ドリーム小説

「え?一緒に覚範寺に行くんですか、成実さん」

「うん。ちょっと和尚に話があるからね」




が城に顔を出した時、何だかおかしな雰囲気の政宗と成実に首を傾げた。

ケンカでもしたのか、と思案していると成実からお声が掛かったのだ。

まるでその場を取り繕うようではあったけど。

成実は笑顔の裏に疑う気持ちと信じたい気持ちをひた隠し、事件の解決の為にを見張る事にしたのだった。

そんな迷いある笑顔には気付かずニッコリと笑い返して頷いた。

連れ立って出ていった二人を見送り、政宗は溜め息を吐いた。




「Don't worry.と武田の繋がりなんてあるわけねェ」




静かに呟いた言葉は誰に向って言った言葉なのか、遠く儚く消えていった。







***








町を通り、山道を成実と談笑しながら歩くと寺まではすごく短い道のりだったと感じた。

寺に着いて成実は洛兎の元へ向かい、は自室に戻った。

しかし、汚い。

菊華屋と城を行き来しているため、寝るためだけに帰ってくる自分の部屋は埃っぽくて、いろいろ散らかっていた。

落書きのように見えて大事なメモだと寺の者は知っていたからあえての部屋は掃除せず放置している。

さすがにこりゃまずいか。

はいい加減な自分に苦笑して、身近にあった本の埃を払って片付けを開始した。

書物は一ヶ所に纏め、必要ない紙は全て燃やした。

綺麗に片付いた部屋はまるで最初に寺にやってきた時のようだ。




「ふりだしに戻る」




まるでスゴロクの目のような事を呟いて嘲笑する。

そんな事は有り得ない。

すでに歩き出した駒はふりだしなんかには戻れない所にいる。

しかも、王手に近い。

馬鹿な事を考えてるなぁとは首を振って、すずりの前に座り込む。

ガッシガシと墨を磨り、おもむろに紙に字を書き付けた。

城内の空気が痛い。

特にに対する視線が以前よりも厳しい物になっている事ぐらい自分にも分かる。

一体何があったのかなんて分かりはしないけれど、良くない事なのは身に染みている。

あれ以上酷いのなんて有り得ないと思ってたけど。

嵌められたのにしろ、嵌められるにしろ、何かしらきっと遠くない未来にアクションが起こる。

だからと言って、ハイそうですか、と捨てられる命じゃない。

だって慶ちゃんと約束したのだから。

自分の命は自分で守る。

たとえ城を追い出されても、命さえあれば政宗様達の役に立てる事があるはず。

絶対ある。

まだ大丈夫。

どんなに責められても政宗様達だけはを、私を信じてくれているはずだ。

だから・・・。

は筆の動きを止めて、目を閉じた。

まるで見たくない物から目を逸らすように。




「だから・・・・」




だから、成実さんが悲しそうに私を見るのは何かの間違いで、政宗様が目を逸らすのも私の勘違いなのだ。

大丈夫。私はまだ大丈夫。

は目を開けてニコリと笑い、再び筆を動かした。

書き上げた三枚の紙を乾かして、何事もなかったように文箱に収めた。

机にポツンと文箱を置いて、は立ち上がった。

何もなくなった部屋をくるりと眺めて、いろは包丁をシャラリと鳴らして部屋を出た。

途中、廊下で虎珀に出会って成実が待ちぼうけてる事を知った。

日がとうに昇っていた空は陽の光が眩しい。

並んでいたはずのが少し後ろで立ち止まっていて虎珀は不思議そうに振り返った。




「虎珀さん、部屋が汚い事に今日初めて気付きました」

「?忙しくしていたから気付かなかったのでしょう。あの部屋には手を着けていませんから」

「・・・見ない、ようにしてた、のですか、ね」




口元に笑みを湛えて眩しそうに目を細めるに虎珀はその時初めて違和感を感じた。

楽しそうでありながら、どこか悲しそうな黒い瞳に思わず視線が行く。




・・・?」

「あ、いえ、少し奥州を長く離れる仕事を頂くかもしれないんです」

「そんな仕事を?」

「はい。必要な物は全て纏めておきましたので、私がいなくなれば部屋の掃除を頼んでもいいですか?」

「えぇ。それは構いませんが珍しいですね、貴方がその様な事を言うのは」

「・・・もしかしたら、忙しくて伝える機会がないかもしれませんから」




城に仕え始める前のように廊下から外の景色を眺めていたは、一度きつく目を瞑って俯いたまま歩き出した。

何か違和感をずっと感じている虎珀は何か言おうとするが言葉にならず、通り過ぎたを振り返った。

太陽に照らされたの存在が急に薄くなった気がして、虎珀は気付いたら手を伸ばしていた。




!」




袖を引かれたは驚いて虎珀を見た。

きつく袖を掴み、何とも言えない顔をしていた虎珀に目を見張る。




「どこで何をしようとここが貴方の家ですから」




何となく今そう言わなければならない気がして、虎珀がそう口にするとは目をパチクリさせた。

怖いくらいに真剣な虎珀の顔に思わず、吹き出す。

いつでも居場所を作ってくれるここの人達にいくら感謝を述べても足りない。

は笑いを治めて、そして意地悪そうに小声で囁いた。




「虎珀さん。すっごく嬉しいんですが、今はなんですよ」




虎珀がらしくもなく慌てて辺りを見回したので、は再び声を上げて笑った。

その声を聞きつけてやってきた成実は大層ご立腹で、をポカリと殴りつけたけれども全く痛くなかった。



* ひとやすみ *
・ううう。行き先が怪しくなってきました。
 信じてるからこそ目を塞ぎ、見えてるからこそあらを探す。
 何だかちぐはぐになってきましたが、あと少しで佳境入りですのでお付き合い下さい。(09/05/17)