ドリーム小説

戦いの火蓋はあっさりと切って落とされた。

予想通り北条は籠城戦へと持ち込んできた。

何せ多くの者達が落とせなかった難攻不落の小田原城であるのだ。

武田軍は北条を攻めるべく、兵を小田原周辺まで進めた。




「いいか。ここからは部隊を分ける。見掛け倒しで役に立たない大将だが、全力で守れ!!!

 派手に暴れて主力部隊に見せ掛けるのがお前らの仕事だ!!!」

「「「「 うおぉぉぉぉ!!!! 」」」」




囮部隊の士気を高めるためとは言え、勘助が投げ掛けた言葉にの気分は急降下。

相変わらずよくもまあこんなにたくさん悪口が言えるもんだとはジト目で勘助を睨む。

この度の戦ではとにかく目立たなければならなかった。

そんな理由では皆と同じような具足を身に着けず、全身を白で覆った。

戦に不釣合いな色がいいだろうと信玄にこっそり伝えれば、面白いと豪快に笑って用に武具を造ってくれたのだ。

恥ずかしいくらいに目立つ白い武具を身に纏い、気が高ぶっている閏の背を叩く。




「おい、男女!死ぬなら役目を果たして派手に死ね」

「・・・嘘でも頑張って来いとか言えないんですか、山本様」

「はぁ?初陣のヒヨッコがどう頑張るって言うんだ」

「・・・山本様が命を落としても絶対弔ってやりません」

「そんな物いらん。逆に浮かばれんだろうが」

「・・・・・・・もう行きます」




ああ言えばこう言う勘助には不機嫌そうに閏に跨った。

追い払うように手の甲を振る勘助を振り返っては思い出したように付け足した。




「何だか嫌な予感がしてるんで一応言っときますけど、」

「まだ何かあるのか?」

「お気を付けて」

「・・・・・・、あぁ」




の言葉に苦虫を噛んで丸呑みしたような顔をした勘助は、顔をしこたま歪めて小さくそう返した。

満足そうな顔をしたは部隊に声を掛けて鐙に力を込めた。

駆け出したに赤備えが続いて、赤い道が出来る。

残された武田の部隊は、彼らが北条主力隊と交戦したという情報の後に正面突破を掛けるのだ。




「勘助殿、何もあのような事をあの部隊に言わずともよかったのではござらんか?殿は初陣なのですぞ?」




囮部隊が見えなくなった頃、勘助に露骨に眉を寄せた幸村が声を掛けた。

幸村が言う「あのような事」がさっぱり見当が付かない勘助は素直に首を傾げる。

それを見た幸村はさらに不機嫌そうに目を細めて続けた。




「見掛け倒しで役に立たない大将って言葉でござる」

「あぁ。そのような事ですか」

「そのような事とは少々言葉が過ぎませぬか!」




興味を失くしたように手を動かし始めた勘助は幸村の怒鳴り声に眉を顰め、隣でプンスカ怒っている男を眺める。

この様子では戦が始まるまでずっと付き纏いそうな勢いだ。

大きく溜め息を吐いた勘助は腰に手を当てて、細めた目で幸村を見た。




「あの男女の実力は幸村様には敵わぬものの、そこらの武将よりはまあ上です。

 この戦の要である囮部隊の大将に戦力外の馬鹿者をこの俺が置く訳ないでしょうが」

「それはつまり・・・」

「俺は幸村殿と遊んでいるほど暇じゃないのですよ。あとは佐助にでも聞きなされ」




面倒そうな顔をした勘助はポカンとしている幸村を放ってその場を去った。

考えて考えて首を傾げた幸村の耳に笑い声が聞こえ、隣を見れば苦笑した佐助がいた。




「要するにだねぇ。山本様もを信頼してるって事だよ。かーなり歪んでるけど」

「そうか!!!あの言葉は殿に発破をかけるためであったか!!」

「いやー、あれは本心だと思うけどね」




爛々と目を輝かせている幸村には最後の言葉は全く聞こえていなかった。

おそらくこうなるよう勘助が自分にあとを任せたのだろうと佐助は思わず苦笑する。

囮部隊やだけでなく、真田の旦那にまで発破を掛けるなんてねぇ。

佐助は大胆不敵な隻眼軍師に内心で大きく拍手した。







***







小田原城の西、森の中を隠れるように進む囮部隊は着々と歩みを進めていた。

間もなく突入地点に到着するのだが、は閏に揺られながら一人無性に焦っていた。

一行が進むにつれてを襲う嫌な予感がどんどん強くなる。

何か様子が変なのだ。

勘助が敵に漏らした情報は西から攻めると言うものだ。

ならば敵はそれを見越して西の守りを固めるはず。

なのに・・・・




「静かすぎる・・・・」




大勢が息を殺して達を迎え撃つためにこの先の門の向こうにいるのだとしてもには気配が分かる。

しかし、どう考えても気配が少ないのだ。

勘助の策が読まれているのではないだろうか。

だが、確証がなかった。

このまま進めば戦が始まり、本隊は正面突破してしまう。

時間も無い上に、囮部隊の人員も限られている。

焦るの動揺を読み取ったように閏が急に足を止めてしまった。

どんなに手綱を振るい、鐙を踏み締めても動いてくれない。




様、どういたしました?」

「え、あの・・・、閏が、」




そこまで言い掛けては言葉を切った。

閏のせいにするのはお門違いじゃないだろうか。

たとえ信じられずとも、心に嘘を吐いて流されるのは嫌だ。

はきつく目を瞑ってから、任された部隊の皆を見てはっきりと言った。




「私を信じてほしい」


* ひとやすみ *
・部隊が別れていろいろややこしくなっていましたが、もう少しだけお付き合いをば。
 誰も彼もに転がされる幸村。笑
 や、やる時はやる男なんです、アレでも・・・っ!
 佐助は勘助にどうやら信頼を置いているようです。さすがオカン、大人だ。笑        (09/08/02)