦笑に変わる。
・・・・・・もう、だから、嫌いになれないんだよ。
無理矢理にでも私の意見を捻じ伏せてくれたら、拒絶出来たのに。
「忘れられる訳ねェだろ。でもな、それでも俺はお前が欲しい」
「・・・何でそんなに私にこだわるんですか?」
すぐさま政宗は口を開こうとしたが、次の言葉が出てこない。
何で、だろう・・・。
確かに真田に対抗したいって気持ちはあるが、それは何もでなくてもいいんじゃねェか?
アイツとやり合いたいなら、自分の腕で真っ向勝負すればいい。
独占欲?同盟を壊しかねないほどの?
何だそれは。
気持ち悪いほどモヤモヤしてんのは、俺がに・・・・、惚れてるから、か?
小十郎の似合わないあの言葉を思い出して、政宗は突然腹を抱えて笑い出した。
ケラケラと笑い続ける政宗を目を見開いて見上げる。
何だ、そんな簡単なことかよ。
怪訝そうな表情で返事を待つの髪に政宗は指を絡めた。
「だからとか罪滅ぼしとかじゃねぇぞ。お前のことだ。姫軍師になるまで涼しいフリして一人で頑張ってたんだろ?
お前は姫軍師に誇りを持ってるし、人が望むよう天才軍師の弟子らしく完璧でいようとしてることを俺は知ってる。
だから俺はの努力を全部買ってやりたい」
落とすようにもう一度お前が欲しいと言った政宗には声を漏らさないように手で口を覆った。
自分の努力を分かってくれる人がいた。
師匠があんな人だったからかもしれないが、いつも「出来て当然」「やれて当たり前」と言われ続け、
周りの目も賞賛と羨望は送っても誰も努力を認めてくれる人はいなかった。
なのに、政宗さんが、私の努力の全てを買いたいと言った。
どんな豪華な褒美よりもその一言が酷く嬉しかった。
優しい手つきで髪を梳く政宗の長い指が耳に触れてゾクリとする。
急に恥ずかしくなって視線が合わせられず、はとにかく離れようと立ち上がった。
「そ、そういえば、私、やることが!」
「ちょ、待て・・・ッ」
「え・・・、うわっ!」
逃げようとしたの手を政宗が慌てて掴んだが、その力が思いのほか強くては政宗に衝突する形ですっ転んだ。
予測しなかった動きに縁側に飛び込んできたを抱き止めきれず、政宗も一緒になって板間に転がった。
ガチンと小さな音を立ててぶつかった二人は、僅かな間を置いて今の状況をようやく呑み込む。
政宗の上に乗り上げているは顔を真っ赤にしてぶつけた口を覆った。
い、い、い、いま、口が・・・!!!
「いって・・・。おい、歯が当たったろ。口切ってねェか・・・ってお前、顔真っ赤。First kissでもねェだろうに」
「・・・・!!!」
「・・・おいおい、マジかよ」
噴火しそうなほど真っ赤になってるに政宗は小さく笑って手を伸ばした。
触れる直前に目を瞑ったの肩を掴んで、政宗はグルリと身体を逆転させた。
が気が付いた時には自分を見下ろす政宗と、背中に押し付けられる冷たい板間がそこにあった。
押し倒されてると認識した時には、の身体は政宗に圧し掛かられ両手は頭上に固定されていた。
二人の距離は触れるほどに近くの頬を政宗の髪が撫でていく。
「あんなのFirst kissとは言わねェからな。俺が忘れられないfirst kissをしてやる」
「ちょっ・・・、ん」
が声を上げる前に政宗は唇を寄せた。
抵抗しようとしたではあったが、熱っぽい政宗の瞳と吐息に気力を削がれてしまった。
触れる唇が酷く熱い・・・。
政宗から逃げることも出来ず、はただぼんやりと目の前の綺麗な顔を見るしか出来なかった。
そんな二人のようすを幸村が見ているとも知らずに。
* ひとやすみ *
・修 羅 場 !!
相変わらず両極端な人ですね政宗様は!いつも冷静なヒロインだから
動揺してる様子が可愛くて仕方なかったみたいです。笑
でも気付いて!今にも噴火しそうなすんごく熱いのが君達を見てるから!!
さてさて、どうなることやら・・・・。 (10/08/14)