ドリーム小説

の告げた言葉は囮部隊の混乱を招いた。

勘助の策が破られ、本隊の危機を伝えられたが、不安が不安を呼び収拾が着かなくなってきていた。

このままの調子であれば、この部隊は囮どころか統率不十分ですぐに解体されてしまう。

そんな時、の傍にいた忍の声が凛と響いた。




「私は様を信じております」




佐助の配下の忍数人がこの囮部隊にはいたが、その忍達は真っ直ぐにを見つめていた。

その忍の声には不意に信玄を思い出した。

その無条件の信頼をは胸に抱き締めて、微笑んで礼を言った。




「俺達も命を預けてんだ!様を信じてるに決まってますぜ!!!」

「「 おう!! 」」




目に見えて不安が消え去り、皆の心がに向っていくのが分かった。

はただひたすらにその思いに感謝した。

その時、偵察に向っていた忍がに報告を入れた。




様、何やら前と森の様子が変わっていて、近隣の森で伐採の跡と足跡が多く見られます」

「伐採?」

「はい。数多く木が倒されどこかに運ばれたようで」




特に必要のない報告にも思えたが、何かがの心に引っかかった。

考えろと情報が脳をグルグルと回り、地図を頭に思い浮かべる。

近くに流れる川、小田原城の向かいの石垣山、大掛かりな伐採、何度も人が行き来したような足跡。

木を使って何を・・・?




「どうせ木こりか何かが家でも建てるために山に入ったんだろう」

「木なんてどうでもいいから、他に何かなかったのか?」

「その他は特に」




報告を聞き出しているのを黙って聞いていたの頭に何かが走った。

家を建てる・・・?

ここには小田原城があるのにこんな所に・・・。

そこまで考えては息を呑んで目を見開いた。

そうだ。ここは小田原だ。何で忘れてたんだ!!!




「小田原と反対の石垣山は見た?!」

「山?いえ、反対は此度の戦とは関わりがないので」

「城だ。山に城が無いか今すぐ見て来て!確認するだけでいい」




の勢いに押された忍は返事もそこそこに姿を消した。

それからすぐに慌てて引き返してきた忍は城があったと驚きの表情でを見た。

一同の驚きがに向けられる中、はやっぱりと頭を抱えて息を吐いた。

もう一刻の猶予も無い。




「小田原はすでに一度落ちてる。おそらく豊臣の手によって」




豊臣秀吉の一夜城。

難攻不落の小田原城を落としたというとんでもない話だ。

なのに北条氏政がまだ生きている。

つまり今の北条は豊臣配下に下っているという事だろう。

こんなにこっそり事を進め、勘助の策の裏を読んだのも豊臣が絡んでいるに違いない。

豊臣の軍師、竹中半兵衛の名を思い出しては唇を噛んだ。

全てあの男が仕組んでいた罠だったのだ!

悔しい。悔しい。悔しい。悔しい!!!

だけど、いつまでも竹中半兵衛の手の上で転がされてやるものか。




「とにかく敵が正面に人員を集めて迎え撃つ気なら、私達は囮ではなく本隊にならなければならない。

 ここを突破し、私達が本隊であると敵が思えば必ず正面の部隊をこちらに向わせる。

 私達の役目は正面の人員を裂く事だ!!!そして何が何でも武田本隊の壊滅を防げ!!!」




の熱の籠った言葉に部隊の声が一つになった。

そんなの心は嵐の海のように荒れ狂っていた。

性格はむちゃくちゃな勘助ではあるけれど、その軍略手腕は認めていたのだ。

勘助の裏を衝いた半兵衛が憎いし、妬ましいし、気付かなかった自分に腹が立つ。

何が何でも西部隊を本隊に仕立て上げる事で勘助の方が上だと、半兵衛の裏の裏を掻きたかった。

の号令で進み出した囮部隊は本隊に見せ掛けるべく、怒涛の勢いで突撃をかけた。

こうして小田原の西で戦が開始されると共に、と半兵衛の内なる戦いが密かに幕を開けたのだった。







***






小田原城の西で鬨の声が上がったと同時刻、武田本隊に囮部隊の忍が報告のため辿り着いていた。

が他の兵を戸惑わす必要はないと言った通り、忍は内密にその報告を入れた。




「そうか。勘助の策がの・・・。だがわしらがする事には変わりない。正面突破のみ!隊を裂けば敵の思う壺じゃ」

様は、我らが本隊になり、必ず活路を開く、との事です。それから頭をお借りしたいと」

「えぇ、俺?」




報告と言えどもあまり詳しくない忍の話に佐助は声を上げて、信玄と勘助を窺った。

何か考えるようにして小さく頷いた勘助に信玄は佐助を見た。




「全てのよいようにしてやれ」




信玄のお墨付きを頂いた所で、忍二人は「是」と答えて姿を消した。










一方、前線で戦う幸村は待ち構えていたように出て来た北条勢に苦戦していた。

槍を振るえども振るえども敵は一向に減らない。

どうやら予想以上に正面の敵が多かったらしい。




「くそっ!キリがない!大体佐助はどこへ行ったのだ!!」




肝心な時にいない配下の忍に怒りをぶつけながら、炎槍を振り回す。

目の端にやたらと強い真田の忍の姿が映り、幸村は首を傾げた。

あんなに強い忍が佐助以外にいただろうか?

その思考は敵の不意打ちに遮られ、幸村は勘のみでそれをかわして相手を吹っ飛ばした。

そして幸村は相手の纏う雰囲気にピリピリとした何かを感じた。

この威圧、黒尽くめの忍装束、間違いない。




「北条の忍、風魔殿とお見受けする!いざ尋常に勝負っ!!!」




幸村と小太郎の勝負が正面で始まり、戦は益々激しく火花を散らしていった。

戦局は拮抗を崩さず終盤へと向かい、思わぬ形で幕を閉じる事になる。


* ひとやすみ *
・やっぱり動きある話は苦手で、話がしっちゃかめっちゃか。
 分かりにくくてすいません・・・・・・っ!!
 ようやく使えた秀吉の一夜城!まさか武田戦で使うとは思いませんでしたが。笑
 何心地編も残す所、あと一話です!お付き合い下さると嬉しいです!            (09/08/02)