ドリーム小説
言葉を話さない風魔小太郎の心が分かるという特殊能力が発覚したものの事態に変わりはなく、
未だその一室は緊張感に包まれていた。
再び深く頭を下げた小太郎をは何とも言えない顔で見つめる。
と同じような顔をしている慶次達と視線を交えてから、は小さく息を吐いた。
「小太郎殿、北条を助けに行くことは出来ません」
ガバリと顔を上げた小太郎には悲痛そうな顔を向けた。
自分の物ではない荒れ狂うような感情の渦をは胸中で感じながら、搾り出すように語る。
「この文は確かに北条殿の物ですが、ここに書かれている内容は貴方に教えられている内容とは全く別の物です」
「どういう事だ?つまりそこには」
「助力を求めるような文章は一つも書いてないの」
は一つ頷いて慶次に返した。
窺うように見た小太郎は必死に平然を装おうとしているようだった。
混乱している小太郎にこれ以上真実を告げるのは酷に思えて、は言い淀んだ。
しかし、その気遣いも空しくその場にいた
伊三が淡々と口にしてしまった。
「それにその様子では知らないのでしょうが、北条はすでに落ちました」
それを聞いた慶次とキヨが伊三を咎めて一気に部屋は騒がしくなったが、は胸の痛みに全く動けなかった。
まるで胸にポッカリと大きな穴が開いたようだった。
止める術もなく全てが崩れ落ちたような喪失感と絶望が胸を締め付ける。
自分の事のように感じるその感情の揺れは小太郎の物であるが、傍にいるは大きく影響を受けた。
それだけ小太郎の北条への思入れが強かったのだと知ったは、微動だにしない小太郎を見て居た堪れなくなった。
***
それからというもの、小太郎は一切の動きを停止させた。
心も身体も思考も全て動かすのを止め、ただ茫然と日々を過ごす人形のようになってしまった。
周りの誰が話し掛けても反応はなく、が近付いても胸に届くのは無そのものなのだ。
小太郎に宛がった部屋に入っては深く溜め息を吐く。
・・・またご飯食べてない。
持ってきた時と変わらぬ膳に顔を顰めて、ぼんやりと外を眺めている小太郎に視線をやる。
赤い前髪が光を遮るように目にかかっていて瞳など見えやしないが、おそらくその瞳はどんよりと曇っているに違いない。
一体、その死んだ瞳で何を見ようというのだろう。
託された氏政の手紙の内容を思い出したは、生きる事を諦めた忍にだんだん腹が立ってきた。
「小太郎殿」
やはり反応のない小太郎には堪忍袋の緒が切れた。
このまま朽ちていくのを見守ってなどやるものか!
は足音荒く小太郎に歩み寄るとその胸倉を思いっきり掴んで、池に放り投げた。
バシャーンと派手に飛沫を上げた池の向こうで逃げるように鯉が跳ねている。
相変わらず茫然としている小太郎には叫ぶ。
「小太郎!!怠けるのもいい加減にしろ!北条殿がいなくなって死にたいのなら勝手に死ねばいい!
だけどね、何のために北条殿が武田に文を届けさせたのか少しは考えてみたらどうなの!」
の言葉に池の中に座り込んでいた小太郎がピクリと動いた気がした。
北条氏政の文には民を守るため豊臣と手を結んだものの、小田原の民を犠牲にするような行為に耐えられず
豊臣と縁を切るべく武器を取ったことが事細かに記されていた。
そして、そこには北条が豊臣に負けるだろうことも。
追い討ちをかけるように怒りのままに叫ぶは真っ直ぐ小太郎を見ていた。
「あの文には『都合が良いのは重々承知の上でお頼み申す。どうかこの風魔小太郎を与って頂きたい』
そう書いてあったの!」
ようやく顔を上げた小太郎の思いはには分からなかったが、なぜだか小太郎が泣きそうだとそう思った。
孫のように育った小太郎をこんなことで失いたくないと、想いをしたためた文には出来得る限り応えたかった。
だから文の内容や北条落城の報せを小太郎に伝えれば、きっと飛び出して犬死を選ぶのではないかと恐れ、口を噤んだ。
しかし、結果的にこんな風に自分を殺して、無を選ぶくらいならいっそ話してしまうことにしたのだ。
「今の小太郎は私の忍。でもね、役に立たない忍ならいらない!
そんな風に主人に助けられ、逆に助けられなかったことを後悔して朽ちる事を選ぶのは北条殿に対する侮辱だよ!
風魔小太郎ともあろう者が情けない!北条殿に逆らってでも死にたいのなら敵討ちでもして死んだ方がよっぽどマシだ!」
の凄まじいほどの怒りとは裏腹に小太郎はキョトンとしてを見上げていた。
何だかとんでもない事をは連呼していたが、小太郎はようやく頭や指、心に血が通ったような気がした。
自分から立ち上がり池から出た小太郎はの前で膝を付いた。
足元で片膝を付いて頭を下げる小太郎を見ては安堵の溜め息を吐いた。
「小太郎、北条の忍としてでも、私の忍でも、ただの小太郎でも何でもいいからこれだけは聞いて。
私も北条殿も小太郎が死ぬのを望んでいないよ。何を選んで何をするのも自由だけどどうかそれを忘れないで」
は小太郎を止められないと気付いていた。
だからこそのこの言葉であり、小太郎もコクリと頷いただけでその場から姿を消した。
ずるずるとその場に座り込んだに「お疲れさん」と労いの言葉が降る。
隣の部屋でずっと二人の会話を聞いていた慶次が姿を見せ、苦笑した。
「があんなに必死に怒鳴るなんて愛されてんな、風魔の奴。羨ましいねェ」
「・・・馬鹿」
自分も怒鳴られたいと言わんばかりの慶次の声にはようやくその顔に微笑みを取り戻した。
* ひとやすみ *
・あぁ!コター!何で追い出しちゃうかな自分ー!とか自己嫌悪。
ヒロインが餌付けしてるトコとか見たかったのにな(え
てか、何で慶ちゃんはいつも盗み聞きしてるんだろう・・・?笑
さて、最後の山場、頑張りますー!! (09/11/15)