ドリーム小説

「おー、そうそう。これ北条の風魔だぜ。北条のじっちゃんの後ろをチョロチョロしてたの覚えてる」




どこかに出掛けていた慶次が帰って来て、寝かされた黒尽くめの忍を見てそう言った。

とキヨ、伊三[これみつ]の三人はやはりと深く溜め息を吐いた。

先の戦で敵国であった北条の忍が一体武田に何の用があるのだろうか。

ましてや、北条は豊臣に落とされ、武田は進軍中である。

・・・・・何にしても時期が悪すぎる。

が何とも言えない気持ちで風魔を見つめていると、その指がピクリと動いた気がした。

次の瞬間、ふわりとの前髪が舞った時には、風魔が小刀を手に部屋にいたと慶次、三好兄弟に殺気を向けていた。

襖に背を向け、飛び退った風魔が状況を確認する前に、目の前にいたはずのキヨが姿を消していた。




「落ち着きなさいな、鴉君」




一瞬の内に死角に回り込んだのだと風魔が気付いた時には、キヨの持つ帯紐が腕に掛けられており

そのまま背負い投げられるようにズダンと畳に身体を叩き付けられた。

風魔が痛む傷に顔を顰めた直後、伊三が覗き込むようにして言った。




「怪我人は怪我人らしく大人しくしなさい。まだ動き回るなら足の骨を折ります」

「こら、伊三!怪我人に怪我増やしてどうするの」

「風魔、ジッとしといた方が身の為だぜ?この兄弟、馬鹿力だから無事じゃすまんぞ」




のんびりとした雰囲気にようやく落ち着いた風魔は目を瞬いた。

それに気が付いたは小さく微笑んで口を開いた。




「ここは甲斐の躑躅ヶ崎館です。私はと申します。御用向きはどういった事ですか」




引っ繰り返った状態では話も出来ず、伊三が上から退くと風魔は佇まいを直してを見たが、

それきり話も動きもしなかった。

困ったなと頬を掻いたを見て、不満そうにキヨが言う。




「なあに?ちゃんでは身分が足りないっていうの?残念でした!今、ここで一番偉いのはちゃんなのよ。

 大体感謝くらいしなさいよね。戦中にあんたをここに入れてあげられたのもぜーんぶ姫軍師様のおかげなんだから」



まるで自分の事のように威張るキヨには苦笑する。

風魔はジーッとを見つめてから、意を決したように一枚の文をに差し出した。

血が付き皺だらけの文を手にしたは目を通して、眉根を寄せた。

これは・・・。

熱い視線を感じ、文から顔を上げると風魔が縋るように頭を下げていた。




「風魔小太郎殿、北条氏政殿からの文、確かに読ませていただきました」




しかし、何かの中で引っ掛かっている事がある。

一体、内容を読んでも小太郎の熱心さの意味が今一理解出来なかったのだ。

その時、ふとの耳に呟くような小さな声が聞こえた気がした。

どうか、我が北条をお助け下さい、と。




「本当に北条殿がそのように伝えろと仰ったのですか?」

「そうですか。貴方にはそのように」

「ちょ、ちょっと待て!、何一人で話してんだ?!」

「まさかちゃん、風魔と話してるの?!」




慶次とキヨの声で話の腰を折られ、不機嫌そうな顔を向けたは全員の可笑しな顔に逆に驚いた。

何をそんなに不思議がることがあるのだろうか。

小太郎までも同じような顔をしていて首を傾げるの耳にまた囁くような声が聞こえた。

私の言葉が分かるのですか、と。




「はい。分かりますが」

「・・・様、本当に風魔と話をされているのですか」

「さっきから一体何なの?小太郎殿も何かあるなら仰って下さい」

「い、や、だからね?あの、風魔は」




キヨの言葉を補うように小さな囁きがさわさわと明に届く。


私は言葉を口にはしません。

人の言葉を紡げないのです。

私の心が分かる人に出会ったのは殿と、あなただけ。


その時、はようやくその小さな囁きが声でないことに気が付いた。

心の水面を打つそのさわさわがいろんな感情を見せるので、小太郎の声だと思ったのだ。

小太郎の伝えたい思いを汲み取る事は出来ても、実際にそう言っているのかは分からない。

だが、鼓膜ではなく胸を揺らすその波紋が何となく理解出来るのは、おそらくこれも異世界人であるからなのだろう。

深く溜め息を吐いたは困ったように笑った。




「皆には聞こえないんだ。・・・そっか。それは勿体無いね。こんなに澄んだ音色をしてるのに」




の言葉に小太郎は一瞬で顔を髪と同じ色に染め上げた。

人の言葉でここまで揺さ振られたのは小太郎にとって初めてのことだった。







***








武田軍は川中島、上杉軍は妻女山に布陣していた。

両軍共に睨み合いが続く中、勘助と信玄は動かない戦局をどうした物かと策を練りに練っていた。

妻女山はすでに武田の支配地であり、そこにあえて陣を敷いた上杉に動揺を強いられた。




「お館様、啄木鳥は餌を捕る時、木を突いて反対に逃げた虫を捕らえるそうです。ここは上杉を誘い出し

 下山した所を叩くのが上策と思いますが」




勘助のその言葉に反応したのは佐助であった。

幸村の後ろに控えながら、ドキリと跳ねた心臓に言い知れぬ不安を覚える。

啄木鳥・・・。

奇襲は戦略として可笑しな事ではないが、どうしてもその鳥の名を聞くとの泣きそうな顔が頭に過る。

佐助はその思いを振り切るかのように着々と進められていく啄木鳥戦法の準備に精を出した。




「竹に雀の紋!大量の群青旗!伊達軍です!!」




突然飛び込んで来た兵に勘助は深く溜め息を吐いて、表情を少しも動かさなかった信玄に視線を向けた。

ひたすらに動揺する兵を鎮めるのに重臣達が大声を上げる中、勘助は信玄に声を掛けた。




を連れて来なかったのは、これを見越してですか」

「・・・・それもある」




煮え切らない信玄の答えに勘助は首を傾げた。

武田と上杉の川中島の合戦に伊達が乱入し、事態はさらに波乱を巻き起こしていくのであった。


* ひとやすみ *
・あちこちでいろんな事が起こりすぎててパニックです!自分、不器用ですから!(ドーン
 小太郎の声が聞こえちゃう主人公。異世界人オプション第二弾です。
 傍から見れば一人で喋ってるので痛い人です。笑
 あぁ、ようやくここまで来たよ、政宗さま!!                         (09/11/05)