ドリーム小説

「先程、武田の猿飛が正式な訪問の報せを持って参りました」

「あぁ」




小十郎は生返事の主に首を傾げて様子を窺った。

政宗は心ここに在らずといった表情で組んだ足の上に置いた刀をぼんやりと見ている。

このところ、こんな風に何か思い悩む姿をよく見かける。

一体、何をそんなに悩んで・・・。

小十郎は政宗の視線の先である刀を睨んでハッとした。

あの汚れた群青の下げ紐はの遺品。




「なぁ、小十郎・・・。アイツは俺が変わったと言ったが、俺はどこか変わったか?」




まるで自分の心を読んだように声を掛けられ、小十郎はやはりと若い主を見た。

相変わらず頻繁に城を抜け出していた政宗が、ある日を境に籠って仕事をこなす様になった。

全ては嘆願書にあった山の向こうの村で猪退治をしたあの日からだ。

真面目に職務を果たす政宗に安堵はしたものの、小十郎はどこか不安が拭えなかったのだが。

これはと何かあったな・・・。

原因の一端が掴めて、小十郎は険しかった目元を緩めた。

と政宗は事情が極めて難しかったため、小十郎も主が城を抜け出すのを仕方なく容認していた。

それがパタリと止んだのは何の心境の変化か。




「・・・そうですね。私もお変わりになられたと思います」

「どこがだ?」

「それを小十郎が申しては意味を成さないでありましょう」




強面を緩ませ苦笑した小十郎に、答えが貰えるとは初めから思っていなかったのであろう政宗はそれもそうだと溢した。

政宗の心を占める出来事が好いことであればいいと小十郎は願った。

持っていた刀を傍らに置き、政宗は溜め息一つで切り替えて小十郎の持ってきた文に目を通した。







***







猿飛が持ってきた文には盟約通り武田信玄自ら奥州へ向かうと書かれていた。

ようやく叶う同盟に喜びも一入ではあるが、どこか心重いのはあのド派手な忍との会話のせいだろう。



『Ah?テメェ、何しに来た』

『片倉の旦那に大将の文は渡しておいたけど、一応竜の様子見にきたんだよ』

『Get out!!用がないならさっさと帰れ!』

『ひっでぇー。何さ、ちょっとくらい俺様に優しくしてくれてもいいんじゃないの?

 旦那もさー、口を開けば団子とお館様と殿って言葉しか出てこないんだぜー?全く、やんなっちゃう!』

『・・・おい、真田とは・・・仲いいのか?』

『へ?仲いいどころか、あの二人、絶対何かあったね!も旦那見て頬染めちゃってさぁ』

『お前煩い。さっさと帰れ』

『何さー!聞かれたから答えてやったのに!大体、アンタは・・・!』



思い出したらまた腹が立ってきた・・・!

政宗は強制的に脳内の回想を終わらせたが、脳内で喧しく喋る忍の言葉が頭から離れなかった。

あんな堅物の破廉恥野郎に頬染めて何になるってんだ!

藤の簪を挿して微笑んだの顔が脳裏にチラついて、政宗はどうにもならない感情に拳を握った。

政宗の手に収められていた文がグシャリと握り潰され、小十郎はその様子に目を瞬いた。

小十郎には皆目見当が付かなかったが、政宗が物凄く怒っていることだけは分かった。

何とかせねばと慌てて違う話題を振った。




「っ同盟の際、真田もを迎えに来ると聞いてますから、また政宗様と刃を交えることもあるやもしれませんな!」

「あ゙ぁ?!」




・・・地雷だった。

噴火寸前の政宗に小十郎は自分の不甲斐なさに落ち込んだが、その様子に疑問を覚える。

普段から気性は激しいが、最近の政宗の感情が揺さ振られるのは決まってが絡んでいた。

まさかという思いが心を過り、小十郎は不機嫌な主を見上げた。




「いかがなさるつもりですか、のこと」




ピクリと眉を動かした政宗はくしゃくしゃになった文を見つめた。

同盟が成ればは人質の役目を終え、甲斐へ帰る。

もともとそういう約束だったし、何よりそう仕向けたのは自分なのだ。

だからと言って、はいさようならとあっさり引き下がれる訳がない。

何だか分からないが、幸村の元にを返すのが癪だった。

政宗が無意識に呟いた言葉は小十郎には狂おしいほどに切なく聞こえた。




「I want to give it nobody...」




小十郎は確信した。

ぼんやりと再び蒼い下げ紐を見つめる政宗に嬉しいやら寂しいやら何とも言えない気持ちになる。

主の周りを取り巻く女達は何人かいたが、こんなにはっきりと感情を示すのは初めてではないだろうか。

そんな複雑な気持ちを抱えて、小十郎は苦笑した。




「惚れて、いるのですね」

「はぁ?!誰が、誰に?」




素っ頓狂な声を上げた政宗に小十郎も驚く。

政宗は政宗で小十郎の口から似合わない言葉が飛び出て目を丸くしている。

まさか、無自覚とか言わないよな・・・?!

若いながらも百戦錬磨という顔付きの主にさすがの小十郎も呆けてしまう。




が甲斐へ戻るのが気に入らないのでしょう?」

「Yes!信玄にも真田にもアイツをやる気はねぇよ」

「政宗様、それは・・・」




世間一般では、それを惚れていると言うのだと小十郎は口に出来なかった。

あまりにも堂々と宣言するので何と言えばいいのか分からなかったのだ。

困惑する小十郎を余所に、政宗は心持新たに文を見た。

口に出してみて再確認した。

俺はを帰したくないのだ。

帯の反でごろつきを倒したアイツも、花街でデートしたアイツも、俺を憎んだアイツも、全部俺だけのだ。

誰かにそれを譲る気もないし、これからのアイツも譲る気はねぇ。

一番最初にアレを見付けたのは俺なんだ。

あの日、あの時、俺の目に飛び込んできた時点で、お前は俺のものなんだよ、




「Ha!この俺から奪えるもんなら奪ってみろよ」




真田なんかにくれてやるかってんだ。

俺のものに手を出せばどうなるか分かってんだろうな。

この俺が全力で相手をしてやる・・・!

不敵に笑った政宗に小十郎は溜め息を吐いて額を押えた。



「(ベタ惚れじゃねぇか・・・)」


* ひとやすみ *
・ようやく新編開始です!題付けるの楽しいけど、こんなに悩まなければ
 もっと早くお披露目できたはずなんですよね。もっと言語力が欲しい・・・!
 ちなみに途中の政宗さまの英台詞はこの話のタイトルになっています。
 幸村も政宗も無自覚という共通点がありますが、政宗は好きという認識はちゃんとしてます。
 ただ「お気に入り」のカテゴリーが「恋」に含まれているということに気付いていないだけで。
 これが幸村だと好きとかではなく、「お友達」とか「仲良し」になる訳ですが。笑
 空夢語編も頑張るので、お付き合いいただければ光栄です!!                      (10/07/03)