ドリーム小説

達一行が奥州に辿り着く少し前、若い男二人が隠れるように米沢城下を練り歩いていた。

旅人のような出で立ちであったが、どこか切迫したような雰囲気がその身元をあやふやにしている。

しかし城下はいつものように賑わいを見せ、怪しげな二人組はその中に紛れてその存在を稀薄にさせていた。

固い表情のまま饅頭屋の暖簾[のれん]を潜った男達はこれまであちこちで何度も尋ねた質問を店主に問うた。




「すまないが親父、という御仁を知らんか?」




店主は突如現れた怪しげな旅人に眉根を寄せたが、聞き慣れた名前を聞いて目を瞬いた。

知り合いの名を出されて一気に警戒心の薄くなった店主は知ってるに決まっていると声を上げて頷いた。

ようやく見付けた手掛かりに男達は表情を明るくして店主に詰め寄るが、予想外の返答が返ってきた。




君はちょっと前まで城にいてよくウチに来てくれたんだけどね、今は行方が知れないんだってよ」




二人はまた手掛かりを失い、悔しそうに顔を歪めた。

それを知ってか知らずか店主も同じように顔を歪めると、囁くように声を抑えて話を続ける。




「だけど本当は君は亡くなったらしいという噂があるんだよ」

「何ですって?!」

「シッ!声が大きいよ!噂なんだけど寺の坊さん達を見てると本当みたいでねぇ。あんないい子が一体なんで・・・」




本当に寂しげにそう呟いた店主は客に呼ばれて仕事に戻っていった。

未だに上手く事情が飲み込めない二人は呆然と立ち尽くし、途方に暮れる。

入って来た客に押し出されるように店の外に出ると、しばらくして片方の男がおずおずと切り出した。




「本家に文を出しましょうよ」

「・・・・いや。ここにいたのは事実らしいが噂に確証はない。文は詳しく調べてからだ」

「でもホントウだったらどうするんです・・・って、アイタ!何で殴るんですかー!!」

「情けない声を出すな。行くぞ、己鉄[きてつ]

「あ、待って下さいよ、靭太[じんた]さーん」




男達は再び情報を求め、米沢城下の賑わいに溶け込んで行った。






***






奥州への旅はゆっくりした旅路で、懐かしき米沢に入ると用意されていた奥州の武田屋敷へと向かった。

すでに生活必需品は運び込まれ、世話を任された女中達が忙しそうに出入りしている。

都合上、が奥州筆頭と会い見えるのは三日後になるらしい。

屋敷の面々と顔合わせを済ませ、自室へ向かえたのは到着からしばらくしてからの事だった。

旅疲れに気疲れも加わり深く溜め息を吐いたは、なぜか隣で大の字で転がる洛兎を見る。




「何でここにいるんですか。米沢に着いたんですから早くお寺に帰ってあげて下さい」

「いや、そうなんだが、俺お前の護衛頼まれてんだよ、小太郎に」

「?そういえば小太郎、屋敷に着いてすぐにどこかへ行くって・・・」

「うん。ちょっとおつかいをな」




どうやら小太郎は洛兎に言われてどこかへ出掛けたらしい。

はほんの少し不思議に思い首を傾げたが、それも客人を告げた家人の声で吹き飛んだ。

武田屋敷にいる自分を訪ねる知り合いなんて奥州にいないはずだけど・・・。

来客を告げたその声になぜか洛兎が喜び、と共に会うと言う。




「お客人は血相を変えて屋敷に飛び込んでいらして、もう一人は黒尽くめの忍でございます」

「もしかして小太郎?」

「そうだ。実はソイツ俺が呼んだんだけど、小太郎の手前の客人って事にしてあんだよ」

「じゃあ、私いらなくないですか?」

「いるぞ」

「?」




客間の前で首を傾げたの前に闇が降りてきた。

視界を黒く染めるのは戻ってきたの忍の衣装だった。

不機嫌そうに騙されたと発する小太郎には声を上げる。

何だかここに来てから不思議な事ばかりだ。




「洛兎さんに騙された?母親じゃなかったって何?」

「人聞き悪いこと言うなよー。あれはの母親みたいなもんで、・・・・面倒だな」




洛兎はそこまで言うと襖を開けて客間へと入っていった。

残されたは瞬くと不機嫌そうな小太郎を見た。

どうやらの母親に文を出すから緊急で連れて来て欲しいと洛兎が小太郎に頼んだらしい。

のためだと渋々出掛けてみたものの、それが母親でなかったので怒っているようだ。

母親も何も、私の母親はここにはいない。

は何やら騒がしくなった客間をこっそり覗いてみた。




「洛兎!今度は何やらかしたんです?!無銭飲食ですか?!人攫いですか?!武田様の忍殿がわざわざ

 寺へ来るくらいです!何か酷いことをしたんでしょう?!まさかお武家様のお世話になるなんて貴方って人は!」

「お、落ち着けよ!」

「落ち着いていられますか!!大体この手紙は何です?!

『とんでもない事が起きた。武田屋敷へ来い。来ないと死ぬほど、』死ぬほど何です?!書くなら最後まで書きなさい!」

「死ぬほどコウカイするぞって書こうとしたんだけどよ、墨がきれてな」

「そうでしょうね!墨がきれたか、大きく書きすぎて場所がなくなったか、漢字が分からないかのどれかだと思いましたよ!」

「すげーなお前。全部正解だ」

「そんなこと褒められても全然嬉しく・・・!」




洛兎に般若のように詰め寄るその客人はに気付くと目をまん丸に見開いた。

それはも同じで、寺でよく見た風景の二人に声を失っていた。

洛兎だけが安心したように息を吐いて、仕切り直しに声を上げた。




「な。来なかったら死ぬほどコウカイしただろ?だ。あのが生きてたんだ、虎珀」




よろよろと近付いてくる虎珀は瞳の色を揺らして、違う所を探すようにを見つめる。

は驚愕で歪む虎珀の表情に申し訳なさそうに口を開いた。




「ご心配をお掛けしてすいませんでした。お久しぶりです、虎珀さん」

「ほ、本当になんですか?」

「本物だって。夢だと思ってんのか?顔でも殴りゃ分かんじゃねえか?」

「・・・そ、うですね」




自分の頬に手を当てて呆然と頷いた虎珀は隣の洛兎をそっと見上げた。

そして次の瞬間、頬に添えてあった虎珀の手が物凄い勢いでなぜか洛兎の頬を打った。




「イッテェ!!!」

「どうですか?」

どうですか?じゃねーよ!!おっまえ、殴るなら自分殴れ!!

「私は痛いのは嫌いです」

「えぇー?!」




心底ビックリしているに虎珀は目を細め、ジンジンと痛む掌に視線を落とす。

夢じゃないようだ。

ジクリと痛んだ胸と変わらないに顔を歪めた虎珀は、を抱きすくめた。




「貴方って娘は本当にッ!こんなに心配させて!本当に本当に・・・・生きていてくれてよかった・・・っ!」




虎珀の微かに震える声と身体には唇を噛んだ。

そして何度目かになる謝罪と感謝の言葉を暖かい温もりにしがみ付いて呟いた。


* ひとやすみ *
・あー!雲行きが怪しいような晴れたようなスッキリしない感じです。
 オリキャラまた出ました!パノラマではあと一人で最後の予定です!
 あくまで予定なのでどうなるか分かりませんが、可愛がっていただけると嬉しいなぁ。
 虎珀と再会!次はお城組ですね!!                               (10/03/16)