ドリーム小説
今日も今日とて朝から城へ向えば、元気な成実と遭遇して朝食に招かれた。
が成実に手を引かれて部屋へ入ると静かな部屋に城主とその重臣二名がすでに座っていた。
朝の挨拶をすると政宗は軽く手首を動かして返した。
いつもの事ながら相変わらず緩い食事会だ。
そんな事を考えながらは運ばれてきた食事に手を合わせた。
政宗のテンションが上がるまで静かな朝食なのだが、この日は少し違った。
は味噌汁に少し口を付けると、箸を置いた。
黙々と食事をとる一同はの様子に気付く事もない。
「・・・あの、誘われた身で大変申し訳ないのですが、気分がすぐれないので退室してもいいでしょうか?」
の声に一同はようやく顔を上げて、の険しい顔に驚いた。
どこか苦しいのを我慢しているような表情に政宗は一瞬目を細めて頷いた。
は丁寧に頭を下げて謝って部屋を出て行った。
***
部屋を早足で出たは離れた場所で盛大にむせ込んだ。
口元を押さえながらは井戸を目指して外へ飛び出した。
目当ての井戸へ駆け寄って水をその場で豪快に飲んで座り込む。
一息吐いた所で、ビシャリと冷たい水が背中に掛かった。
振り返るとそこにひしゃくを持った男が嫌な笑みを浮かべて立っていた。
「あぁ、すいませんな。まさかそんな所に人が居るとは思いませんで」
明らかにわざと水を掛けたと分かるものであったが、ここで怒れば思う壺だ。
は立ち上がってニコリと微笑んだ。
「いえ。目が覚めてちょうどよかったです。どうもありがとう」
悔しそうな顔をする男の横を通り過ぎる際、は思いっきり舌を出して中庭に向った。
キョロキョロと辺りを見渡して、庭の木に足をかけて屋根に登った。
ここは最近のの避難所でお気に入りの場所だった。
は濡れた羽織を脱いで屋根に大の字に寝転がる。
「お腹減ったな・・・」
前田慶次侵入事件以来、城中のに対する嫌がらせは倍以上に増えた。
共犯だという噂はの存在を目の敵にしていた人達にとって格好の餌となった。
今日のように食事に何か盛られたり、水を掛けられたりするのはまだよい方で、
訓練中の兵士の刀や弓が飛んできたり、物の破壊工作とかは流石に参ってきた。
全ては日雇いという中途半端な立場で城主に近付いてる自分の責任なのだが、
はどうしても元の世界が諦めきれなかった。
これは学んで気付いた事だが、ここは五百年前の過去なんかではない。
武将の生きてる年代などがめちゃくちゃなのが良い例で、
確かに日本の戦国時代ではあるようだがおかしな事だらけなのだ。
友達が戦国時代を設定にしたゲームにハマっているという話をふと思い出した。
歴史に関しては少し興味があったので覚えていたのだが、どうも内容が思い出せない。
は自分がゲームの世界にいるとは到底思えなくて、そんな事を思い出した自分を笑った。
「なんだぁ?やけに面白そうじゃねぇか」
視界いっぱいに広がる空に顔を出した慶次は不思議そうに寝転ぶを見下ろした。
ふと春になったとはいえ、まだ雪の残る季節に濡れた自分を思い出して眉根を寄せる。
隣に腰を降ろした慶次はが起き上がるのを見てから口を開いた。
「今日は何盛られた?」
「塩。まだ口の中がしょっぱい」
「はは。薬じゃなくてよかったさ。またを抱えて飛び出さなきゃいけねぇのはなぁ」
「その節はどうも」
少し前に痺れ薬を盛られた時には、身動きが取れなくなり大変だった。
そこに慶次がやってきていろいろ誤魔化してくれたから、まだ政宗達には知られていない。
そうやって時々助けてくれる慶次や蘭、篠にはは感謝しっ放しだ。
「なぁ。あの時俺が言った事、本当にわかってるか?」
― 壁の向こうで本気で心配してる奴がいるのにアンタにゃまるで見えてない。
俺にはアンタが、何もしていない内に諦めているように見えるよ ―
慶次に言われた言葉は深くの心を抉った。
おそらく慶次の言う壁とは、が異世界人だという事なのであろう。
慶次がそれに気付いている訳ではないだろうが、その壁は元の世界を諦めない限り消える事のないものだ。
それを理由に「仕方ない」「どうしようもない」と逃げてるのを慶次や蘭の言葉で気付かされた。
気付いてしまった以上、変わらなければならない。
たとえここがどんな世界でも、にとっては今起きている現実なのだ。
歴史上の人物だとか、異世界人だとか、そんな区別はもういらない。
壁を消す事は出来ないけれど、歩み寄る事は出来るはずだ。
「分かってるよ前田殿。ただやっぱり壁は分厚くて高くて消す事は出来ないけど、今自分に出来る事をするよ。
周りからしたら何も変わってないのかもしれないけど」
「・・・愛のない呼び名だなぁ」
「じゃ前田慶次」
「アンタ
鬼だな」
ぶつくさ文句を言いながら夢吉に慰められてる慶次には苦笑した。
いろいろあって挫けそうにもなるが、確かに慶次には救われていては心の中で感謝を述べる。
「ちぇ。せっかく握り飯と替えの羽織持ってきてやったのにさ」
「
ありがとう、慶ちゃん!」
「・・・お前さん、現金な奴だなぁ」
呆れる慶次をよそにペロリと握り飯を平らげたは羽織を受け取ってようやく着替えに行くことにした。
屋根から降りたに向って屋根の上から慶次は声を掛けた。
「着替え手伝ってやろうかぁ?」
「
セクハラ!」
見えない所からそんな声が掛かって慶次は楽しそうに笑った。
そして座り込むと笑いが苦笑に変わった。
「やっぱ分かってなかったな、。あれには、もっと周りの奴らを頼れって意味もあるんだがな」
慶次が肘をつくと夢吉も同じように肘をついて主と同じく困ったように溜め息を吐いた。
* ひとやすみ *
・お互いにつつきあってどう言う風に接すればいいか分からないから
きっと何も無かったように振舞ってるんでしょうね。
いじめが横行して肩身が狭くなるのってつらい。 (09/04/28)