ドリーム小説
「おいおい、。お前、半兵衛に何したんだよ」
「慶ちゃん今すぐあの蛇男と縁切った方がいいよ!」
「白蛇なら縁起がいいんじゃねぇ?」
「よ く な い !」
城下に入り込んできて大暴れしている豊臣兵を拾っては投げている慶次には大声を上げる。
斯く言うも上手く包丁の柄尻と峰を使い分けて、兵の数を減らしていた。
全く、何が悲しくて付け狙われなければならないのか。
本当に蛇のようにしつこい男である。
事の元凶である竹中半兵衛は嬉しそうにに兵を向けてくる。
今、躑躅ヶ崎館にいる武田兵の司令官はであるが、当の本人は慶次と共に最前線に出ていた。
本来ならば引っ込んでいるべきなのだが、出兵中のため数は少ないし何より非戦闘員である町民の命が掛かっているのだ。
豊臣からすれば敵大将であるが前線に出て行った方が被害は少なく済む。
それもこれも狙いの内なのが半兵衛の口元から見て取れて、は苛立っていた。
「いい加減、折れてはくれませんか。こちらとしても無益な殺生は避けたいのでね」
「お断り!何で私がアンタなんかと!」
「なかなか強情な人ですね。こちらにくれば悪いようにはしないと先日言ったはずでしたが?」
「おいおい、お前等一体何の話を・・・」
「おや、大きなイノシシがいると思ったら君か、慶次」
「うっせー!」
不愉快そうに黙り込んだに慶次はどういう事だと視線を向けた。
ニヤニヤとした目が仮面の奥から見えて、はイライラを募らせて先日の出来事を語り出した。
***
豊臣軍襲撃前の躑躅ヶ崎館では非常にのんびりした時間が流れていた。
小太郎が出て行ってから数週間が過ぎ、
伊三が偵察に出て行ったが、それ以外は特に何も変わらない。
がいつものようにフラフラと街に出て行った時、それは起こった。
町中で何やら騒ぎが起こっていて、足を向ければ人が倒れていた。
オロオロとしている町人達にあれこれ指示を出して、はその人を近くの店へ運び込んだ。
白髪だったのでてっきり老人だと思っていたが、よく見れば顔の整った若い男で驚いた。
店の店主が持って来てくれたおしぼりを彼の額に乗せると、ゆっくり目蓋が開いて目が合う。
「お手数をお掛けしてしまったようですいません」
「いいえ、旅の途中で疲れが出たのでしょうね」
「そのようです。商人なので品の買い付けにここまで来たのですが」
儚げに笑った男はフラフラと起き上がろうとしたのでは手を貸した。
それを見ていた野次馬達が安堵したように次から次へと男に声を掛ける。
「ちゃんによく礼言っときなよ、あんちゃん」
「そうよ!こう見えてちゃんは甲斐のお偉いさんなんだからね!」
「あぁ、お前さんが探してる物、ちゃんなら知ってるかも知れねーぞ?」
キョトンとした男とは視線を合わせて目を瞬いた。
この人、何かを探してここまで来たんだ。
が思考に耽っていれば、男が興味深そうに声を掛けて来た。
「武田様の?」
「はい、まぁ一応」
何かを考え始めた男に周りの人々は首を傾げた。
はその男を観察していて、不意に耳元のおかしな日焼けの跡に眉根を寄せた。
「それで探し物はいいのかい、あんた」
「あ、はい。この町を見ていて他に欲しい物が出来たので」
「へぇ!そりゃよかった」
強い紫の瞳がを射抜いて、なぜか男の笑顔に固まった。
が再び動けるようになったのは、男の咳き込む姿を見てからだった。
心配そうに見ている野次馬を背に、男はスッと立ち上がっての手を取った。
「これでも商人の端くれ。僕は目利きだと自負しております。どうか僕と一緒に来ていただけませんか」
その途端、店内で物凄い騒ぎが起こり、動じなかったのは笑顔の男とだけだった。
求婚がどうだとか煩い中、男の冷たい手には意識を向けながら口を開いた。
「当初の探し物はよかったのですか?」
「はい。今は貴方が欲しい」
「申し訳ないですが、私はすでに心に誓った方がおりますので」
「・・・・そう、ですか。ですが、私は諦めが悪いので覚悟しておいて下さいね」
ニッコリと笑った男は触れていた手をあっさり放し、店主に礼を言ってするりと猫のように出て行った。
残されたに町人達はギャアギャアと声を掛けたが、すぐに立ち上がったは騒ぎのお詫びに頭を下げて店を出た。
屋敷で出迎えたキヨはの顔を見てギョッとした。
「ちゃん、町で何かあったの?!」
「キヨ、今すぐ戦支度。あと町人達を避難させて」
「は?!」
「名乗りもせず、私が欲しいだなんて、言ってくれるわね、竹中半兵衛」
隠してはいたがメガネ焼けならぬ仮面焼け、病弱な癖して無駄のない筋肉、商人には絶対にない剣だこ。
当初の目的が何だったのかなんて知らないが、今はなのだ。
つまりそれは留守の武田を獲るということだろう。
図々しいまでにキザっぽくああ言った半兵衛を思い出して、は近くにいたキヨに当り散らした。
***
ようやく納得のいった顔をした慶次は不憫なキヨを哀れんだ。
荒れに荒れながら戦の準備を命令したの言う通り、豊臣が間もなく甲斐へ攻め込んできた。
は武田への奇襲だと思っているようだが、多分半兵衛は本当にが欲しいのだろう。
コイツ、使える駒は手元に置いておきたい奴だからなぁ。
本当に楽しそうにと喋っている半兵衛を見ながら、慶次は深く溜め息を吐いた。
「この手は出来れば使いたくなかったのですけどね。仕方ありません」
「今更な事を言うな!」
「・・・お前、ホント嫌われてんな」
「うるさい。羨ましいのかい?」
「いや、全然。だって俺、に愛されてるし」
不機嫌そうな半兵衛の紫苑の瞳がキラリと不気味に光った気がした。
* ひとやすみ *
・半兵衛です!好きすぎてシリアスがシリアスにならない。笑
慶次とセットにすると漫才にしか見えないのは何でだろう?
初対面でお互いに探り合い、騙し合い。自分にはない有能さを
相手に見付けて嫌悪し合う二人がなかなか好きです。 (09/12/13)