ドリーム小説

「して幸村よ。を見ては奇声を上げて逃げ回ってると聞く」

「・・・面目次第もござりませぬ」

「旦那は奥手だからねぇ。昨日まで殴り合ったり、寝屋に押し入ったりしてた相手が女子だったって知ったらねぇ」

幸村・・・お主、そんなことまで




信玄の地を這うような声に幸村はブンブンと首を振って否定をする。

一人楽しそうな佐助に幸村は恨みのこもった視線を向ける。

そんな子供のような主従を見て信玄は深く溜め息を吐いて肘を着く。




「お前達がそんなであるからがわしに泣きついて来るのだ。幸村が顔を見るだけで逃げるから悲しいと泣いておったわ」

殿が・・・」

「男児たる者、女子を泣かせるなど言語道断じゃ。今すぐ謝って参れ」

「この幸村、慢心しておりました!殿を傷付けるなどあってはならぬ所業。誠心誠意頭を下げて参ります!!」

「旦那ぁー・・。そうだけど、そうじゃないのよ」

「何がだ、佐助?」




佐助の言葉にムッと声を上げた幸村に信玄は目を細めた。

ただ勢いで謝ればいいというものではないのだ。

信玄は諭すような声音で幸村に告げた。




「幸村よ。今日も昨日もじゃ。それは変わらぬぞ」




キョトンとした幸村は首を傾げながら頷いた。

全く分かっていない様子の幸村に信玄は諦めの息を吐いた。




「もうよい。これも修行の一つと心得よ!」

「必ずや果たして見せまする!」




信玄の言葉に心打たれたように雄叫びを上げた幸村は力強く拳を握った。

信玄の大きな頷きを見た途端、部屋から物凄い勢いで出て行った幸村を見て、残された佐助は溜め息を吐いた。

あれはどう見ても謝る人間の雰囲気ではない。

旦那がとんでもないことをしでかす前に追い掛けますか。

だが、その前にと佐助はチラリと横目で信玄を窺った。




「どうしてあんな嘘言ったんで?どー考えてもが弱音を簡単に吐くとは思えませんて」

「お主にはバレておったか。なら自力で何とかするとは思うておったが、じれったくての」




口の端を上げてニコリと笑う武田の総大将に佐助は頭を抱えたくなった。

そんな風に可愛く言ったって見た目が可愛くない、と佐助はゴチた。

佐助の深い溜め息を肯定と取った信玄は笑いを苦笑に変えて目を細めた。




「地位が高い父と言うものに、娘は気軽に弱音を吐けんもの。分かってはおるが寂しいものよ」

「・・・父、ですか」

「む。が嫁に欲しけりゃこのわしを倒してからにせいよ、佐助」

「・・・天下を治める大将を倒せる奴なんかいませんて」

「かはは!言いよるわ!」




豪胆な笑い声をあっさり仕舞った信玄はチラリと開け放たれた戸を見て口を引き結んだ。

娘よりも息子の方が心配なのだと息を吐けば、佐助もそれに同意して飛び出していった熱血息子を追って姿を消した。








***







一方、幸村は走っていた。

それはもう怒涛の勢いで走っていた。

男らしく、潔く謝るのだ、とそれだけを唱えて、廊下の角を曲がるとの姿が見えた。

幸村は無心で走り、その背に声を掛けた。




殿!」

「・・・え、幸村様」




振り返ったの顔を見た途端、急ブレーキを踏んだように幸村の足は止まった。

幸村を見てニコリと微笑んだの表情に血が沸騰する。

いつもなら平気だった笑顔が今は物凄く強い武器のようにすら思える。

が女だと自覚した途端にの全てが女らしくキレイなもののように見えた。

幸村が固まっている間にゆっくりと近付いてきたはいつもより楽しそうに笑っていた。

を避けていた幸村が自分から声を掛けてきたことが嬉しかったのだ。

忙しい信玄に相談することはないにしろ、何とかしたいと思っていたのはも同じだったのだからなおさらである。




「そ、某は、殿に謝らなければならぬ」

「謝る・・・?」

殿の気持ちも考えず、避けて傷付けたと」




キョロキョロと落ち着きのない目があちこち彷徨って、に焦点を合わせることがない。

それに気付いたは眉根を寄せた。

声を掛けてくれても、近くにいても、心で突き放されているようにしか感じなかった。


* ひとやすみ *
・お館様・・・!こんな父上がいたら私飛び付いてます。
 あのモサモサに埋もれたい・・・!(違
 さてさて、どうなることやら。                    (09/08/30)