ドリーム小説

飛ぶように夜の帳が落ちた街中を走るはただ呆然と花街の灯が離れて行くのを見ていた。

何もかも気力が失せてしまったは自分を担いで走る人物をただ不思議に思うしかない。




「まさかがもう一人いるとはなぁ」

「・・・・なんでここにいるの前田殿」

「愛のねぇ呼び方」




初めて会った時と同じようにを肩に担いで慶次はひたすら走っていた。

屋根から落ちたを突然現れた慶次が受け止めて、物凄い速さでその場から逃げたのだ。

茶化すように笑う慶次がについて深く聞いてこない事にただ感謝しては目を閉じた。

今、話すには痛すぎる。

風を切る音を耳にしながら、疼く胸の痛みを鎮めるようにキツク慶次の服を握り締めた。

どれくらい走ったのか、慶次が止まった時、目を開くとそこは屋根の上であった。

ストンと降ろされたはようやく慶次の顔を見ることが出来た。

いつもと変わらぬ表情に安堵して、は心から礼を言う。




「助けてくれてありがとう」

「いいってことよ」




月を見上げるように座り込んだに付き合って慶次も腰を降ろした。

何も言わないを気にする事もなく、慶次は楽しそうに声を上げた。




「今日の月も風流だねぇ。笑ってるように見えら」

「ホントだ・・」

「何か良い事でもあったんじゃねぇのかな」

「いいこと・・・」

「悪い事の次は良い事が来るからな」

「そっか」

「あぁ」




何だか気を張っていた自分が馬鹿らしくなってきたは吹き出した。

突拍子の無い話をする慶次に気を抜かれたは夜だという事も忘れて心行くまで笑った。

つられる様に慶次も笑って暫くの間、闇夜に明るい声が響き渡った。

目尻の涙を拭いながら、はポツリポツリと話し出した。




「私ね、って名前なの。なんて本当は居ない」

か。うん、良い名だな」

「記憶喪失なんて嘘だし、武家の子だって言うのも嘘」

「うん」

「私が中途半端な事してる理由は・・・皆を騙し続けてる理由は・・・私が、この世界の人間じゃないから!」




言い訳のように呟いていたの声にだんだん悲愴感が加わり、最後は搾り出すように泣き叫んでいた。

到底信じられる話ではないが、ポロポロと涙を流すが今まで悲痛な状況にもめげず、

一人で立ち向かってきたのを知っているからそれが嘘だとは思えなかった。

ようやく嘘で固められたの中に真実を見付けて慶次は目を細めた。




「私は帰りたい。帰りたかったの!だから長い間居座る気も無かったし、逃げ出せなくなるのが怖かった。

 だから日雇いなんてどっちつかずな立場をとった。だけど全然帰れなくて、一緒に過ごせば過ごすほど

 居心地がよくなって私には選べなくなった!迷惑掛けてるのはわかってる。

 だけど皆と一緒にいたい。役に立ちたいの」

「・・・それで居場所を失ってもかい?」




涙を堪える様に唇を噛み締めるに慶次は静かに声を掛ける。

その真剣な眼差しをは力強く見返して微笑んだ。




「私を信じてくれる人達が居る限り」




慶次は目の前の強くて脆い少女の行く末を祈るように強く抱き締めた。

願わくば彼女の切ないほどに純粋で小さな想いが叶うようにと。

背中に回されたの手が自分の服を掴んだのを感じながら、慶次は呟いた。




「今までよく頑張ったな、




ビクリと身体を揺らしたは一瞬息を止めて、すぐに顔をくしゃりと歪めた。

事情を知っているのは洛兎や虎珀もいるけれど、近すぎる故に泣き言など言える訳もなかった。

他に事情を話せる人もおらず、一人でずっと耐え抜いてきたのだ。

それを他の誰でもなく自身を頑張ったと認めてくれる人が現れて、は線が切れたように泣いた。

強く抱き締めてくれる慶次の腕に縋ってただただ赤ん坊のように泣き喚いた。




「家族に会いたいよ」

「うん」

「こんなに辛いなら偽名なんて使わなければよかった!偽りのないのまま出会いたかった!」

「うん」

「もう二度と嘘なんか吐かないっ!」

「うん。泣け泣け。今なら優しい慶ちゃんがぜーんぶ聞いてやる」

「うわぁあぁん!慶ちゃぁぁん!」

「よしよし」




の声が嗄れるまで、の悲しみが涸れるまで慶次はひたすら頭を撫で続けた。

この出来事では新たな決意をし、それが蛇の道へ繋がろうとはまだは知らなかった。



* ひとやすみ *
・最後の一文・・・。
 私は鬼か?!ここまでイジメにイジメ抜くとはS的傾向が見られるような。
 というか、断固として私はマゾヒストだ!(違                (09/05/07)