ドリーム小説

「ささ姫様、こちらです」

「え?」

「城へ行くのですもの。気合を入れてお世話させていただきます!」

「えぇ?」




数人の女中達に手を引かれ、入った部屋で見た物にはポカンと口を開いた。

燃えるような紅蓮の錦に金銀の川を流れる花々が色鮮やかに彩られている。

美しく誇るように掛けられていたそれをは困惑したように指を差す。




「この打ち掛けは・・・?」

「凛としていて美しくございましょう?こちらは菊姫様がご用意なされたんですよ」

「菊姫様が?それがなぜここに?」

「まぁ!姫様が城へ参る時にと菊姫様がお与え下さったんですよ」

「わ、私ー?!」




驚いている隙にと女中達に引ん剥かれ着付けされる中、打ち掛けと共に送られて来た文に目を通した。

その出だしは『私も松を見習い、虎弟姫[とらおとひめ]に餞別を贈る事にした』で始まっていた。


『そなたは軍師として戦場へ赴く女人であるが、我等女子の戦は他家へ嫁ぐ事じゃ。

私はそんなの真っ平御免じゃが、化粧や着飾る事が女子の戦支度であるのは間違いないであろう。

そなたが武田の名を背負い伊達へ参るというのなら、この醒めるような赤を纏い愚かな男共を翻弄してくるがよい。

虎弟姫の見目に騙され、阿呆面を晒すろくでなし共の話を聞けるのを楽しみにしておるぞ。』


この勝気な言葉の羅列は信玄の五女、菊姫に間違いなかった。

でなければ、ここまで愉快そうに辛辣な言葉を書き綴れる訳がない。

第一、を虎弟姫などと呼ぶのは彼女だけだ。

うぅとが文に向けて唸ると、止めとばかりに女中が口を開いた。




「姫様がこれをお召し下さらない時は虎珀法師がお知らせするようにと」

「げ」




最悪だ・・・。

菊姫様と虎珀さんだなんて、勝てる気がしないよ・・・。

見知らぬはずの二人の最強タッグには諦めの溜め息を深く吐いた。






***






米沢城はあれ以来だ。

なぜか酷く落ち着いているはまるで第三者のように城内を案内されるまま歩いていた。

小十郎と歩いた畑への抜け道、綱元に指南を受けた部屋、成実とぶつかった廊下、政宗と再会した庭。

何もかも懐かしく見慣れた物のはずなのに、どこか違う風景に見えた。


何て言われるだろうか。

は気まずさからくる気負いを軽減させようと小さく息を吐く。

裏切り者と武田にある身を罵られるだろうか?

いや、真っ先に斬り捨てられるかもしれない。

は通された部屋に入ると座り込んで、俯く。

その場にいた重臣達はの顔を見て驚愕に顔を歪ませていたが、深く考え込んでいるは気付かない。

上座の主とまだ来ていない多くの重臣達を俯いたまま待った。

何ていうか、菊華屋の情報を持ち出したのは私が悪いけど、散々虐められて間者扱いって酷いよね?

その上、勘違いだって分かったのに今度は出奔の罪とか被せられて・・・。

あれ?これって私の方が怒ってもいいんじゃないの?

は今まで全くそんな事を思わなかった自分に苦笑した。

あの頃の私は生き延びて帰るために、戦国の身分という差別にどっぷり浸っていたのだ。

政宗が全て正しくて、私が間違っているのだと。

善と悪の判断は身分で決まると遜っ[へりくだ]ていたあの頃の私を慶ちゃんが『何もかも諦めてる』と言ったのも頷ける。

怒りや不満を仕方ないの一言で押え込み、全ての責任を周りに押し付け、ただ助けを待っていた。

こんなんじゃ、政宗様達だけを責められないな。

ふと足音に気付き、深く頭を下げたの周りに重臣が座り、上座に政宗が座った。




「Ah、よく来たな、姫軍師さんよ。顔を上げな、Kitty?」




相変わらず緩い人だなと三つ指を付いた先の畳を見ながらぼんやりと思う。

反省はここまでだ。

今の私はあの頃の私ではない。




「武田軍、山本勘助が家臣、と申します」




ゆっくりと顔を上げたの目には驚愕で声を失う政宗と、目を見開く小十郎達が映った。

この表情からして姫軍師がだと知っていて人質にした線は消えた。

冷静なとは裏腹に、控えていた家臣達は口々にの名を呟いて騒然としていた。




「ご無沙汰しております、政宗公」

「お前、本当にあのか?!」

「はい。私があの時お会いした政宗公が本物であるならば」

のこと・・・!」

「政宗公、済んだことは仕方ありません」




唯一に会った事のある政宗だけがユルリと首を振るの言葉に悔しげにしていた。

その場にいた重臣達はにそっくりな女と自分達の主の一挙一同を固唾を呑んで見守っている。

状況を測りかねた小十郎は居ても立ってもいられなくなり、声を上げた。




「政宗様!この者は・・・、」

の・・・姉だ」

「「「 !! 」」」




その場にいた全員が何とも言えない気持ちになり、を見つめていた。

何だか重い空気の中、顔合わせは呆気なく終了し家臣達はぞろぞろと散って行った。

取り残された政宗と三傑、はただ黙ってそこに座っていた。




殿・・・。のことは謝っても許される事じゃねぇが」

「俺達はあんたの大切な弟を奪ってしまった」

「貴殿はここに弟の仇を討ちに参られたのか?」

「え?違います!あれは自業自得です。付け入る隙を見せた自分が悪い。それにそんな好き勝手な事をして

 武田の名に泥を塗るつもりはありません」




三傑の謝罪にブンブンと首を振ったは慌ててそう言った。

だが、それより何より、先ほどから気になってることがある。

知っていて演技をしてるなら、皆、役者だ。




「政宗公、お三方に伝えてないんですか?」

「What?何の話だ?」

「手紙の内容です」

「Letter?一体何の話をしている?」

「え?」




目を見開いたは不思議そうに首を傾げている四人に視線を合わせる。

あの手紙が政宗公の手に渡っていない・・・?

そんな馬鹿な。

米沢城を離れる前に私は三通の手紙をしたため、寺の自室に置いておいた。

洛兎さんと虎珀さんは確かに手紙を読んだと言っていたのに。

残りの政宗公宛の手紙には・・・・。




「じゃあ、私がだと本当に知らなかったんですか・・・?」

「「「「 は?! 」」」」




城から離れた覚範寺で捻くれた僧が二人、クシャミを漏らした。


* ひとやすみ *
・あーあ。バレちゃった!怒られるぞ、お寺組!笑
 修羅場や感動を期待してた方、申し訳ありません!
 なぜか現場では疑問符が飛び交っております。笑
 やー、何ていうか、再会してここまで全員が首傾げてる光景も珍しい・・・笑        (10/03/24)