ドリーム小説
迎えに来た・・・?
一体何の話をしてるのだろう、この人達は。
迎えるって言ったってどこに?
恐怖と興味が混ざり合っては身動きが出来なかった。
困惑して立ち尽くしていたは手に力が入らず、持っていた泡沫を落としてしまった。
「泡沫は家宝なんだから大事に扱わないとダメだよ」
己鉄が祖父と同じようなことを言うので慌てて拾い上げたけれど、はハタと気付いた。
・・・・・まただ。
何でこの人達は誰も知らないことを知ってるんだろう?
コレが家宝で「泡沫」という名前が付いてるなんてことは洛兎さんや虎珀さんでさえ知らないのに。
興味が恐怖を上回り始めた時、目の前を白い何かが横切った。
それを己鉄はパシンと受け止め、同じように飛んできた方向を見た。
「から離れなさい!、その人達ですよ、貴方をずっと探していたのは」
「虎珀さん!」
「知っていて隠していたとは人が悪いな、虎珀法師」
「怪しげな貴方達に教えられるはずがないでしょう!早く立ち去りなさい!でなれば次は大根じゃすみませんよ」
本気で怒っている虎珀の手には人参が二本構えられていて、先程宙を舞った白が大根なのだとようやく気付いた。
え、人参って、虎珀さん、いくらなんでも野菜はちょっと・・・。
がそんなことを思っていると靭太が溜め息を吐き、次の瞬間背後で見知った気配が動いた。
靭太は素早く己鉄の首根っこを掴んで自分の前に突き出した。
グサッという音が三回鳴って、は慌てて止めに入った。
「小太郎、待って!!」
小太郎は物影から臨戦態勢のままの前に飛び出てきた。
小太郎の手元を離れたクナイがどうなったのかはヒヤリとしながら二人を見た。
「
ギャー!!靭太さん、今、僕を盾にしましたねー!!」
「でなければ俺に刺さるだろうが」
「だからって何で僕を盾にするんですかー!!大根なければ僕死んでましたよー!!」
「生きてるだろう、気にするな」
「気にするってんですよー!!」
クナイが深々と突き刺さった大根を掲げて己鉄は憤慨していた。
耳に指を突っ込んでピーピーと喚く己鉄をかわしていた靭太は深々と溜め息を吐いた。
小太郎の鋭い視線に気付いた靭太はを見据えて淡々と口を開いた。
「ここは一端退こう。だが、お前は必ず俺達の元へ来る」
「いきなり何言って、」
「お前が望むも望まざるもお前の存在は争いを呼ぶ。己が力を持て余すようなら俺達を探すがいい」
いつでも歓迎すると言い残した靭太は己鉄の首根っこを掴んで寺を後にした。
あまりにも不吉な言葉に心臓が激しく暴れていたが、二人の存在は確実にの心を奪っていった。
***
靭太と己鉄と出会ったその翌日。
ザワザワと騒がしくなった雰囲気には閉じていた目を開けた。
おそらく待ち侘びたこの屋敷の主、武田信玄その人が到着したのだろう。
周囲の嬉々とした声を聞きながら、開いていく扉をじっと見つめる。
同じように板間に上っていた者達が頭を下げ、も深く頭を下げた。
「おぉ、元気にしておったか!」
「はい。お館様、お早い復興、流石でございました」
「はっはっは!甲斐には優秀なのが多いでな!」
声を掛けられ、頭を上げると信玄の笑顔が向けられてもつられて微笑んだ。
グリグリと頭を撫でられて髪が乱れたが、それすらも懐かしく嬉しかった。
道を開けるように端に寄れば、信玄の視線を感じて首を傾げる。
「菊がやったという打ち掛けはそれか?」
「はい。これを着ていなければ私もお館様を門前でお迎えしたのですけど」
「うむ。文にあった通り、よう似合うとるの」
少し見ない内に美人になったと臆面もなく言われれば、嫌々着たながらも満更ではないとは頬を染めた。
信玄が奥州へ向かうと政宗に伝えられた後、の元に折り返し文が来ていた。
佐助が甲斐へとんぼ返りした後の文だったので、不安交じりで読み上げれば内容は何て事のないことで。
