ドリーム小説

はいつものように城に出仕し、その違和感に薄く笑った。

そして強面なのに泣きそうな顔をした小十郎に呼ばれてさらにおかしく思えた。

呼ばれた先は重臣達が控えており、どうやらその時が来たのだと覚った。

は頭を下げて政宗が上座に座るのを静かに待った。

判決を待つ容疑者というのはこういう気分なのだろうか、などと考えている自分が少しおかしかった。




。今、お前に謀反の疑いが掛けられている。何か言う事はないか」

「謀反など企んでおりません」

「嘘を申すな!甲斐の忍と繋がっておる事を突き止めておるのだぞ!」

「殿に取り入って奥州を狙う裏切り者め!」

「所詮、どこぞの小童が伊達に仕えるなど出来ぬ事なのじゃ!」



きっぱり言い放ったに控えていた家臣達が非難の声を上げた。

は他人事のように浴びせられる声を聞いてようやく詳しい事態を知ることが出来た。

緘口令の布かれたあの謀反の詳細を知り、佐助と知り合いな事で事件の裏にいたのは明白の事実って訳だ。

見知らぬ所で犯人に仕立て上げられていた事もそうだが、彼らの想像力の豊かさに舌を巻く。




「確かに怪我を負った甲斐の忍を拾い助けました。しかしそれだけです」

「何をふざけた事を!」

「言い訳にしてももっとマシな事を言え!」




何を言っても無駄だと感じたは溜め息を吐いて視線を落とした。

分かっていた事だったからか、やけに落ち着いていた。

しかし次の瞬間、そんな心の静寂に石が放り込まれた。




、記憶が戻り、武田の者だった事を思い出したのではないのか?」




小十郎の一言では顔を上げて目を見張った。

今、何と言った・・・?




「私はの父であり、師であると思っておった。何故だ?」




次いで悔しそうに顔を歪める綱元には必死に首を振った。

違う。

違うのだ。

私は伊達のために、みんなのために・・・ッ。

そして縋るように成実を見つめたら答えは酷く悲しいものだった。




「俺はずっと梵やと一緒に伊達で過ごして守っていくと思ってたよ」




目の前が真っ暗になった。

血の気の引いた顔で最後の最後には政宗に視線を向けた。




「・・・・ッ!」




困惑と疑心、動揺と悲愴、政宗はその全てが入り混じった複雑そうな表情をしていた。

は悔しさで俯いた。

今まで私は一体何のために・・・ッ。



『私を信じてくれる人達が居る限り』



慶ちゃんに言ったあの言葉が妙に薄っぺらく聴こえる。

握り締めた手はすでに白くなっていて爪がきりきりと食い込んでいた。

―――信じてもらえなかった。

その事だけが頭を廻り、もう本当に奥州に居られない事を実感してしまった。

居場所が、もうここには、ない。

そう思った途端、次に思った事は何が何でも逃げ延びて、生きる事。

これだけは絶対に守らなければいけない慶ちゃんとの約束。

はゆっくりと顔を上げて再び政宗を見た。

その顔にはまだ迷いがあるようであったが、はもうここには居られない。

は自分より泣きそうな顔の三傑を見て薄く笑った。




「ふふ。伊達の三傑とも在ろう方が騙され、出任せに振り回されるとは、

 この世の出来事は意外に簡単で悲しい物なのかもしれませんね」

「認めたな!裏切り者だ!」

「捕らえろ!」




は立ち上がって誰も近付けない雰囲気を纏っていた。

さすがに驚いた三傑が政宗に駆け寄った。

これが大好きなこの人達との最後の邂逅。




「成実さん、私もこれから先ずっと伊達に仕えていけたらと思っていました」

「え?」

「私も本当に父と、師と仰いでいたんです、綱元さん」

・・」

「それに小十郎さん。私は武田に行った事も伊達を裏切った事もありません」

「それは・・」




は最後に政宗の顔を見て苦笑いした。




「だから止めとけって言ったでしょう政宗公。私が仇を成すかもしれないと。

 ですが、私を受け入れてくれた殿には深く感謝しております」

・・それでも、俺は・・ッ」




政宗は三傑を掻き分けるように前に出てきて何かを言おうとした。

はそれを遮るように首を振って満面の笑みで返した。




「さようなら」




が髪からハガネを抜いて命懸けで逃げ出そうとした瞬間、何かが急に現れての身体を羽交い絞めにした。

には首に回された腕しか見えず、一体何が起こっているのか全く見えなかった。




「天に帰るならお助けするよ、天女様」

「佐助?!」




耳元で囁かれた声はあの忍の声で。

危険が及ばないように突き放したはずなのに何故ここにいるのか。

の疑問を分かっているように佐助は耳元で答えた。




「あのね、俺様忍なわけ。ちょっと調べりゃどうなってるのかくらい訳ないのよ」

「だからって・・」

「尋問されて俺に脅されたとか言うかと思いきや、そのまんま答えちゃうし放っておけないでしょ」

「佐助・・・」

「生き延びたいなら大人しくしててね」




驚いていた伊達の家臣達は我に返るとぐるりと二人を取り囲んで刀を向けてきた。

その次の瞬間、助けてくれるはずの佐助はクナイをの首に突き付けていた。

どうやら一芝居打つ様だった。




「竜の旦那、悪いんだけど、捨てたみたいだからこれ貰っていくよ」

「Ah?!捨てた?誰がそんな事・・」

「何であろうと守れなかった、助けてやれなかったんだから捨てたも同然だろ」

「・・・ッ、」

「これがどうあっても裏切らないと言い張ってたんだけど、そっちから捨てたんなら構わないよね」




さすがに甲斐の忍自身がそう言った事での疑いは半分以上晴れたも同然だった。

それに息を呑んだのは三傑だ。

佐助に問うように言葉を向けられては佐助の腕の中で三傑を見て目を閉じた。




「ここから連れ出して、」




その苦しげな声にその場にいた人は皆動く事が出来なかった。

は佐助の腕をきつく握ると甲斐の忍は「是」と答え、次の瞬間には二人は姿を消していた。



* ひとやすみ *
・呆気ない幕引き。
 ただ信じてくれる人のために何か出来るならと、耐え忍んだ結果がこれ。
 疑われ、居場所を失い、心の拠り所まで全て奪われたヒロイン。
 シリアスもあと一話で終了かな。                  (09/06/01)