ドリーム小説
「・・・で、言い訳は?」
「ありません」
どうやら何か事情がありそうなと洛兎に気を遣ってキヨは席を外した。
それから頃合を見て部屋に戻れば、洛兎が正座してそれをが見下ろしていた。
当初とは逆の力関係になっていてキヨは二人を交互に見て首を傾げる。
「仮にも洛兎さんは住職なんですよ?また勝手に抜け出して虎珀さんが大変じゃないですか」
「・・・ごもっともです」
「で、何で甲斐まで?」
「ん?あんま考えてなかったんだが、川中島の三つ巴戦で伊達と武田、上杉が同盟結んだだろ?
しかも盟主が伊達の若造と来たもんだ。甲斐の虎が何考えてんのか知れたら儲けもんって感じでフラリと」
ニパッと笑った洛兎にもキヨも呆れたような表情をした。
行き当たりばったりな計画だが実際洛兎は躑躅ヶ崎の現状にはち遭い、事情を知ったに違いない。
幸運すぎるとどちらともなく溜め息を吐いた途端、天井の屋根板が外れて勢いよく何かがゴロンと落ちてきた。
「ギャー!もう何でいちいち攻撃してくるかな?!ちょっとの忍でしょ?何とか言ってやってよ!」
もみ合うように落ちてきたのは佐助と小太郎で、泣き付かれたは困ったように小太郎に制止を呼び掛ける。
先程から見知った気配が屋根裏にあると思っていたら、どうやらもめていたようだ。
あの事件以降、小太郎はから離れなくなり結果的にはの忍という形で落ち着いた。
とはいえ、に近付こうとする佐助と行く先々でもめるので流石に困ってしまう。
どうしたものかと首を捻っている間に洛兎が小太郎に説教をし始めていた。
「おい風魔。を困らせてどうすんだよ。大体、そんないつもくっ付いて回らなくても・・・」
「・・・・・」
「え?忍が忍らしく忍んで何が悪いって?あのな、頼んでもないのにこっそり付いて来るのはそりゃ変質者だぞ?」
「・・・・・」
「だからお前がを守りたいのは分かるけどよ、猿飛追い払ってが迷惑被ってりゃ意味ないって話だよ」
「・・・・・」
「だろ?なぁお前らもそう思うよな?」
まさかの洛兎と小太郎の会話に一同は呆然としていた。
クルリと振り返った洛兎に同意を求められて、少しの間を空けて異口同音揃えて口を開いた。
「「「 小太郎の言葉分かるの?! 」」」
「
いや、全然!」
あっけらかんと勘で会話してみたと笑う洛兎に開いた口が塞がらない。
それでも大体合ってた辺り、さすが洛兎だとは妙に感心していた。
すると思い出したように佐助が声を上げた。
「あ、。大将が今後について話があるから来いってさ」
***
軽いノリで佐助に言われ、信玄の元へ向かったは部屋の中に入った瞬間目を見開いた。
武田の重臣が雁首を揃えて、重々しい空気を背負っている。
今となればこの強面の家臣達は仲間想いのいい人だと分かっているから怯えはしないものの、
この雰囲気はどこか緊張感を漂わせていた。
「、まずは竹中半兵衛の迎撃よくやってくれた」
信玄の言葉には素直に頭を下げたが、ピリピリした空気が落ち着かせてはくれなかった。
各所から称賛の言葉が飛んでくるのを聞きながら、端の方で悔しそうにしている幸村が目に入って首を傾げる。
「此度は独眼竜にしてやられた。豊臣の急襲を逆手に取られて撤退を余儀なくされた」
信玄の言葉にやはり幸村が落ち込んでいるのは政宗に後手後手に回らされた事だろうかとぼんやりと思った。
淡々と事後報告を聞かされた後、同盟の話へ移りなぜかに視線が集まり驚いた。
え・・・?な、何なの?
「この同盟まだ正式には結んでおらんのは承知の事だろうが」
「はい。謙信公の怪我と、躑躅ヶ崎の復旧のためですよね」
「うむ」
武田の主である信玄本人が直接奥州に出向けない状態である今、同盟は認識上だけの仮同盟となっている。
とにかくあと少しの間、同盟は凍結される訳だが、謙信に怪我をさせ躑躅ヶ崎急襲を知る伊達が
のんびり待ってくれる訳がない。
ここまで来てようやく頭が回り出したは信玄が取り出した文に眉根を寄せた。
「先日、伊達から文が届いた。内容は同盟成立まで心変わりをせんと誓えとあった。これがどういう事だか分かるか?」
「・・・人質ですか?」
「その通りじゃ」
溜め息を吐いた信玄に同調するように一同が眉根を寄せて俯いた。
この重々しさの意味をようやく理解するとも思わず、溜め息を吐く。
つまり同盟を結ぶまでに状況が変わろうと何だろうと勝手な事をされると困るので釘を差してきたのだ。
人質ならば信玄の子息、または政宗の事だから幸村とかを名指ししてきそうだとは一段と暗い幸村を盗み見た。
「それであの奥州の小童め、何を考えてか人質を指名してきおった」
「やはりそうですか」
やっぱり後者だったかとが頷けば、信玄は不満そうに顔を歪めた。
送り出したくなくても、最早これは決定事項だった。
悔しそうな声があちこちで聞こえ始めた時、信玄は送られて来た文をに投げ渡した。
目の前に落ちた文に手を伸ばして目を落とすと信玄は溜め息交じりに呟いた。
「甲斐の姫軍師をよこせと書いてある」
「・・・は?」
「あの若造、お主を要求してきたのじゃ、」
手元の文には間違いなく姫軍師と書かれており、思いがけない指名だっただけには動揺を隠せない。
切り捨て可能な一家臣であるに武田を縛るだけの効力などなく、人質になどなり得ないからだ。
沈黙が続いたのはほんの僅かで、耐え切れなかったのか途端に噴火したように重臣達が怒り狂って叫び出した。
その尋常じゃない吠えように当のはポカンと見ているしか出来なかった。
「あの小童め!武田の宝を抜け抜けと要求するとは!!」
「殿では人質にならんと分かっていながら!これは我が武田に対する挑戦じゃあ!!」
「馬鹿を言え!殿を切り捨てられる訳がなかろう!我が孫も同然なんだぞ?!」
「
この馬鹿者共がぁ!!ワシかて断れるもんなら断っとるわぁ!!!」
最後に大爆発した信玄は家臣達を自慢の拳でぶん殴り、収拾が着かなくなった。
ふざけた要求ではあるがそれを断れば武田の沽券に係わる。
何でとか、どうしてとか思う事はたくさんあったが、自分以上に必死な重臣達を見ていると悩むのが馬鹿らしく思えた。
信玄と重臣達の気持ちをきちんと理解した上では小さく笑って、頭を下げた。
「お館様、武田の名に泥は塗れません。私でよければ喜んで奥州へ参ります」
ニコリと微笑んだに対して、酷く情けない表情を見せた幸村の顔をは一生忘れないだろう。
* ひとやすみ *
・お待たせしました!星回帰編スタートです!!
お館様の逆ギレ書いてて楽しかったー!!笑
最早歴史も常識もぶった切った連載ですが、楽しんでいただけると嬉しいなぁ。
そんな訳で気合入れていきますので、応援よろしくお願いしますー!! (10/01/10)