ドリーム小説

幸村の心無い謝罪はをもっと傷付けただけだった。

私、何か嫌われるようなことしたのかな。

もう自分の与り知らぬ所で何かを思われ、何かを進められるのは嫌だった。

は避けられる理由をどうしても知りたくて、手を伸ばして幸村の右手を掴んだ。

その途端に幸村は飛び上がるような悲鳴を上げ逃げようとしたが、は頑として手を離さなかった。




「私、何かしましたか・・・?気を悪くしたのなら謝ります。でも、もう訳も分からず避けられるのはイヤです」




手を引っ張ってでも逃げようとしていた幸村はピタリと動きを止めた。

右手、いや、殿の手が震えてる。

ゆっくりと後ろを振り返ると幸村の右手を震える両手で掴み俯いているがいた。

その時になって初めて幸村は冷静にを見ることが出来た。




「(殿はこんなに小さかっただろうか。)」




俯く顔の位置も幸村の目線の下にあり、肩も小さい。

掴んでいる手だって幸村の右手を覆うには両手でも足りない気がする。

殿は本当に女子だったのだな・・・。

そしてその小さくか弱い女を震わせているのが自分なのだと幸村は眉根を寄せる。

今になってようやく信玄の言った言葉の意味を理解した。

痛む胸に幸村は女は泣かせるものじゃないと自分の行動を悔いた。

そして女であろうとも、はずっとだった。

そんな事に今更気付くなんて・・・。

幸村は情けない自分に溜め息を吐くように、吐息交じりに呟いた。




殿、某、殿が女子だと知って、どう接してよいのか分からなかったのです」

「私は、何も変わっていませんよ」

「はい・・・。殿は女子だが、殿は殿だと今気付きました」

「・・・遅すぎです」




ようやく顔を上げたは不満そうに幸村を見上げた。

幸村は困ったようにその顔を眺めて、何となくの笑顔が見たいと思った。

ざわざわと煩い心を落ち着けるには見慣れた笑顔が一番ではないかと感じたのだ。

幸村は無意識に握られたままの右手を強く引いて、腕の中にを引き寄せた。

油断していたは促されるまま、幸村の胸元に引っ張られて驚いた。

掴んでいた両手は気付けば幸村の右手に逆に掴まれており、気が付けば抱き締められていた。

パニック状態のの耳元で幸村が囁いた。




「恥ずかしすぎて面と向って謝れないので、これでお許しくだされ」




照れと恥ずかしさを含んだような呟きにキョトンとしたは一拍置いた後、クスクスと笑い出した。

次第に大きくなる笑い声に幸村が不満げにを引き離すと、真っ赤になった顔をに見られ益々笑い声が大きくなった。

目尻に浮かんだ涙を拭いながら、は幸村の右手を引いて先を歩き出した。

引かれるままに後ろを歩く幸村には振り返って微笑んだ。




「仲直りしたとお館様に報告しに行きましょう」

「・・・っ!!」




陽の光が優しく微笑んだような、温かく蕩けそうなの笑顔に幸村は思わず息を呑んだ。

ドキンと跳ねた心臓を空いている左手で確かめるように胸に手を当てて首を傾げた。

何だ、今のは・・・?

突然起きた不整脈に怪訝そうにしていた幸村だったが、気のせいかとすぐに意識から追いやった。

それからふとの言葉を思い出し、慌てて隣に並んだ幸村には苦笑した。




「どうして知ってるのかって顔してますよ。幸村様が謝りに来たのはお館様に言われてでしょう?

 幸村様が私に近付こうなんて考えるはずないですよ。あんなに避けられてたのに」

「そんなことは、」

「ご ざ り ま す。・・・佐助や他にも隊の皆さんも心配して下さっていたようなので、あとで参りましょうか」




クスクスと含みある声で笑うに幸村は不思議そうに首を傾げた。











「あっちゃー・・・、あれはに俺達が見てたのバレてるぜー?」

「い、今のは何だったのだ?幸村殿が殿を・・・!」

「どう見ても夫婦のそれだったではないか!」




と幸村の一連を陰で見守っていた人は多かった。

何せ幸村の声は屋敷を貫くほどにデカイのだ。

その声に驚いて陰から覗いていた家臣達は幸村の信じられない行動に大騒ぎしていた。

佐助は奥手な主の突飛な行動に溜め息を吐いた。




「・・・無意識って怖いねぇ」




あとで自分のしでかしたことを思い出し取り乱すだろう幸村になんて声を掛けるか佐助は考えることにした。

そしてこの日から武田軍内で幸村とを見守る会という名のデバガメ組織がこっそり出来ることになる。


* ひとやすみ *
・どうやらウチの幸村さんは意外と冷静。さすがやる時はやる男。笑
 それに比べてヒロインは鈍感というか、こういう状況に慣れてないというか。佐助達の気配は分かるのにね笑
 この後、詳細を佐助から聞いたお館様に弄られて、幸村はしでかした事を思い出して3日は悩むといい。笑 (09/08/30)