ドリーム小説
「おぉ、今日も早いですな殿。また住まい探しですかな?」
「殿はもう我が武田の一員。お館様の許しもあるというのに出て行かれるのですか?」
「残念ですぞ」
今日も朝からこの調子である。
が武田の屋敷に来てまだ数日しか経っていないと言うのに、この馴染み様は一体なんだろうか。
なぜか皆、が信玄公に仕える仲間と信じて疑わないのだ。
当の本人は断固として下町で細々と暮らすと言って聞かないが、皆面白がって好き勝手にさせている。
現在、躑躅ヶ崎の屋敷の一角に居候しながら空き家を探しているのだが、一向に見付からない。
ここの所はただ飯食いが嫌で、農家で働いて収穫した物を分けてもらって屋敷に持って帰る日々が続いている。
は暢気な家臣達に苦笑を返した。
「殿ー!今日は某もご一緒致しますぞ」
「真田様」
「出て行かれるのは寂しゅうございますが、殿の役に立ちとうございます」
幸村の真摯な言葉には笑顔で頷いて、一緒に町に出る事にした。
楽しげに屋敷を出て行く二人を家臣達はにこやかに見送っていた。
「ちょっとー。何なの、孫の楽しそうな姿を見るような目しちゃってさー」
「おぉ、佐助か。幸村殿に同じ年頃の友が出来て喜んで何が悪いのじゃ」
「殿は一度城に裏切られ頑なになるのも無理はないが、立派に仕え役目を果たしてこそ男と言うもの!」
「大体、農家で菜を仕入れてくる時点で仕えてるも同然ではないか」
いろいろ言われてるではあるが、始終どこか優しげな顔をしている家臣達に佐助は頬を掻いた。
これはもう完璧には受け入れられている。
絶対逃げれそうにもないに多少同情しながらも佐助は不思議そうに首を傾げた。
「下町に空き家なんて山ほどあるのに、どうしていつも空振りなのかねぇ」
「あぁ。それは」
「はは。今日は幸村殿も一緒なのであろう?絶対無理じゃ」
「は?旦那が何かしてるの?旦那ってばそんな器用な事出来るの?!」
「「 見に行けば分かる 」」
そんな面白そうな事、見に行かない訳がないではないか。
佐助がクルリと背を向け姿を消した瞬間、背後から昼には戻れと声が掛かって苦笑する。
佐助も二人と同じように完全に子ども扱いだ。
***
「すいません。空き家があればお借りしたいんですが」
「おや、君じゃないか!空き家ならっ・・・、あー・・・あれはトメさんとこに貸したんだったわ」
「そうですか・・・」
「ごめんねぇ、君」
申し訳なさそうにする女将さんにはフルフルと首を振って立ち去る。
今日はこれで七連敗だ。
しょんぼりしているを遠くから見ていた佐助は、幸村がどうも少し嬉しそうな顔をしている気がしてならなかった。
佐助は二人の姿が見えなくなると女将の後ろに降り立った。
「ビックリした!猿飛様、いるなら早く言って頂戴な!」
「ごめんごめん。あのさー、どう見てもお宅の空き家空っぽだよね?」
「あー、あれは真田様が『空き家が見付かれば殿が出て行かれてしまうのだー』って
町のあちこちの甘味屋で泣きそうになりながら溢したらしくてね。町中みんなが知ってるよ」
「あちゃー・・・」
「君には悪いが、みんな真田様が好きだからねぇ。誰も貸しやしないだろうね」
佐助はからくりが分かって、頭を抱えた。
戦場では鬼神とも恐れられるあの真田幸村がコレでいいのだろうか・・・。
ましてや、の背後で空き家を貸そうとするとあんな風に絶望したような顔をすれば誰も貸そうだ何て思わないだろう。
佐助は昼時の賑わしさが訪れる前にと二人を追い掛ける事にした。
「旦那、っ」
「おぉ、佐助!お主も来ておったか」
「空き家見付かった?」
「あれ全部空き家だと思うのに全部貸し出し中だなんて・・・」
苦虫を噛み潰したような顔をしているに佐助は乾いた笑いを漏らす。
原因になった本人も不思議そうに首を傾げていて思わず溜め息が出る。
「もう全部回ったんでしょ?ならもう諦めなよ。今みたいに農家で働くか、厩番でもして
屋敷に置いてもらえばいいじゃない。お館様もの好きなようにせいって言ってたでしょー?」
「いいのかなぁ・・・」
「良いに決まっておりますぞ!お館様もその方が喜ばれるはず」
幸村の強い後押しには困ったように笑って、渋々ではあったがお世話になりますと頭を下げた。
ようやくなるようになった事に安堵したのは佐助か町の衆か。
これでは名実ともに武田に属する身となったのだった。
* ひとやすみ *
・ゆっきー・・・。笑
怒りたいのにわざとじゃないのでどうしようもないと言う絶対防壁の罠。笑
まぁ、町人に好かれてないと出来ない事です。伊達に甘味屋巡ってないみたいですよ!
武田のおかん(佐助)と同じように苦笑していただければ幸い。 (09/07/03)