ドリーム小説
面倒な仕事も終わり、今夜は綺麗な満月だ。
せっかくなので月見酒と洒落込もうと思っていたのだけど、酌み交わすはずだった相手が部屋に居なかった。
仕方ないので酒を片手にウロウロしていたら、使っていないはずの部屋に灯りが燈っていた。
この部屋は今日一度来ている。
巻物をポロポロ落とすという奴と共に。
「って梵?!夜中に何してんのー」
覗いてみたら主君が広げられた巻物に埋れていた。
ちらりと目を向けた政宗は巻物をポイと後ろに投げて廊に出てきた。
「Ah?お前こそこんな時間に何してんだ、成実?大体いつ帰ってきたんだ?」
「ちょっと俺を責めないでよー?俺はすぐ報告しに行ったんだからね」
乱れた着流しを叩いて皺を直し、政宗は成実の隣に座った。
成実は手に持っていたお猪口を手渡して徳利を傾ける。
「だから夜、付き合ってもらおうとしたのに居ないんだもん」
ぷくっと頬を膨らます成実を横目に政宗は口元だけで笑い、一気に飲み干した。
成実は成実で、部屋に散らかっている巻物をちらりと盗み見た。
「あの書物、梵が頼んだんだね」
ふいに変わった話に政宗も後ろの部屋を振り返る。
どこか楽しそうな成実の横顔に気付き少し目を細める。
酒を持ってくるなんてよっぽどな事があったんだろう。
ここまで嬉しそうなのが顔に出ているのは珍しい。
「まぁな。・・・成実、何かいい事あったのか?」
「ん?半々、かな」
複雑そうな顔をした成実は政宗のと自分のお猪口に酒を注いだ。
こんなのも偶にはいいかと深く考えずに政宗も受け取り、同じように酒に月を映して煽った。
しばらくの間、互いに黙って月見の宴を楽しんだ。
しかし、黙ってばかりもいられない二人はどちらからでもなく溜め息を吐いた。
「こんな日くらい美味い酒に酔っていたかったが・・」
「何言ってんの。城主がそれだと俺が困るわけ、おーけー?」
「チッ・・・OK」
コトンと廊にお猪口を置いた成実に政宗は膝を立てて向き直った。
嫌な予感がするから、この話題は避けたかったのだが。
「察しの通り、南部に不穏な動きあり。
詳しくは黒脛巾に任せるけど、現段階での首謀者の絞込みは難しいな」
「そうか・・」
「念のため上杉側に密書送っといた方がいいかも」
「Why?」
「俺の勘」
「勘、か」
政宗は深い溜め息を吐いて背後の巻物を覗き見た。
どうやら巻物を運ばせたのは無駄じゃなかったらしい。
喜んでいいものか、悪いものか、政宗は仕切り直したように自分と成実のお猪口に酒を注ぎ入れた。
これにて話は終了だと言わんばかりに成実はニパリと笑って酒に口を付けた。
それを見た政宗は苦笑して、同じようにきな臭い話を終わらせた。
すると不意に巻物の話に食い付いてきた成実を思い出して政宗は疑問を口にした。
「Ah、一つだけ巻物が握り潰されたように汚いのがあったんだが、お前何か知って・・」
思い出したように呟いた政宗の言葉は最後まで続かなかった。
「
ぶふぅーッ!」
その巻物は間違いなくが掴んで皺くちゃにした物だったが、成実はその過程を思い出してしまったのだ。
一方、何も知らない政宗は成実の口から酒が散布されるのを思いっきり見てしまった。
キラキラと振り撒かれた酒と笑い転げる家臣に沸々と怒りが湧いた。
前言撤回だ、There is no good thing.(ろくな事ねーじゃねぇか)
ムスッと眉間に皺を寄せた政宗は寝ると言って、成実の分の酒も飲み干して背を向けた。
「えー!待ってよ梵ー」
「梵言うな!」
成実の笑いのツボのはくしゃみを漏らして心配され、
まさか城主とその従兄弟の話題に上がっているとは露も知らない。
* ひとやすみ *
・閑話休題的な感じで名前変換が・・・。
成実さんは正式には従兄弟ではないんですが、
ここではそういう扱いと言う事でご容赦を!彼が入ると華やぎますね(09/03/20)