ドリーム小説
この三日で私は随分と逞しくなった。
それはもう間違いない。
佐助を助けてからのこの三日、本当にいろいろあったのだ。
その時の話は後に回すとして、私にとって大きな出来事があった。
慶ちゃんが奥州を発った。
雪が溶けた今、雪のせいで城に居座っていた慶ちゃんを引き止められなかった。
その事を政宗様にこぼすと呆れたように笑って言われた。
『アイツが雪ぐれェに阻まれるタマかよ』
・・・・確かに。
本当のところ、不安定だったあの頃の私を気にしてくれたんじゃないかと少し思っている。
何しろ慶ちゃんは超が三つじゃ足りないほどにお人好しだから。
恥ずかしくも慶ちゃんに縋ってわんわん泣いたのは憶え新しいが、おかげで私はめげずに頑張れるのだ。
最初から最後まで私を振り回してくれた慶ちゃんだったが、嫌がらせされて城を出る事になっても政宗様達の
役に立てるよう頑張ると言った私を笑って応援してくれた。
だけど去り際に慶ちゃんは真剣な顔をしてこれだけは守ってくれと言った。
一つ目は、命を守る努力を惜しまないこと。
政宗達がを狙う事はないとは思うが、アイツ等にも出来ない事はある。
裏切りや悲しい事が横行する乱世に何が起こるかなんて考えたくもないが、
何があっても自分から命を諦めるなよ、との事だ。
二つ目は黙ることも真実の内一つだって。
慶ちゃんに嘘を二度と吐かない事を固く誓った私を心配してくれたようだった。
周りが敵だらけの中で正直なだけでは苦労するし、黙ることは嘘でも偽りでもないんだからいいんだと
言われて何かを認められた気がした。
そして最後は・・・・。
「次に会った時も慶ちゃんって呼んでくれな、!」
・・・だって。
いつもの笑顔で夢吉と一緒にぶんぶんと手を振って慶ちゃんは去っていった。
いつか京の桜を見せに連れて行ってやるよーと叫びながら。
それはまた会う日までの小さな約束。
***
は城へ向いながら雲一つない空を見上げて肺に空気を送り込んだ。
昨夜もまたバケツをひっくり返したような豪雨だったため、道がぬかるんでいるものの空はスッキリと晴れていた。
佐助がいたためほとんど小屋にいたは、雨漏りに必死になって対処した自分を懐かしんだ。
あちこち漏れて追いつかないからせめて佐助が濡れないよう顔に紙を乗せたら、
濡れた紙が顔にぴったり吸着しちゃって危うく佐助が窒息するところだったんだよね。
「佐助が元から意識なくてよかった」
はしみじみとそう言って、目を覚ました佐助を思い出した。
あの日、倒れた佐助とだけが森に残され、は震える手で佐助の脈をとった。
弱々しい血管の流れと手に付いた人の血に戦慄しながら、声を掛けると諦めたような声が聞こえた。
の顔をぼんやりと眺めながら佐助はへらりと笑ったのでは息を呑んだ。
こんな状況に佐助を追い込んだこと事態、には耐えられないというのに、増してや笑いかけられるなんて。
虚ろな目をゆっくりと閉じていく佐助には絶対死なせるものかと強く決意して佐助を抱き起こした。
死に物狂いで佐助を引き摺って小屋へ運び、お蘭さんの薬箱を開いたものの、
すでに外科手術の域である佐助を前に元女子高生のが出来ることはなく混乱と焦燥が同時にきた。
ただただ時間と血液だけが流れ、頭を働かせすぎたのかはプチンと考えるのを止めた。
ここは戦国時代、当たり前のように戦いがあり、人が死ぬ。
おそらく佐助が死んでも忍だからそういう事もある、と考える人もいるだろう。
むしろ同じような傷で死んだ人もたくさんいるに違いない。
だけどここにはがいて、その知識も道具もある。
ならやれる事はやるべきだ。
血や命に怯えてる場合じゃない。
そうだ。日本にはこんな素敵なことわざがあるじゃないか。
「当たって砕けろ、だ!」
それからは人が変わったように割り切っていた。
問答無用で解毒剤を飲ませて傷を消毒し、薬箱にあった針と糸で縫った。
その手法はめちゃくちゃで手荒かったが、実際に佐助が生き残ったのだからよしとしよう。
は機嫌よく道の先に見える米沢城へ足を動かした。
***
「何だそれは?!」
行動を予測して耳に指を突っ込んでいた成実は、予想通りの行動に長い年月を感じて溜め息を吐いた。
怒りの限りを叫ぶ政宗はさらに怒鳴り散らしてついに成実に矛先が向いた。
「あのね、俺が知る訳ないじゃん!落ち着きなよ、梵。その真偽を確かめる為に俺達がいるんだから」
にんまり笑った成実に我に返ったのか政宗は一つ頷いて座り直した。
こんな晴れた昼下がりに耳にした噂が政宗の気分を台無しにした。
前からを追い出そうと躍起になってる奴らが少なからずいた。
自分から進言してきた奴らもいたが、俺は証拠不十分でそれを切り捨てた。
これはを雇い始めた時から予測出来た事態だが、まさかこんな形で今回の件と繋がるとは思わなかった。
つい先日、俺の手足である黒脛巾が謀反の首謀者を確認し、その全貌を伝えてきた。
どうやらアイツ等は同盟国である上杉に攻め込んで、同盟破棄を理由に上杉謙信を担ぎ出すつもりだったらしい。
挙句の果てには武田のおっさんに手伝ってもらってこの俺を叩くんだとよ。
Ha!!笑わせてくれる。すでに謙信はこれを知っているし、大体あの甲斐の虎がこんな卑怯な戦するかよ。
だが問題は武田の名前が出てきたことだ。
追放派の屋敷に投げ文があり、これにより元々は想像でしかなかった話が現実味をおびてきたのだ。
本当は武田軍のが記憶喪失の振りをして俺に近付き、今回の謀反の橋渡しをしたのではないか、という事だ。
挙句に差出人が黒脛巾だという。
してやられた。
の疑惑は火に油を注いだように広がったし、黒脛巾を騙ったことで俺の手足を塞がれたのだ。
「梵。分かってると思うけど今回は黒脛巾は使えないよ」
「あぁ。垂込みが本当に黒脛巾なら信用できねェし、信用されねェからな」
「何にしても後は俺達に任せろ」
成実の笑顔に政宗はやるせない気持ちで一つだけ頷いて返した。
* ひとやすみ *
・佐助が死にかけた話。(ある意味そうだけども・・・
泣く泣く慶ちゃんとさよなら。私が。
暗い話に花を咲かせてくれた慶ちゃんに感謝! (09/05/11)