ドリーム小説

明け方になり、ようやくは思惑ひしめく宴から解放された。

急にする事がなくなったと思えばドッと疲れがきた。

謀反の話をしている所に居合わせたのだ、やはり緊張していたらしい。

着替えるのも億劫になっては菊華屋を早々に出る事にした。

まだ夜も明けてない時刻なら人は少ないだろうと着飾ったまま通りに出た。

さすがに舞衣は脱いできたが、簪は挿さったままである。

人が居たならば絶対に目を引く真っ赤な衣装で花街を歩き、近道の森へと向う。

寺へ早く戻りたいが、この格好で早起きな寺へ戻れば確実に騒ぎになる。

なのでは城下の外れにある小さな小屋を目指していた。

そこはが入れ替わる場所として活用していて、森を抜ければすぐなので都合がよかった。

朝の森は寒くて薄気味悪かったが、人目につく事が無い。

ざくざくと足を進めていると森の奥の空気がおかしい事に気付いた。

張り詰めた空気に肌が粟立ち、立ち止まって辺りを窺う。

動物が一匹もいない・・・。

奇妙な静寂の中、甲高い金属音が森に響きはハッとして音の方へ視線を向けた。

離れているのでよくは見えないが、何か金属同士がぶつかり合って空中で火花を散らしている。

しかしあまりの速さに何がぶつかっているのかには見えなかった。

呆然とそれを眺めていたは次の瞬間、息を呑む事になる。




「東の方の怪しい話を辿って来て見れば、どういう事なのかなコレは」

「貴様に話す事など何もない!」

「伊達だけじゃなく、かすがまで関わってるならただ事じゃないね。あーあ、俺様忙しいのに」

「うるさい!」




それはかすが姉さんだった。

いつもと全く違う格好をしてクナイを振りかざし、迷彩服の男と戦っていた。

どういう事だ、これは。

私は眠さのあまり、夢を見ているんじゃないだろうか。

だって優しい先輩舞妓のかすが姉さんは故郷の大事な人の所に帰るために菊華屋を辞めるって言っていたはずだ。

刃を向け合う二人は常人の動きでは有り得ない体術で再び火花を散らし合った。

ふと昨日宴会で聞いた会話が蘇る。


『我が上杉にはあれと同じ名の忍がいるそうなのだ』


つまりはそう言うことだ。

かすが姉さんは上杉の忍で、あの迷彩の人もおそらくどこかの忍なのだ。

もう何が何だかには分からなくなってきた。

どうして・・。

どうして・・?

考えても考えても答えの出ない問いを振り切るように頭を振る。

考えるな。

考えるな!

余計な事を考えるとその疑問に辿り着いてしまう。

裏切り。

裏切り?

あの不器用で優しくて心配性のあの人は何だったの。

嘘吐き。

嘘吐き?

違うな。

違う。

違う。

違うっ!!

嘘吐きは・・・・私だ。

全てを否定するように、何も見なかったように首を振れば、頭に挿していた簪がカランと音を立てて落ちた。

その瞬間、かすがも迷彩の忍もの方を見た。

いつの間にか移動していた忍二人からはの姿はまだ見えてないものの、見付かるのも時間の問題だ。

その時、かすがと迷彩服の虚を衝くように黒い脛当てを着けた忍が飛び出した。




「「黒脛巾ッ!!」」

「貴殿は真田の猿飛佐助殿と見受けるが、説明も何も面倒なので死んで頂きたい」

「ちょっ・・ひどくなーい?!」




伊達軍が擁する忍集団、黒脛巾の一人が乱入してきてその場は三つ巴の乱戦となった。

次から次へと転がる事態には目を瞬いて、黒脛巾が佐助に飛び掛るのを見ていた。

いきなり蚊帳の外に出されたかすがは鬼のような形相で地を蹴り、二人に突っ込んで行った。

どうやら相当イライラしているようだ。




「元はと言えば伊達が家臣を抑えていないせいではないかッ!!」




ひらっとその攻撃を避けた黒脛巾は溜め息を吐いてかすがに何かを囁いた。

見る見るうちに表情が変わったかすがは急に振り向いてがいる茂みを見た。

それに焦ったのはの方で今すぐこの場を離れようと決心した。

急に立ち止まったかすがを不審に思ったが、佐助もちらりと茂みを見た。




「(あそこに何かいるのは間違いないが、黒脛巾が守ろうとしたものは興味あるねぇ)」




二人が止まった今しかないと佐助は手裏剣を構えて茂みに走り出した。

黒脛巾は舌打ちして同じく茂みに向かって走り出す。

はすごい勢いで走ってくる二人に怯んで逃げも叫びも出来なかった。

佐助が一足先に茂みに着いて薙ぎ払おうとした瞬間、予想もしなかった事が起きた。

佐助の腹部を斜めに切るようにクナイが走り、血が噴出した。




「がはッ!!」

「悪いがこれで終わりだ、佐助」

「な・・なんで・・かすが、が・・」




かすがが向かい合うようにして逆手で握ったクナイで佐助の胸を上から下に斬り付けたのだった。

鮮血がかすがの頬を濡らし、どこか切なそうな瞳と目が合っては声を失った。

そしてかすがは倒れた佐助を一瞥し、音も無くその場から消えた。

黒脛巾もいつの間にか居なくなっており、残されたのは血溜りに倒れる佐助とだけだった。

何かを囁かれ、急に態度が変わったかすがは黒脛巾に味方したというより、を助けたように見えた。

そしてその結果、目の前の虫の息の男は自分がここに居たせいでこうなっていると思うと胸がはち切れそうだった。

戦国時代に来て初めて血を見た戦いが、かすが姉さんが起こした物だなんて。

は嗚咽を呑み込み、ほぼ無意識に茂みから出て苦しそうな佐助に手を伸ばした。


* ひとやすみ *
・初登場にして瀕死とはなかなか出来るものじゃないぞ、佐助。
 何と言うか無茶してごめんなさい。
 陰謀発覚。かすがとの決別。血に沈む佐助。めまぐるしく廻る運命はどこへ?(09/05/09)