ドリーム小説

接近戦を得意とするは閏から既に降りて、懐刀と包丁を使い分けて前線で戦っていた。

前以って刃に鯨をも動かなくさせる即効性の痺れ薬を仕込んでいたため、一太刀で次々と敵が倒れていく。

の前で一際派手に暴れている忍を見て、は隊に声を掛ける。




「佐助に続け!!」




うねりを上げるように声が返ってきて、も数を減らすべくひたすらに懐刀を振るった。

だんだん西側の敵が増えているのは間違いない。

こちらが押しているのを見て慌てて援軍を差し向けたのだろう。

挙句に武田の猿飛佐助まで西軍にいるのだ。

相手の動揺がには感じられ、一気に佐助の隣に並んだ。




「今しかない!佐助!このまま門を突破する!!」

「御意」




コクリと頷いた佐助とは門番兵へと視線を向けた。

ここを抜ければ武田の優勢だ!!







***






幸村対小太郎の戦いは熾烈を極めていた。

どちらも退かない戦いの中、幸村を援護するあの強い忍のおかげで辛うじて幸村に分があった。

再び互いの覇気が混じり合った時、大きな歓声が西の方角で上がった。

それを聞いて忍が初めて口を開いた。




「どうやら我が武田本隊が西門を破ったようですね。あちらには猿飛隊長がいますし」

「!!」

「佐助が?お主何を・・・」

「我らが囮となり、風魔殿を引き付けていたおかげでありましょう」




それを聞くなり、小太郎はすぐに踵を返した。

消えてしまった小太郎に視線を向けてから、幸村は不機嫌そうに目を細めて忍に言い放った。




「お主は一体そんな格好で何を言っておるのだ、佐助!!」

「あ、やっぱバレてました?」

「当たり前だ!あれほど戦える忍など、お主の他におらぬわ」




忍はドロンと煙に撒かれた直後、佐助へと姿を変えていた。

一体どういう事だと詰め寄る幸村に佐助は苦笑しながら説明する。




「いやー、北条には風魔がいるし、俺の顔割れてんだよねー。

 だからこっちに俺様いちゃうと西軍が囮部隊だって完璧にバレちゃうのよ。本隊との戦力差ありありだしね。

 んで、は敵戦力を裂くために偽の俺を西軍に置いて見た目だけ囮部隊の戦力を上げたわけ。

 そしたらそれが的中して敵さん西軍が本隊だと思ってどんどん向こうに行くし、風魔も追っ払えた」




佐助の言葉を聞きながら幸村は西の方角を見て、槍を構えた。

主の様子に佐助も口の端を上げる。




「ならば殿のためにも今こそ正面を突破せねばなるまい!」

「はいはいっと。存分に暴れてちょーだいな」




の善戦に士気の上がった幸村を先頭に、本隊は正面へと怒涛の総攻撃をしかけた。

そしてそれからまもなく小田原城の門全ての突破に成功するが、戦は思わぬ展開で終結を迎えた。



は閏に跨り、急いで山を下っていた。

すでに本隊からの全軍撤収の声が掛かっており、戦は幕を閉じた。

結果は引き分け。

武田軍が圧倒的有利に立っていながら、北条に天候が味方した。

身体を打ち抜くような大雨に地盤が緩みだし、土砂崩れの危険性が出て来たのだ。

信玄は勝利よりも軍の命を取り、撤退を余儀なくされたのだった。






***






本陣に戻ったは着替えもせずに呆然と外を眺めていた。

緊張が解け、人を斬ってしまったとか、竹中半兵衛のことだとか、

もっと早く西を突破してれば勝っていただとか、そんな事をつらつらと考えていた。




「何か私って小さいなぁ」




この戦ではそれを嫌と言うほど感じていた。

それと比べて、何かを成そうとしている人の思いは大きくて、その流れに翻弄されるばかりだった。

ただ漠然と、好きだから守る、死にたくないから戦う、では

自分の存在は呆気なく掻き消されてしまうのだとは唇を噛み締めた。

帰りたいとそれだけを思っていた頃とは違うその気持ちに、はきつく手を握った。




「強く、なりたい」




