ドリーム小説

大規模な宴の翌朝は静かなものだった。

何せを送り出すためにそれぞれが用意していた物を披露してくれ、挙句に前田夫婦と慶次までいたのだ。

朝方まで飲むわ歌うわの大騒ぎで楽しい時間を過ごした。

昼過ぎにはポツポツと人が起き始め、皆二日酔いと寂しさを抱えながら達を送り出す準備をする。

荷を持って先を歩く小太郎と洛兎を追うように歩いていたは、背後から迫り来る人物に気付いて振り返った。




殿!」

「幸村さん、佐助」

「気を付けてね、。近い内に皆で奥州へ行くからさ」




暗に迎えを仄めかした佐助には嬉しそうに笑って頷いた。

どこか落ち着かない空気を放つ幸村が困ったようにを見て口を開いた。




「某、殿が困るくらいならと思って黙っていましたが、やはりなかった事には出来ませぬ」

「え?」

「熱にうかされてはいましたが、あの時の言葉に二言はござらん」




真摯な目がを貫いて、ふと触れた幸村の手にあの時の幸村の体温を思い出した。

見るからに真っ赤になったに幸村も照れたように笑い、反面その場にいた佐助が驚愕してポカンと口を開けている。


『 某は殿を政宗殿にくれてやる気はない。必ず取り返します。だからどうか奥州へ行ってもこの幸村をお忘れなさるな 』


熱を出して倒れたから、あの時の記憶はないものだと思っていた。




「さあ殿、皆が門前で待っておりますぞ」

「・・・はい」

「ちょっとー!何かあったんでしょ、お二人さん!何したの旦那?!てか何か出来たの?!」

「うるさいぞ佐助!」




やいのやいの騒ぎながら前を行く主従には火照った頬に手を当て、深呼吸すると足を踏み出した。

追い付こうと足を速めた所で、突然は背後から口を押えられ陰へと連れ込まれた。

雑談しながら進む幸村と佐助はが消えた事に気付いていない。




「!!」

「脅かして悪い」

「・・ぷはっ。慶ちゃん?」




口元からそっと手が離されるとは背後から抱き付くように押えている人物を首だけで振り返る。

の問う声に慶次はコクリと頷いただけで、離れる素振りは見せなかった。

いつもの笑顔はどこへ消えたのか、困ったような顔をしている慶次には不安になる。

心配になって名を呼んで回されている腕に触れると慶次が耳元で溜め息を吐いた。




「まさか、あの幸村に先越されるとは思ってなかったなぁ」

「え?」




首を回して慶次を見ようにも、背後からしかと抱き締められていてその表情は窺えない。

慶次がもう一度溜め息を漏らすと首筋を吐息が撫で、ゾクリとの肌を粟立たせた。

何を越され、落ち込んでいるのだろうかと考えていると慶次が小さく囁く。




「俺さぁ、が好きだよ」

「え?私も好きだよ?」

「・・・やっぱ伝わってねーよなぁ」




カクリと折れた首が重さを増しての肩に乗りかかった。

焦ったのはの方である。

嘘を吐いた訳でもないのになぜ責められている気がするのか?

足元で飛んで跳ねてキイキイと鳴く夢吉もどことなく怒っているように思える。




「ホントはについて行きたい。でも利の方もちょっとヤバくて放っておけない」

「もしかして魔王が動いた?」

「そうなんだよ。あー!もう!やっぱ奥州にはやりたくねぇよ!政宗の馬鹿にまた苛められねーか心配だし、

 幸村は人畜無害みたいな顔して手ェ早いし、は鈍感だし!」

「ちょっと何それ?!」




ぎゅうっと背後から抱き着きながら耳元で愚痴を溢す慶次に、聞き捨てならないとはむくれた。

この状況にもかかわらず、全くこれっぽっちも危機感を感じていないに慶次は少し落ち込む。

俺だって男なんだけど・・・?

慶次の切ない男心に気付いてるのはこの場では夢吉だけで、相棒は可哀想な主の肩を二度ほど叩いた。




「ねぇ慶ちゃん。何に落ち込んでるのか分からないけど、私一生懸命頑張るから心配しないで?」




苦笑するように微笑んだに慶次はキョトンと一拍あけてから盛大に溜め息を吐いた。

やっぱ全然分かってねー・・・。

これだから心配で放っておけないんだって!

慶次は決めたと力強く呟いて、の身体を反転させて向かい合わせた。




「決めた。俺、が帰ってきたらお前が好きだって告白するからな」

・・・・は?

「いや、好きじゃ通じねーんだっけ。恋しい、違うな、愛してる、かな?」

「はい?!」

「ま、いーや。次会う時までに考えとくから!」

「え、いや、今、言った・・・」




絶賛混乱中のにニカッと笑った慶次は遠くでを呼ぶ幸村の声を聞きつけた。

反応に困っているの手を引いて慶次は門を目指した。

その途中、くるりと振り返って後ろのを見下ろした。




、気を付けて行って来いな」




慶次がいつもの笑顔を向けたと思った瞬間、慶次との距離が零になった。

の頬を掠めていった唇がニッと弧を描き、反対の頬には夢吉が口付ける。

呆然とするにケラケラと楽しげに笑った慶次はその背を優しく押して小太郎と洛兎の元へと送り出した。

盛大な歓声の中、は奥州へと旅立ったが、当の本人は呆然としていてこの時の記憶は一切ないと後に語る。


* ひとやすみ *
・おせおせモード全開でございます!!
 一体今誰がリードしてるんですかね?夢吉?笑
 そしてさよなら、武田軍!!ようやく奥州へ出発です!!
 さて、ここからはオリジナル路線をひたすら走ります。またオリキャラも
 多少飛び出ます!!これ以上は無理と思った方はここで折り返して下さいね!!   (10/03/03)