ドリーム小説

今日は朝から雑用を任され、夕方からは厨の方に向った。

今ではすっかり仲良くなった厨係の女中達と夕食を作り、それを仲良く部屋まで運んだ。

寺の祭事の時に知り合った女中も多く、気兼ねなく仕事が出来る。

笑顔で部屋に膳を運ぶ姿を腹減りの四人がジッと見ていたが、は全く気付いていなかった。

一緒に運んでくれた女中にが微笑んで礼を言うと、顔を真っ赤にした女中達はそそくさと部屋を出て行った。

その様子を見ていた政宗、成実、小十郎、綱元は目を細めて溜め息を吐きあった。




「罪づくりな・・・」

「あぁ」

「あれ天然だよなぁ」

「Oh、も隅に置けねぇな・・・」




ようやく皆が自分を見ていることに気付いたは目を瞬いて首を傾げた。








***








として雇われ始めて一月が経とうとしていた。

というおかしな雇われ家臣がいる、と城のほとんどに認知されるようになったのは最近の事だ。

訳の分からない仕事を任されるのにも慣れ、城に出入りする武将達にも慣れた。

政宗のせいか、そうじゃないのか、一風変わっているのは愛嬌と思うようにした。

大漁旗のようなものに向こうで言うアイロンの火熨斗を当てている女中を見た時にはさすがに声を失ったが。

最近のことではあるが、夕食の時間には必ず集まって皆でご飯を食べる習慣がいつの間にか出来ていた。

きっかけは仕事に慣れてきたを綱元と小十郎が夕食に招いたことからだった。

それを見付けた成実が乱入して楽しく食事をしていたら、政宗が憮然と膳を持って入って来たのだった。

普通、殿様は優雅に一人で食事が多いが、騒がしい家臣達に耐えかねて混ざりに来た。

ようするに仲間はずれが嫌だったのである。

それ以来、を含めた数人で食事をとるようになったのだ。










「これはなんというか・・」

「赤いな」

「これ、何で作ったか聞かない方が・・」

「食べれるならそれで良い」




いつもながら失礼な事を口々に言う人達だ。

は膳を覗き込みながら眉根を寄せる四人に口を尖らせる。

夕食は一品だけいつもが作っているのだが、独特なのかすぐにどれだかバレてしまう。

は仕返しとばかりにニコリと笑って答えた。




「唐辛子ですよ」

「「「「やっぱり・・・」」」」




見るからに辛そうな色をした料理にその場にいた四人はゴクリと喉を鳴らした。

皆で眉を寄せてしげしげと見ていたが、意を決したのか成実が口に投げ入れた。

きつく閉じていた目が今度は見開いてを驚いたように見た。




「あれ?あんまり辛くない。むしろうまい!」




不思議そうにパクパク食べている成実につられてか他の人たちも食べ始めた。

口々に美味しいと言ってくれて作った甲斐があったとはニッコリした。




「これ、海老か・・?」

「あ、はい。少し贅沢かな、と思ったんですが、あとは小海老しかいなくて」




いわゆるエビチリを作ったのだが、チリソースに苦戦。

豆板醤の代わりに唐辛子は使ったけど、色が赤くなるまで使っていない。

これはトマト。ドッキリ成功です。

が作る現代風な料理は以外に評判が良く、厨でも大人気だった。

何より食べてくれる人が美味しそうにしてくれるのが、料理好きのにとっては一番嬉しい。

は嬉しそうに笑って目の前の膳に向って手を合わせた。









***








、そこに書いてある物、調達してきてくれないか?」

「わかりました」




その日もいつものように朝から借り出され、城の中をウロウロとしていた。

女中達はに良くしてくれるし、顔見知りになった人達も声を掛けてきてくれたりする。

ただ、世の中そんな人ばかりじゃない事は世の習いである。

廊下を歩いていた時、強い風が吹いて預かった紙が舞った。

どうやら窓が開いていたらしく風が吹き込んだようだ。

は飛んでいった紙を拾おうと床に手を伸ばした瞬間、白い足袋が紙を踏んだ。

何事だと顔を上げるとよく見る重臣の一人だった。




「おお、すまぬな。まさかこのような所に狗がおるとは思わなんだのでな」

「いぬ・・?」

「足が汚れたわ」




そう言って男は拭うように紙を踏みつけ、皺くちゃにしてから足を上げた。

は眉根を寄せて紙を拾い、皺を伸ばすと重臣を伺うように見上げた。

それが気に食わなかったのか、男は顔を歪めて口を開いた。




「なんだその顔は。雇われだと?笑わせるな。忠誠も尽くさず、金さえ手に入れば誰にでも

 尻尾を振る狗の分際で殿の側仕か。どうやって取り入ったか知らぬが、精々足元をすくわれぬよう

 媚を売っておくことだ」




言いたいだけ言って満足したのか、男は鼻で笑ってその場から離れた。

はその背を見送って紙の皺を伸ばそうと何度も紙を撫でた。

今までチクチクと言われる事はあったが、ここまであから様に言われたのは初めてだった。

確かに日雇いと言う立場は曖昧で、いい加減と言われればその通りなのである。

分かっているからこそ言い返せず、だけどどうにも出来ないのがは歯痒かった。

この先に残る不安に大きく溜め息を吐いて、紙に視線を戻すと裏に何か書いてあるのに気付いた。

裏返してみるとそこにあった言葉には目を瞬いた。




「ついでに大福を十一買ってくること。その内一個はにやってもいいって・・・」




思わず吹き出したは人目も気にせずに皺くちゃの紙を抱えて大声で笑った。

自分を気に掛けてくれる人もいる。

ニコリと笑ったは目尻の涙を拭って大福を買いに歩き出した。



* ひとやすみ *
・ケチャップはないだろう、ってことでトマトです。トマトも微妙なんですが。。。
 どうも私は自分が食べれない物を出すのが好きみたいです。エビなんて不可能。
 世の中厳しいですからね。好かれるばかりじゃないのは辛いですね。      (09/04/02)