ドリーム小説
何が何やら分からぬ内には老婆の家へ招かれた。
人が一人住めるような古い家屋はまるで骨董品のような品格を持っているように思えた。
呆けているを老婆に押し付け、政宗は持ってきた板を持ってどこかへ消えてしまった。
「さてちゃん、夕餉を作る手伝いをしておくれ」
「え、あ、はい」
ニッコリ笑った老婆はテキパキと動くにうんうんと頷いた。
どうして私はここでお婆さんとご飯作ってんだろう?
何とも言えない気分の中、火を見つめていると老婆は呟いた。
「安心おし。ここなら追手は来やせんからね」
「え?」
「藤次郎ちゃんから聞いたよ。事情は知らんが追われてるんだって?こんな可愛い子が追われてるんだ。
そりゃ藤次郎ちゃんも心配で置いて来れんね」
知りたかったこととは別であったが、老婆の言葉に目を見開いた。
まさか今日一日振り回されたのは、虎珀さんの忠告を聞いて・・・?
キョトンとしているに老婆は鍋が沸騰してると指を差した。
慌てて調理に戻ったは一つずつ整理しようと口を開いた。
「あのお婆さん、あの人、前にもここへ?」
「藤次郎ちゃんかい?あの子は少し前からあの壊れた家を直しに来てくれてるんだよ」
は今度こそ声を上げて驚いた。
一国の主がこんな山奥で何やってるんだ?!
あまりの珍事に思考は吹っ飛び、あんぐりと老婆を見るしか出来ない。
つまりあの背負ってきた板達は修理に使われているのか。
納得いかないような、納得がいったような複雑な気持ちで老婆に続きを促す。
どうやら山から
猪が下りて来て畑も家も破壊しつくして行ったらしい。
「北山の爺がお城に野盗が出ると相談したらあっという間にやっつけてくれたって言っててね、
試しにお城に文を書いたんだよ。そしたら代わりに藤次郎ちゃんが来てくれてね。爺婆しかいない村じゃ大助かりだよ」
私はとんでもない勘違いをしてたかもしれない・・・。
本当に嬉しそうに笑う老婆の笑顔とは裏腹にの気分は沈んでいった。
無理矢理連れ回されたと勝手に腹を立て、政宗の気遣いを全て踏み躙っていた。
北山のお爺さんのことだって、きっと私に内緒で話を聞きに行って野盗を退治してきたんだ。
だから話を聞きに行かなくていいだなんて私に言ったんだ。
ここのことも、ちゃんとお城の仕事をしてなきゃ分かるはずない。
が知る以前の政宗はこんな風に自ら民と係わることをする人じゃなかった。
が変わったように、あれから政宗も変わったのだ。
ずっと懐に仕舞いっ放しだった簪を取り出して眺めれば、老婆が綺麗だねと笑った。
「大事な物かい?」
「・・・はい」
「らぶ、じゃね」
「
・・・は?」
***
翌朝、は寝惚け眼で隣の老婆を見て、飛び起きた。
あぁ、そうだった。
昨夜はご馳走になって、そのまま遅いからと泊めてもらったんだった。
少ない食品と垣根のない食事は何だか新鮮で楽しかった。
壊れた家はある程度修繕し、畑の周りに柵も出来た。
残る問題点はあと一つ。
は顔を洗って、着物を直すと外へ出た。
閏に朝の挨拶をして背を撫でてやると、身体を震わして返事を返してくる。
その様子に小さく笑うとは見知った気配が村から離れて行くのを感じ取り、眉間に皺を寄せて後を追った。
「どうして北山のお爺さんのことも猪のことも言ってくれなかったんですか?」
「・・・Shit、婆さん言いやがったな」
一人で山へと入ろうとしている政宗にそう声を掛けると、拗ねたように頭を掻いた。
例の猪をまた一人で何とかしようとしていたのだ。
絶対付いていくと言わんばかりのに政宗は観念したように溜め息を吐いた。
「別に、お前の代わりにアイツらの話を聞いて何とかしただけだろーが。それの何が悪い?」
「悪くはない!悪くはないですけど、どうして言ってくれなかったんですか?」
「どうしてって、お前の真似してあちこち回ってたなんて・・・・・Coolじゃねぇ」
「そんなことないです」
真剣に心からそう呟くに政宗は言葉に詰まった。
純真そうに自分を見上げるは羞恥に追い込む対象でしかない。
コイツが民と話し、触れ合うのを俺はずっと傍で見てきた。
の時も、の時もだ。
今でもそれが何になるのかはっきり分かってる訳じゃねぇが、それでも城にいたんじゃ出来ないこともあると知った。
コイツはまるで俺が正しい事をしたみたいに言うが、あれはそんな立派なもんじゃなく、ただ・・・
と同じことをしてみれば、お前の気持ちが少しは分かるかと思ったんだ・・・。
ガサガサと恥ずかしさを紛らわせるように一人でどんどん進んでいく政宗をは慌てて追った。
その直後、ただならぬ気配には思わず振り返り、政宗はの手を引いた。
の元いた場所にはクナイが深々と突き刺さっていた。
「猪、な訳ないですよね」
「当たり前だ!逃げるぞ!」
どこにいるのか分からない敵にこの狭い山の中は不利だった。
ひたすら走る政宗には必死に付いて行く。
こんな山奥まで追い掛けて来るなんて、一体何の用なんだ?!
脳に届く酸素は足りず、思考も正常に回りそうにない。
「おい、!お前本当に身に覚えねーのか?!」
「あ、りませんよ!」
前を走る政宗は面倒臭そうにしているものの、息は切れていない。
この化け物め、とは内心悪態を吐いて足を止めた。
ギョッとした政宗の目に飛び込んできたのは、ドサリと木から降って来た追手で目を見開いた。
「おい。今、何した」
「ク、ナイ投げただけです。小太郎が・・・いつも持っていけって、うるさくて」
は新たなクナイを手に取り、木の茂る森に向かっていくつか投げた。
敵の居場所がまるで分かっているようなに政宗は目を瞬き、思い出したように溜め息を吐く。
・・・そうだった。
こいつ、だったんだよな。
戦えるならもう逃げる必要もねえ。
「Hey、!敵は何人だ」
「えーと、八、九、ざっと二十くらいですかね」
「Ya-ha!!Partyの始まりだ!」
「・・・OK、boss」
は楽しそうな政宗の声を聞いて諦めたようにそう呟くと、いろは包丁の包みを解いた。
懐刀を取り出して政宗と背を合わせ神経を尖らせつつ、納得いかないのか眉根を寄せた。
おっかしいなぁ・・・。
猪退治のはずだったのに。
* ひとやすみ *
・気が付けば80話!ここまでお付き合いいただきありがとうございます!
私が書くとシリアスがシリアスにならないという惨事・・・。
この辺で殿の奇行の種明しです。いかがだったでしょう?
婆ちゃん、藤次郎に異国語教えてもらったんだね、と生温い目で見てます。笑
手直しのつもりで弄くり倒したら物凄い増稿した上に話が変わった。あれえ? (10/05/28)