ドリーム小説

陽が顔を出し、人が活動し始めた頃、政宗は花街を走り回っていた。

目的は人探し。

泣いてるくせに微笑みながら暗闇に落ちていった女の顔が頭から離れない。

政宗は手にしていた薄絹をきつく握って、情報を求めて片っ端から店を訪ね歩いていた。




「親父、って女知らないか?」




茶屋の暖簾を担いで現れた店の主人に声を掛けると男は手を止めずに首を捻った。

またもハズレか、と政宗が礼を言おうとすると男が声を上げた。




「あーそういや、あの女がそういう名前だったな」

「知ってるのか?!どこにいる?」

「なんだ兄ちゃんも騙された口かい?止めときな、あんな奴関わるだけ無駄だ」

「騙された・・?」

「最悪な女だよ、見付けたら教えて欲しいくらいだ」




一気に機嫌が悪くなった店主は話もそこそこに店の中に戻っていった。

政宗は憎まれているの実情に怪訝そうに眉根を寄せて、さらなる情報を求め踵を返した。

政宗が去っていくのを横目で見ていた店主は不思議そうに息を吐いた。




「しかし、とか言う婆さんを探してどうするんだ、アイツ」




政宗は次から次へと店を回って歩いたが、どこもかしこもの名を聞くと一様に不機嫌になる。

盗みを働いただの、騙されただの、最低な女だとかはもう聞き飽きたくらいだ。

政宗自身、同じように騙されたのではないかと思い始めた時、気が付けば昨日と歩いた大通りまで来ていた。

同じように近くの店に入っての名を出せば、また溜め息を吐かれた。




「あの子もやりたくてやった訳じゃないんだよ。何せあの歳だろう?まだ小さいのに・・」

「小さい?」

「ん、まだ六つくらいだろう、は?」

「What?!」




政宗はようやく自分の失態に気が付いた。

名前だけで聞き回った自分の顔を掌で覆って、もと来た道を戻った。

の情報を聞いた店に逆戻りし、詳しく聞いてさらに混乱した。




「どういう事だ・・・ここには同じ名前の人間が何人いる?」




聞いた限りは、六つの女児から始まって、最高年齢七十くらいの婆さんまでたくさんいた。

それらしい特徴のの情報もあったが、ここまで人数が多いとそれもあてになりそうにない。

どう考えても誰かが情報を操作しているとしか考えられないが、何でここまでされているのかが分からない。

大通りに戻ってきてふと視線を上げると、昨晩が立ち寄った饅頭屋が目には入った。

直接を見ている店主ならもしかして・・・。

政宗は店の準備をしている男に声を掛けた。




「Hey!昨日の夜更けにここで饅頭を二つ買って行った十五、十六くらいのって女知らないか?」

?いや、ありゃ婆さんだしな。饅頭買ってく娘なんて多くて覚えてられねぇよ」

「Ahー。そういや一個買ったらおまけにも一つくれたって言ってたんだが」

「おまけ・・?そんなの滅多にしねぇが・・・ん?そりゃもしかしてお蘭ちゃんの事か?」

「蘭?」




聞き覚えがある名前の主を思い出して政宗は眉根を寄せた。

店主が嬉しそうに語るその娘の話はどこかに似ている気がした。




「お蘭ちゃんは本当にいい子でね。花街で舞妓修行してるらしいが、店は聞いてなかったな」

「その蘭の着ていた着物の色は?」

「昨日は赤だったね」




ようやく見付けた情報に政宗は走り出した。

初めから聞き込む情報が間違っていたのだ。

何の因果か、はここでお蘭と名乗っている。

城の性悪目付女中を思い出しながら、花街を巡って確信を得た。

お蘭について聞き込めば、そのものの返事が返ってくる。

その名を頼りに政宗は片っ端から芸妓を扱う店に聞き込んだ。

ハズレが続いた頃、気が付けば抜け出してきた風美楼の前まで戻ってきていた。

まさか自分が居た風美楼には居ないだろうと政宗は笑って、向かいに待合茶屋があるのに気付いた。

女楼ではないが、芸妓も出入りする待合茶屋に足を向けた。




「いらっしゃい。菊華屋にようこそ」




店に入ると勘定方が居なかったようで、偶然居合わせた芸妓が綺麗に微笑んで声を掛けてきた。

珍しく芸妓も店で雇って居るのか、と感心しつつ同じ質問をした。




「人を探してる。という・・・いや、お蘭という十五、十六の娘知らないか?」

「お蘭?さてねここにはいないね」

「そうか」

と言う名だったら皆よーく知ってるケドね」

「ここもか」

「おや、そんなに有名なのかい、あの子は」

「あぁ。ヒドイ女狐だとよ」




捨て台詞のように言って政宗は菊華屋を出て行った。

残された芸妓は呆れたように溜め息を吐いた。




「どっちが酷いんだい。アタシ達の可愛いに何て事を」

「姐さん。私料理に回るんで中お願いします」

「あぁ。今ね蘭って娘を探してた男がアンタを馬鹿にしてねぇ」




姐さんは不機嫌そうな顔をして、呼びに来たに声を掛けた。

政宗と姐さんの会話を奥で聞いていたは自分を探しに来たその人の顔を思い出して目を細めた。

花街でと言う名を広めたのは目付女中の蘭だ。

そしてあえて花街の顔見知りに蘭と名乗る事で本物のは隠れやすくなる。

何のためにと当初は思っていたが、今はその発想には感謝した。




「でもあの男が持ってた絹、あれのと似てやしないかい?」

「・・・そう、ですね。でも、あれは大事にしまってますから」




もう一度外に視線をやっては言葉を噛み締めるように瞳を閉じた。

二度とと会うことのないだろう政宗を目蓋の裏に浮かべながら。


* ひとやすみ *
・切羽詰って効率の悪い探し方をする筆頭。
 近いのに近付けない。遠くないのに遠すぎる。
 果たして本当に追い掛けてるのはどちらなんでしょうね。(09/05/07)