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ドリーム小説

閏の背に跨り、明は心底困っていた。

デートと言われても明は今日予定があったし、何より街に袴姿で出て行くのはまずい。

この米沢では遥と間違えられると厄介だ。

付き合う義理はないけれど、言って聴くような素直な男でない事は重々承知している。

どうしたものかと悩む明の顔を見て政宗は溜め息を吐き、持っていた羽織を投げた。

慌てて受け取った明は政宗と羽織を何度も見比べる。




「そんなに心配ならそれでも羽織っとけ」

「でもこれくらいじゃ、」

「Ah?なら、こうしとけ」




ハガネを引き抜かれスルリと髪紐を解くと明の長い髪が風に舞った。

そのまま風に飛ばされ消えた髪紐に明が抗議すると政宗は楽しそうに笑って言った。




「下ろしてる方が女らしくていい」




思わず黙り込んだ明は憤然としてハガネを奪い返した。

別に絆された訳じゃないから!

何度もそう心で呟いて前を走る政宗を追い掛けた。







街まで出てしまえばもう予定も何もなくなってしまうが、釈然としない面持ちで明はブツクサと文句を言った。

けれども人の多い大通りを一人でスルスルと歩いて行ってしまう政宗は全く聞いていない。

その様子がまた腹が立つ。

声を張り上げた明に政宗はキョトンと振り返る。




「今日は北山のお爺さんの所に話を聞きにいく予定だったんですけど!」

「この前、街で声掛けてきたあの爺さんか?」

「そうです」

「あー・・・、別にもういいんじゃねーか?何も話なんぞお前じゃなきゃダメって訳じゃなさそうだったしな」




面倒そうに頭を掻きながらそう言った政宗に明はさらに腹を立てる。

暇を持て余している明はしょっちゅう街へ繰り出しては、いろんな人と話をしたり手伝ったりしていた。

毎日のように屋敷に顔を出す政宗も明に付き添い、街へ出ていたので大体の事情は知っていた。

不機嫌そうにしている明に気付いた政宗はどう対処していいか分からず、眉根を寄せた。




「あら、藤次郎さん!ちょっとお待ちよ!」




藤次郎と呼ばれた政宗は腕を引かれ、振り返るとこの街でよく見る女がそこにいた。

離れていた明には二人の会話は聞こえなかったが、政宗が突然引き返してきて明に銭を渡して茶屋で待ってろと言い付けた。

あまりに一方的な言い草に今度こそ明は噴火するかと思ったが、深入りしなければいいのだと心を落ち着かせた。

他の女の人とデートしたいなら、私を無理矢理連れて来なければよかったのに。

むかっ腹を静めるために明は貰った銭を全て団子に変えた。




「何だこの可笑しな量の団子は?!」

「あ、お帰りなさい」




茶を啜る明の前に案外早く帰って来た政宗は串の量に奇声を発し、明は政宗が背負う板に視線を奪われた。

何で板なんか背負ってるんだろ?

重そうな板を背負い呆れ返って何やらブツブツ言っている政宗が何だかおかしい。

何か団子食べたらイライラが吹っ飛んじゃった。

お腹減ってたのかな、私。

そんな頓珍漢なことを考えている間に、政宗は残りの団子を包んで店を出るぞと言った。




「え?もう街を出るの?」

「まだ用があるのか?」




用があるも何も私は無理矢理連れて来られただけなんですけど?

疑問を疑問で返された明は首を傾げて、馬に板を結び付けている政宗を見つめた。

一体、街を出てどこへ向かうのだろうか?

閏に跨ろうとした明に政宗は思い出したように声を上げた。




「これ、やる」

「え、簪・・・?」




一体いつの間にこんな物を買ったのか、綺麗な藤色の飾りが付いた歩揺の簪だった。

考えても答えの出ない明の頭は別の答えに辿り着いた。

もしかして、これ、髪紐のお詫び・・・?

ジーッと明が見つめていると政宗はニヤリと笑って、閏の背に触った。

怒る閏は今にも政宗に齧り付かん勢いで唸っている。

慌てて背に乗り宥めるようにした明の努力も空しく、政宗は意地悪く笑った。




「よし、次行くぞ。ちょっとばかし近道するが、そのじゃじゃ馬じゃ付いて来れねーかもな」

「ちょっと!これ以上、閏を煽ったら・・・!」

「迷子は御免だぜ、You see?」

「うわ、待って、閏!」

「Ya-h!Here we go!!」




政宗の意のままに操られるかのように爆走し始めた二頭の馬に明は翻弄されて叫ぶ。

長閑な山道に明の悲鳴が遠くまで響き渡った。








***








「やるじゃねェか、お前の馬!最後は俺の乗ってるこいつの方がバテちまったな」

「・・・今のは、ぜっっったい近道とは言いませんから」

「Ah?半分は短縮しただろーが」

あれは身投げって言うんです!




明は声を低くして呻いた。

本当はこの人、自殺志願者か何かじゃないだろうか?

あんな恐ろしいこと誰がしたいと思うのか。

信じられないことに政宗は馬で崖をぴょんぴょん飛び降りて行ったのだ。

酷く疲れた明は反感の言葉も出ずに、辿り着いた目的地を見渡した。




「ここに何の用があるんです?」

「いいから土産持って来い」

「土産ってこの団子?」




言われるまま歩いて行けば小さな集落を目にする事が出来た。

こんな山の中に村があるとは。

明は辺りを物珍しそうに見ながら歩いていて、ギョッとした。




「え?!家が半壊してる?!」

「おや、藤次郎ちゃん、また来てくれたのかえ?」

「おう、婆さん。様子はどうだ?」




老婆は気軽に声を掛けた政宗にニコリと微笑んだ。

それから明を上から下まで見て二度頷いた。




「こりゃまたべっぴんさんを連れて来たね。藤次郎ちゃんのいい人かねぇ」

「Ahー、面倒だからそういうことにしとくが」

「うんうん。若い頃の私にそっくり」

「嘘付け」




何だかまたおかしな事に巻き込まれたと明は眉根を寄せた。


* ひとやすみ *
・いやー、普段人当たりの良い主人公がいろいろ崩れてて書くのが楽しかったです!
 これが絶対フラれるデートの仕方でございます。笑
 もう何かいろいろツッコミたくなりますが、主人公、団子で機嫌直っちゃうんだ・・・?
 何やらどこぞの熱血男の影響をひしひし感じます。笑
 そして相変わらず私の書く通りすがりは意味も分からず出張ること・・・。               (10/05/14)