ドリーム小説

悔しかった。

あんなに苦しんで、傷付いて、引き摺ってきた事が、あんなに簡単に過去の事として流されたのが悔しかった。

別にのことをもっと惜しめとか、後悔しろとは思ってはいなかったけど、

だけどあれじゃまるで、私一人だけがずっと痛みを抱えて悩んでいたみたいじゃない。

何が奥州筆頭だ。

あんなの自分本位で気まぐれなバカ殿で充分だ!




「それで、何であんた達がここにいるんだ!」

「Ah?が城に来ねェなら俺達が出向くまでだろ、Understand?」




バカ殿とそのお供三人が雁首揃えて、武田の屋敷で煎餅を頬張っている。

昨日の今日でなんでこうなるんだ?!

がキッと鋭い視線を向けると成実が無理矢理煎餅を飲み込んで声を上げた。




「梵は馬鹿だけど、あの時は本当に落ち込んでたんだ!」

「あぁ。殿は馬鹿だし腹を立てるのはもっともだが、お前を救えなかった事を心底悔いておられた」

「お前に再び会えて舞い上がって出ちまったんだろ、あの馬鹿な発言は」




多分、恐らく、フォローだと思われる言葉を三傑が言う。

家臣達の度重なる馬鹿宣告に政宗は腹を立てながらも自覚があるので黙るしかない。




「それより!何だあれは!この屋敷に入るなり水が降って来るわ、物が飛んでくるわ・・・!」

「彼は・・・ウチの下男だと言い張ってました」

「あんな殺意剥き出しの下男がいてたまるか!」

「私が止めても聞かなかったから仕方ありません」




甲斐に一度戻ったはずの小太郎がなぜか下男を名乗ってこの屋敷のどこかにいる。

そして何やらいろいろ悪戯をしているらしい。

は不意に独眼竜殺害発言を思い出したが、政宗は事実まだ生きているので小太郎を放置することにした。

これくらいの仕返しなど可愛いものだ。




「それで本当は何しに来たんですか?」

「用がなけりゃ来ちゃいけねェのか、Kitty?」

「やかましいって言うんですよ。用がないならさっさとお引取り願います」

「うっわ!取り付く島もねー!頑張れ、梵!」

「殿!ここが踏ん張り所ですぞ!」

「Shut up!煩せェんだよテメェら!」

、同盟に関する話だ」

そういうことは早く言って下さい




完全に振り回されている政宗は面白く無さそうに小十郎とを睨んだ。

当のは何でもないように佇まいを正して政宗に向き合う。

気に入らないが、現状打開策も浮ばず政宗は渋々重い口を開いた。




「今朝、上杉側の客人が挨拶に来た」

「上杉が奥州に入った?盟約の要に一体誰を呼んだんです?」

「上杉謙信」

「はぁ?!」




あんぐりと口を開いたに政宗は頭をガシガシと掻いた。

冗談で文にそう書いたら本当に軍神が出てきてしまったらしい。

謙信は先の戦で怪我をしているし、人質には後継と名高い上杉景勝辺りが出てくるとばかり踏んでいたのだ。

つまり甲斐の復興が済み次第、同盟を結ぶことになったということだった。

時間稼ぎをしたかった伊達にとっては大誤算だ。




「俺はこれから謙信に会いに行くが、も来るか?」

「・・・・・行きます」

「OK!Come on!」




こうして謀らずとも時期を早め、同盟三国が奥州にて相対する事になった。







***






隠れるように入ったのは上杉の屋敷ではなく、街外れの庵であった。

どうやら上杉謙信自ら人質になった事を伏せておきたいようだが、おそらくそう長くは保たないだろう。

報告とはいえも甲斐にそれを知らせるし、伊達も上杉も知っていること。

人の口に戸は立てられない。

先に庵に入って行った政宗を廊下で待ちながら、はそんな事をつらつらと考えていた。

室内を隠すように植えられた木々が葉を揺らし、秋の訪れを知らせているようだった。




「入れ」




不遜な政宗の声が室内から一際大きく聞こえてきて、は戸に手を掛けた。

今から会うのはあの上杉謙信なのだ。

心して行かないと。

大きく息を吸い込んで戸を開けると、中には政宗と頭巾の美形、そして女中らしき女がそこにいた。

戸を開けたまま目を見開き固まったに首を傾げた政宗はその視線の先に女中がいることに気付く。




「かすが姉さん!」




の声にハッとしたかすがは思わず部屋を出ようと立ち上がった。

逃がすまいとも立ち上がるが、警戒しているかすがはこのまま素直に捉まってくれそうもない。

長かったのか短かったのかも分からないが、緊張感漂う部屋に静かな風が吹き抜ける。




「ふたりともすわりなさい」




投げられた言葉は確かに波紋を広げたが、なぜかそれが静寂を呼んだ。

強制力は感じなかったが、なぜかそうした方がいいと思えては素直に従った。

一方のかすがも恥じ入るように視線を逸らして、元の位置に戻る。

にこりと微笑んだ美形を今度は落ち着いて眺めたは不思議な感覚に陥っていた。

そうだった。

かすが姉さんは上杉の忍だったんだから、ここにいてもおかしくない。

そして目の前にいるこの人がお館様の好敵手、上杉謙信。

お館様とは正反対の人なのに、対面すると同じように圧倒される・・・。




「いちどおあいしてみたかったのです、かいのひめぐんしよ」

「え、あ、こちらこそお会い出来て光栄です、謙信公」

「ふふ、そうですか、あなたがつるぎがきにかけていたものでしたか」

「謙信様!」




楽しげに笑う謙信にかすがが叫ぶのを聞きながら呆けていると、軍神が微笑んだ。

奥州に残してきたが気掛かりでずっと落ち込んでいたのだと謙信はに告げた。

もちろんそれが誰を指すかなんて分かり切ったことで、は思わず顔を歪めているかすがを見る。

別れの思い出は凄惨な物で今でも胸が痛むけれど、かすがとの思い出はそれ以上に大切な記憶なのだ。

怯えるように視線を逸らすかすがに、は目元を緩めた。




「また、舞を見せてくれませんか」

「な、にを・・・」

「私、かすが姉さんが大好きですから」

「!!」

「あの時は助けてくれてありがとうございました」




一片の翳りもなく微笑んだにかすがは思わず息を呑んでその眩しさに顔を歪めた。

その強靭な精神力と素直さはかすがにはない物で、とても眩しく羨ましかった。

は知らないだろうが、その明るさに一体どれだけ救われたか分からない。

馬鹿者が、それは私の言葉だ。

かすがはそろそろと手を伸ばし、の頭を撫でた。

記憶と違わぬ表情で笑うにかすがは手に力を込めて撫で回しまくった。




「ほほえましいですね」

「Ahー、完全に忘れられてないか、俺・・・」




同意するかのように笑う謙信の声を聞きながら、政宗は苦笑して嬉しそうなを見つめた。

政宗の存在が思い出されるまであと少し。


* ひとやすみ *
・筆頭・・・!!お前という奴はどこまで可哀想なんだ!!泣
 まぁ、しゃーないかぁ。せっせとまた一から信頼を勝ち取りたまえ!
 そんなこんなでかすが姉さんと再会。謙信公と対面。
 ウチの謙さまはのどかな人のようです。それでいて侮れないお人!
 さぁ、ここからどうなることやら。びしゃもんてんのかごぞあれ!!           (10/04/27)