誰にも揺るがされないよう、もっと心を強く。

もうは深くこの世界と関わりを持ってしまったのだ。

あの頃の成長していないのままではいられない。

自分の持てる力で自分を強く育てよう。

は握った拳に願を掛けるように目を瞑った。


その時、不意に近付く気配に気が付いて振り返ると勘助が立っていた。

の疑問が声に出るより先に、勘助はの首根っこを掴んで軍議中の部屋に放り込んだ。

今度は何をさせられるんだと恐々周りを窺えば、強面の武将達の笑顔、笑顔、笑顔。

逆に怖いよ・・・っ!




、此度の戦は初陣であったにも関わらず、よい働きをしてくれた」

「いえ、私は・・・」

「豊臣の企みを暴き、見破られた策を塗り返したのは間違いなくの力よ。

 全て勘助の手柄という事になっておるようじゃが、のおかげだと勘助も認めておる」




は心底驚いたような顔をして、勘助を見た。

不機嫌そうな顔をしている勘助ではあったが、信玄の言葉に反論はしなかった。

決着は着かなかったが、武田の威信を見せれたので豊臣も易々と手を出して来ないだろうとこの場は丸く収まったらしい。




「そこでの。話し合った結果、をこのまま幸村の隊に入れておくのは勿体無いと言う事になっての。

 をわしの隊に入れようかと思ったのじゃが、どうであろうか?」

「・・・・はい?」




誰かこの人の暴走を止めてください!!

幸村に縋るような目を向けると、泣きそうな顔をして殿のためでござると目を逸らされた。

幸村様の役立たずー!!

あっさり決まってしまいそうな雰囲気にがオロオロしていると、頭を勘助に鷲掴みされて下げられた。




「畏れながら、お館様。こいつは俺が貰います」

「・・・・は?!」

「ほう。勘助、お主がを引き受けてどうするつもりじゃ?」

「俺の全てを叩き込んで、最高の軍師にしてみせましょう」

「・・山本さま?」




はグイグイ押される頭を無理やり上げて勘助を見た。

眼帯をしていない目がを捉えて、本気なのだと伝えてきた。




「お前が俺に付いて来られればだがな、




挑発するような目付きには先程の決心を思い出した。

自分は自分の持てる力で強くなると決めたではないか。




「勘助様くらい、すぐに抜いてみせますよ」

「ふん。生言うな小童が。そういう事はもっと男らしい顔付きになってから言え」




正直、もうこれは聞き飽きた。

何でかが女だと言っても誰も気が付いてくれない。

女が男らしい顔になっちゃお仕舞いでしょ?




「皆さん勘違いしてますけど、私は女ですから!」

「ついに気まで狂ったか、男女」

「あー、もう!!どうしろって言うんですか?!脱げばいいんですか?!」




こうまで否定されればも必死になって、ついに可笑しな方向にまで来てしまった。

楽しそうにしているのは信玄だけで、他の武将は殿が乱心したと騒いでいる。




。その陣羽織を脱いでやればよいではないか」

「あ」




が汚れているが真っ白だった陣羽織を脱ぐと、その場にいた全員が目を見開いて固まった。

陣羽織と中の武具を外せば、体の線が丸見えの衣装になるのだ。

異常な視線には我に戻って恥ずかしそうに陣羽織を着直し、信玄が豪快に笑った。




「はっはっは!のような美女に気付かぬとは我が武田の勇将達もまだまだよの!」




その途端に幸村は卒倒し、武田軍に戦の勝敗よりも大きな動揺がもたらされた。

こうして後々、武田に女軍師ありと乱世を騒がせることになる。


* ひとやすみ *
・てなわけで、ようやく性別確認。笑
 お館様は知っていたようですが、面白がって黙っていたようです。
 分かっててヒロインの衣装を作らせたに違いない。笑
 勘助に弟子入りすることを決意して、何心地編はこれにて終了です!
 次編はまた混雑する予感がしますが、よろしければお付き合い下さい!!  (09/08/04)