菊姫が贈った緋色の打ち掛けで出迎えて欲しいとのことだった。
もう着ることはないと思っていたが、信玄の署名が添えられていれば着ざるを得ない。
「、幸村が大層お前を心配しておってな。顔を見せて安心させてやってくれ」
「はい」
「あー・・・、少々厄介だとは思うが」
「?」
首を捻るであったがあまり深く考えず、信玄の背を見送った。
従者達に労いの言葉を掛けながら、出迎えていたは赤い見慣れた姿を見付けて口元を緩めた。
こうして会うのは本当に久しぶりだ。
視線が合ったので声を掛けようとしたら、幸村が何とも情けない顔で走り来ての肩をガッシリと掴んだ。
「殿!無事でござるか?!怪我はされておらぬか?!」
「え、えぇ?怪我なんてしてませんけど」
「某が不甲斐ないばかりに、殿が・・・!」
さっぱり話が見えない。
の身体を触りまくって怪我の有無を確かめる幸村に居心地が悪く、身体を捩らせる。
何か物凄く悔やんでいるような幸村に困っていると、佐助が視界に入り目で助けを求めた。
だが、佐助は酷く疲れた顔で首を横に振り、は軽いショックを受ける。
え、説明もなし?!
同盟がもっと早く成っていればとか何とか騒いでいる幸村を遮っては事情を聞いた。
視線を上げた幸村は何とも言えない表情でを見つめてとんでもない事を口にした。
「まさか政宗殿が殿を手篭めにするとは・・・!」
「
て、てごめー?!」
は素っ頓狂な声を上げ、近くにいた人達はその内容にギョッとして二人を見た。
驚いたのはの方である。
手篭め、つまり政宗に無体な振る舞いをされて襲われたと言ってる訳で・・・。
婚前の乙女を守れなかった責任は取ると幸村が満を持して宣言し周りを興奮させたが、
当のはグルグルとしていて一切話を聞いていなかった。
何でそんなことになってるの?!
一体どこからそんな根も葉もない噂が出てきたんだ?!
自分の世界にいたの肩を佐助がトントンと叩いてきたので、視線を向けると周囲から熱い視線を浴びていた。
「あー、さっきの話、返事してやってくんない?」
さっきの話・・・?
あー!手篭め云々か!そうだ!勘違いされたままでは困るよ!
は物凄い勢いで口を開いた。
「
有り得ません!!」
「ありえッ・・・?!な、何故でござるかー!!某がそんなにお嫌いか?!」
「なぜ?!むしろこっちが何故ですよ!何でそんな話になるんですか?!」
キャンキャン言い合う二人に佐助は溜め息を吐き、周囲は苦笑い。
話が噛み合っていないことに気付いていないのは当人達だけだ。
幸村渾身のプロポーズとも言える台詞をが「有り得ない」の一言で返したので
佐助は後で尻拭いに走る羽目になるんだろうなぁと遠い目で主とその想い人を眺めた。
その後、佐助の注釈で誤解が解けた二人だったが、は全ての根源が菊姫に宛てた文にあることを知って憤慨した。
実際は蘭が勝手に書いた物ではあるが、その内容に菊姫は笑い転げ、面白がって幸村に聞かせ、
幸村は真っ白になり佐助を責め、佐助はそのとばっちりに持ち帰ったことを酷く後悔し、信玄はその光景に溜め息を吐いたとか。
佐助の疲労具合を見て何かを悟ったは詳しい手紙の内容は聞かなかったが、一つ心に固く誓った。
もう二度と蘭に代筆はさせない、と。
コロコロと楽しそうに笑う蘭と菊姫の姿が思い浮かんで、は深く深く溜め息を吐いた。
* ひとやすみ *
・不吉な予感と久々の噛み合わない会話をお届けしました。
チョアー!と人参を構えた虎珀はさぞかし勇ましかったことでしょう!笑
そして相変わらずの幸村さん。想いが空回ってる辺りが彼の骨頂ですよね!
何度でも言いますが、彼はやる時はやる…(略
さぁ!武田と上杉が加わり、ここからが本番ですよ!! (10/07/09)