ドリーム小説

花街の仕事にもかなり慣れた。

菊華屋の姐さん達に舞妓化粧や普段使える化粧などいろんな事を教えてもらった。

中でも不器用ながらいつもの事を気に掛けていてくれたかすがには感じる事も多く、

そのかすがが今夜と明日の舞台で居なくなると思うと寂しく感じた。

出番待ちの間、じっとかすがを見ていたに気付き、かすがは無愛想に声を掛けるが

は首を振って何でもないと答えた。

何だかが落ち込んでいるように見えたかすがは、自分でも気付かぬ内に手を伸ばしていた。

多少乱暴ではあったが、頭を撫でられている事に気付いたは思わず目を見開く。

その反応にハッとしたかすがが手を引っ込めるが、は心底嬉しそうに笑っていてかすがは顔を背けた。

顔を見る事は出来なかったが、かすがの耳が赤いのを見たはくすくすと笑いを漏らした。




「お、大きな仕事だ。失敗は出来ん。行くぞ、

「はい」






***






招かれた先は立派な妓楼だった。

この辺りでは有名な所らしく、妓女達も大層な別嬪だと言っていた。

政宗はあまり興味なさそうにそんな話を聞きつつ、酒を煽った。

確かに酒は美味い。

そんな事を思いながら話に耳を傾ける。

重臣が集まったこの席で話し合うのは成実が持ってきたキナ臭い話である。

確信はなかったが、やはり南で謀反を計画しているようだった。

伊達の優秀な忍集団、黒脛巾組も同じ話を持ってきた。

首謀者はもう間もなく割れるだろうが、先に手は打っておいたので大事には到らないだろう。

その謀反の収拾を任せた重臣達がなぜこんな面倒な席まで用意しているのか。

くだらない事に巻き込まれてる気がしてならない政宗は面倒そうに息を吐いた。

そこに綺麗に着飾った舞妓達が静々と入ってきて頭を下げた。

顔を上げた舞妓達に思わず政宗も息を呑む。




「ほぉ。確かに美人揃いだ」




ようやく笑った政宗に周りは安堵の息を吐いて、酒を勧めてくる。

何度か酒を飲んで、舞妓の演技を楽しんでいる内に話がどことなく反れた。

ずっとただ黙っていた小十郎はピクリと眉を揺らした。




「何やら聞いた話、西の方が騒がしいと。まさか停戦中の武田と何か繋がりが?」

「案外、この謀反、武田が仕組んでいるやも知れませんな」

「はは、それは有り得ないでしょう。あの武田信玄ですぞ」

「どうですかな、前田殿を送り込む事が武田の陰謀なれば・・・」

「まさか・・。では共犯と名高い彼の者は・・・」

「武田出身の者なのか?」




賑やかな拍子になるにつれて話の内容はどんどんエスカレートしていく。

誰の話をしているか一目瞭然で小十郎は悔しさを黙って耐えていた。

ここで庇う様に話に出て行っても解決せず、むしろ贔屓が過ぎると叩かれるだけだ。

今は我慢の時だ、と目を閉じた小十郎はあまりに静かな主人に気付いた。

嫌な予感にそっと目を開くと、青筋を立てて笑っている主人に眩暈がした。

これはかなりヤバい・・・。




「殿、伊達家の繁栄を願って進言致しますが、あのなる者を側に置くのは危険が過ぎます」

「城の者の多くがそう思っているのです」

「どうか我々の声に耳をお傾け下さい」

「・・・・・OK。お前らの言いたい事はよーく分かった」




小十郎はその声にカクリと首を落として顔を覆った。

よりによって最悪の状態で地雷を踏みやがった。

しかし政宗の顔からは怒りも嘲りも何も見えず、ただ退屈そうに肘をついただけだった。

何だかいつもと違う政宗に小十郎は首を捻り、ようやく気付いた重臣達は冷や汗を掻いた。




はあれで隠してるつもりらしいが、城でのアイツの待遇や噂は知っている。

 アイツが何者かなんて関係ねェ。それを承知で引き込んだのはこの俺だ。この事で誰にも文句は言わせねェ。

 だがな、俺だって一国の主だ。お前らが心配してる事もわかる。我侭通してまで聞く耳持たない訳じゃない。

 噂は噂でしかないんだ。わざわざこんな席設けなくても何か俺に言いたいなら証拠持って来い。Are you OK?」




言うだけ言って政宗は席を立った。

慌てて引き止めようと声を掛けてきた重臣に政宗は振り返って言った。




「酒は美味いが、美人は見飽きてんだ。俺を引き止めたきゃ俺に張り合える女連れてきな」




今度こそ部屋を出て行った政宗を追いかける事無く、小十郎は苦笑して部屋に残りその尻拭いに取り掛かった。

屋根の上でこっそり話を聞いていた慶次はかっぱらってきた酒を煽って笑った。




「案外落ち着いてるじゃねェか、独眼竜」






***






舞終えたとかすがは部屋を退室して、控えの部屋に戻った。

そこで化粧を落としていると、いつも以上に楽しそうな姐さん達に絡まれる。




「え、お向かいの風美楼にも大型団体?」

「らしいよ。あの子が城に出入りしてる美男子が入って行くのを見たって」

「今日は何かあるんでしょうか」

「何でもいいさ、金さえ落としていってくれればね」




片目を瞑って綺麗に笑う姐さんに苦笑しながら化粧を落とす。

が舞った席にいた人は何度か城で見掛けた事のある大名だった。

昨日様子のおかしかった政宗や小十郎を思い出して、やはり今日何かあるんだろうかと首を捻った。

赤い着物に袖を通したは姐さん達に別れを告げて先に菊華屋を出た。

城関係の人がうろついてるなら顔を見られるのはあまり嬉しくない。

は薄絹を頭から被って夜の花街を後にした。


* ひとやすみ *
・名残宴編始まりました。
 初っ端からつなぎっぽい話で申し訳ないですが、お付き合い下さい。
 頑張りますー!!!!!                   (09/04/28)