ドリーム小説

この町は久しぶりだ。

自由気ままにあちこち旅をしてるが、相変わらずこの町は活気に溢れている。

いいねぇ。いいねぇ。

こういう町は大好きだ。

ちょうどいい所に和菓子屋が目に入り、男はのれんを潜った。

どうやら茶屋も兼ねてるらしいその和菓子屋は中にこじんまりした座敷があった。

そこにドッカリ座ると座敷に居た数人の客と目が合う。

ジロジロ見てくる客達に男はニパッと笑顔を返すと、店主がやってきた。




「いらっしゃい。何にする?」

「あー。じゃ大福くれ」

「また大福か。今日はよく出るなぁ」




大福を取りに行った店主に男は首を傾げた。

すると後ろから急に声を掛けられて振り向いた。

座敷にいた客の一人だったが、その手には大福が握られていた。




「さっき君が大福買って行ったんだよ」

・・?」

「何だい、兄ちゃん他所から来たんか?」




大福をペロリと食べたその親父は当然のように男の隣に座った。

何が何だか分からない男が眉間に皺を寄せると、奥から店主が大福を持って出てきた。




君はこの辺りじゃ有名だからね」

「おやっさん、そのってのは何者なんだい?」

「お城にお仕えしてる子なんだけどよ、若いくせに礼儀正しくておまけに別嬪だからあっちゅう間に人気者だ」




男はふーん、と相槌を打ちながら大福を頬張った。

自慢げに離す客に苦笑しながら店主が話を続ける。




「アンタもかなりの美丈夫だが、君も整った男の子でね。ウチの娘を嫁にいらんかって言ったら

 私にはもったいないですよって綺麗に笑って流されたよ」

「なーに言ってんだ。饅頭屋の大福みたいな娘なんて誰がいるもんか」

「アンタはウチの娘を何だと・・・!」




店主と客がもめ出したのを見ていた男は親指に付いた餡子をペロリと舐めて口元を緩めた。

これはひょっとすると面白い事になるかもしれない。

男は言い合う二人に声を掛けた。




「あー、ちょいと。城に行きゃあそのってのに会えるか?」

「あ?まぁ会えるだろうけど、城なんて・・・」

「アンタ何者だい?」




男は立ち上がって代金を支払うと嬉しそうに笑った。

するとどこからともなく小猿が飛び出して、男の派手な服を駆け上った。

ポカンと見入ってる二人に楽しそうに口を吊り上げて言った。




「俺の名前かい?俺は前田慶次っつう者よ!」




同意するように猿の夢吉が楽しそうに鳴いて、慶次の肩から飛び降りた。

慶次はそれを見てから一気に城へ駆け出した。








***








ようやく城に帰れそうだ。

大福を買いに出たはいいが、町の人達に捕まって話をしている内に結構な時間が経った。

遅いって怒られないといいけど。

少し気が重くなったは買ってきた大福を見て溜め息を吐いた。

気持ちと一緒に左足にズシリとした重みが加わっては視線を落とした。

は目を瞬いて左足に縋り付いてるものを見た。




「・・・猿?」




小さな猿に少々警戒しながら座り込むと猿は嬉しそうにその場で一周回った。

それを見ては警戒を解いて小さく笑うと手を差し出した。

小猿はちょこんとの掌に両手を置いた。




「君は賢いね。猿って人を襲うってイメージが強かったんだけど可愛いなぁ」

「キュ?」

「ふふ。もう日が暮れる。早くお家に帰りな」




は名残惜しげに手を離して、立ち上がった。

ただを見上げるように見ている小猿に手を振っては城に足を向けた。

こういう場合は振り向いたら付いてくるんだっけ。

そんな事を思いながら真っ直ぐに歩いていると、悠然との横を猿が歩いている。

ポカンと思わず立ち止まってしまったを振り返って猿が早く来いと言わんばかりに鳴く。




「ちょっと!この先はお城だって。早く帰った方が・・」

「キィ!」

「・・・何その顔。行く気満々って感じなんだけど」

「夢吉ィー!!」




背後から声がして走ってくる男に驚いていると、小猿が男の元に走っていった。

男の肩におさまった小猿にぶつくさ文句を言いながら男がの所までやってきた。





「夢吉がそのお猿さんの名前?」

「あぁ。アンタが夢吉と遊んでくれてたのかい?」

「遊んだって言うか・・。お連れが見付かってよかったね、夢吉くん」




が楽しそうにそう言うと男はキョトンと目を瞬いていた。

何かおかしな事を言っただろうか、とが考えていると急に声が掛かった。




「え、と、アンタは・・・」

「あ。私はと申します」

「あーアンタが大福の」

「大福・・・?」




おかしそうに首を振った男に首を傾げたは手に持っていた大福に視線を落とした。

確かに大福は買ったが。

怪訝そうに見てくるに男はニヤリと笑った。




「町中でアンタがよく出来た男だって聞いたんで、会いたかったんだが、

 まさかそのってのがこんな美人な姉ちゃんだと思ってなかったぜ」

「!!!」

「女と男を間違えるような人間にゃ、なったつもりはねぇぜ俺は」

「な、にを・・。私は男で・・」




頭を石でガツンと殴られたような衝撃だった。

悲しい事に今まで誰にも気付かれなかったのに、一目会っただけで見破られるなんて。

否定の声を上げてみるも、動揺が声に表れていた。

どうすれば、と焦ってグルグル思考していると、男が真剣な顔をして言った。




「詳しい事情は聞くつもりはねぇが、そうだな・・・。黙ってて欲しければ・・・」

「・・・欲しければ?」

「俺の事、慶ちゃんって呼びな」

・・・は?

「なーんか面白そうな事が起こる気がしてたが、こりゃ幸先いいな!」

「え?あの、ちょっと!うわっ!」




動揺してるを米俵のように軽々担ぎ上げた自称慶ちゃんは、楽しそうに笑って城に向って走り出した。

慶ちゃんの背中しか見えないは物凄い揺れに青い顔をして口元を押さえた。




「(うぅ。もう二度と頭に羽が生えてる様な怪しい男には絶対近付かない!)」


* ひとやすみ *
・慶ちゃーん!!ようやく出せましたvv
 慶次のおかげでBSR連載も少しは華やぎます!(おそらく・・・
 さてそろそろ米沢城編も終盤です。                (09/04/24)